魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫12)


  第48話 マリーの苦悩と決断
原作者えのきさん

 アリエルとマリーが魔界に召されてから一週間が経過した。
 魔戦姫の城で治療を受けていたマリーは、順調な回復を見せていた。
 人間界でなら、とっくの昔に墓場行きとなっていたであろう。それを、驚くべき医療技
術を誇る魔界での献身的治療が、彼女を復活の時へと導いていたのだ。
 車椅子で看護婦に連れられたマリーは、リーリアの元で特訓を続けるアリエルの元を訪
れた。
 修練場で、激しい剣戟の音が響いている。
 瞬間移動術を駆使しながら、アリエルはリーリアと剣を交えて修練を重ねる。
 「はあはあ・・・やああーって!!」
 瞬間移動でリーリアの側面に移動し、剣を振り下ろす、が。
 
 ―――バシィーンッ!!
 
 動きを読まれ、逆に剣を弾かれるアリエル。
 「きゃあっ!!」
 転げたアリエルにリーリアの叱咤が飛ぶ。
 「移動先を目で追ってはなりませんよ。移動先を読まれたら、どんなスピードで挑もう
とも意味はありません、もう一度来なさい。」
 「は、はいっ。お願いしますっ!!」
 瞬間移動を繰り返し、アリエルは修練を重ねる。
 10日間の訓練により、常人を超える能力は使いこなせるようにはなっているが、まだ
瞬間移動での能力は完全でない。
 かなり疲労しているであろうが、アリエルは休みもとらず修練に勤しんでいる。
 その激しい姿に、マリーは苦悩を隠せなかった。
 「姫様・・・そんなに無理せんでもよろしいのに・・・」
 この前までは、動けないアリエルを守っていたマリーだったが、今度は自分が動けない
苦悩にさらされているのであった。
 腹部の損傷は激しく、臓器が完全に再生するまでには時間がかかる。
 しかも背骨を折って脊髄を損傷しているため、手足が自由に動かない。それ故に不自由
な車椅子生活を余儀なくされていた。
 辛い口調で看護婦に尋ねるマリー。
 「うちの身体、後どれぐらいで治るんですか?」
 「そうですわね・・・身体が治ってもリハビリが必要ですし、早くても半年以上はかか
るでしょう