魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫12)


  第49話 戦う侍女戦士、オーガメイド誕生
原作者えのきさん

 マリーがリーリアの侍女に願いを託してから3日が経った。
 それまでの時間、マリーは悶々とした気持ちに悩まされながら動かぬ手足を見つめ続け
ていた。
 動けぬまま悩み抜く時間と言うのが、どれだけ長いものか・・・
 いつも明るく朗らかなマリーが、この3日間、一言も喋らずにリーリアからの返答を待
っていた。
 そして、願いが受け入れられる時は来た・・・
 
 傷ついた身体をベッドに横たえていたマリーの視線に、美しき淑女の顔が浮かぶ。
 美しき淑女リーリアは、アリエルへの修練を課していた途中であったのだろう、修練の
装いをしたままでの到来だった。
 穏やかに微笑むリーリアの姿に、マリーは期待と喜びを隠せない様子だった。
 「り、リーリア様。お忙しいとこをすんません。」
 リーリアは穏やかに頷きながら椅子に腰掛けた。
 「マリー、あなたの要望は侍女から聞きましたわ。その身体で変身能力を得たいとは、
まったく無茶を言う子ですわね。」
 その呆れた口調に、マリーは恐縮した顔をする。
 「あの〜、やっぱり変身できるようになるのは無理ですやろか・・・うち、こんな身体
やし。」
 するとリーリアは、真剣な眼差しでマリーを見つめる。
 「無理とは言ってませんわ。ただ・・・それを受け入れる勇気があなたにあるかです。
今の状態から即、変身能力を得たいと思うなら、肉体を捨てる覚悟をなさい。平穏なる人
生と決別する決意をなさい。その意志がないのなら、あなたに能力を授ける事はできませ
ん。」
 静かな口調だが、言葉には厳格なる重みがあった。
 マリーは心拍数の上昇と共に、自分が求めたものに対する重要性を思い知る。
 肉体も人生も捨てよとの言葉に秘められた事実とは?
 それがリーリアの口から語られる。
 「私は以前、闇の魔王様から即戦力となる人材養成についての検討を受けました。戦闘
経験の全くない者が、生身の身体で魔力を習得するには時間がかかりますので、戦士にな
る事を希望した者に特殊な改造を施せば即戦力となりうるとの事でしたが・・・提出され
た肉体改造のプランが余りにも非人道的な行為ゆえ、前例を設けず計画を封印していまし
た。これがその計画書ですわ。」
 リーリアはマリーに書類を見せた。
 その書類は、肉体改造計画の詳細と、具体的な内容を書き示した図面であった。
 文面は専門的で内容は詳しくわからないが、だが・・・その図面に描かれた絵を見て、
計画の異常性を知るマリーだった。
 カラクリ道具よりも遥かに精密な機器を、人間の身体に埋め込んだ絵・・・
 それが何を意味するか、マリーは驚愕した。
 「こ、これって・・・ま、まさか・・・生身の人間を・・・機械人間に改造するって事
では・・・」
 その言葉に頷くリーリア。
 「そうです。生身の人間を機械化する計画・・・それが(オーガメイド・プロジェクト)
なのですわ。」
 (オーガメイド・プロジェクト)・・・
 図面の上部にもそう記されている。
 さらに詳しく説明するリーリア。
 「機器には、あらかじめ戦闘プログラムが施されていますから、戦闘経験の全くない者
でも即戦力を有する戦士となりうるのですが、機械的な戦闘プログラムで戦う事になるの
で、精神そのものまで機械に委ねる事になります。それも理解してもらう必要があります
わ。」
 生身の人間を、血の通わぬ機械人間に改造する計画・・・まさに非人道的な、恐ろしい
計画と言わざるを得ない。
 リーリアが(肉体も人生も捨てよ)と言ったのはこの事だったのだ。
 マリーの背中に戦慄が走った。この計画を受け入れれば、自分は本当に人間でなくなる。
 「そんな・・・機械に改造されるやなんて、うちには・・・それより、そんな身体にな
ったら姫様がうちの事なんて思うか・・・あ、あかん・・・そんなこと・・・できしまへ
ん・・・」
 恐れおののいているマリーを見て、リーリアは言葉穏やかに語る。
 「機械化と言っても、身体を全部機械化しないのなら通常の生活を営む事はできますわ
よ。無論、全身完全機械化すれば戦闘能力は多大ですが、そんな事はアリエル姫が許して
くれないでしょう。」
 その優しい微笑みを見て、自分の心を見透かされた事を知るマリーだった。
 「あ、あの〜。うちの考えとった事わかったんですか。」
 「もちろんですわ、あなたは判り易い子ですから・・・機械に改造される事より、アリ
エル姫に拒まれる事を恐れているのでしょう?」
 図星を突かれ、恥ずかしそうに頷くマリー。
 肉体を捨てる事はかまわない。どうせ一度死んだ身だし、アリエルのために我が身を捧
げる事になんのためらいもない。
 でも・・・機械の身体となった事で、アリエルに・・・愛する友に拒否される事だけは
耐えられない。
 そんな事になって生き長らえるくらいなら、華々しく散った方がマシだ。しかし、リー
リアの言葉から、アリエルに拒まれる事態だけは避けられそうな感じがした。
 「ほな、身体の中だけ機械にする事もできるんですか?」
 「ええ、あなたは変装が得意でしたし、望んでいたのは変身能力ですから、それなら全
身改造の必要はありません。今まで通り、アリエル姫と愛し合う事もできますわよ。」
 「あ、あ、愛し合うやなんて・・・は、はずかしい〜。」
 顔を真っ赤にして恥ずかしがるマリーを見てクスクス笑うリーリアだったが、すぐに厳
しい顔に戻って尋ねた。
 「では、このオーガメイド・プロジェクトに同意しますか?」
 答えは一つだった。
 「はいっ、今すぐにでもっ。」
 「そんなに慌てないで、計画は慎重に進めねばなりません。あなたが最初なのですから、
肉体の反応なども調べないとね。」
 「うちが最初・・・あ、前例がないんやから、そうですわな。」
 「そう、あなたは無敵の侍女戦士(オーガメイド)第一号となるのです。」
 リーリアはマリーの手を握り、厳かにそう言った・・・
 
 その半日後からマリーの身辺は慌ただしくなった。
 多くの医師や機械技師達が病院に押しかけ、マリーの身体を入念に調べ始めたのだ。
 機械への拒否反応を確認し、肉体のどこを機械に改造するかも確認した。何しろ、最初
の機械戦士の改造手術を行うのだから、その下準備は慎重を期した。
 機械技師達が議論を重ねている間、医師達はベッドの上のマリーの身体を調べていた。
 ベッドに寝かされているマリーの身体に、どこをどう手術するかを示すラインが細かく
書かれており、各所に適応した機材の選出を機械技師達に指示している。
 忙しくしている一同を見て、まな板の鯉状態のマリーは心配そうな顔で医師に尋ねた。
 「なんや仰山なんですね。これからどないな事するかうち全然わからへんし。」
 その質問に、医師は作業の手を止めて説明をする。
 「じゃあ詳しく話そうか。君の内蔵はかなりの損傷を負っているので、そこを重点的に
改造する事に決定した。まず、損傷した内蔵を摘出し、それを補う人工内蔵と交換する。
その人工内蔵には変身能力を有するユニットも装備されているから、君は手術後、修練無
しに変身能力を身につける事ができる。この利点がオーガメイド・プロジェクトの最たる
所だ。」
 機器を手にしている医師の話からして、アリエルと共に戦いの場へ参加できる事が可能
であると知る。
 「姫様が戦いに出られるのは後20日ほどなんですわ。それまでに間に合いますか?」
 「ああ、ぎりぎりだがね。内蔵だけでなく、損傷した背骨と脊髄も交換せねばならない
から、完全に完治するには二週間以上は見てもらわないと。ちなみに背骨は非金属の物を
使用し、脊髄の神経はバイパス手術で接続する。人工内臓も肉体の拒否反応を抑える機能
もあるし、身体が完治すれば何の違和感もなく過ごせるから安心したまえ。あと、外部映
像入力機能を視覚神経と繋がなければいけないから、それで・・・」
 専門用語で長々と説明する医師に、少々苛立ちを見せるマリー。
 「す、すんまへんけど・・・難しい説明はそいでよろしいわ。できたら早よ手術しても
らえまへん?うち、こんな格好で見られたり弄られたりするの恥ずかしいんやけど〜。」
 全裸でベッドに寝かされ続けているマリーは、早く何とかしてくれと文句を言いたげだ
った。
 「あ、ああ、これは失礼。すぐにでも手術の準備をするよ。」
 慌てて咳払いした医師は、マリーの頭に手を当て、催眠呪文を使ってマリーを眠らせた。
 「・・・これで・・・目が覚めたらうちはオーガメイドに・・・ひめさま・・・おこる
かな・・・」
 迫る眠気に身を委ね、オーガメイドに生まれ変わった自分をアリエルはどう思うのだろ
うかと心配するのであった・・・


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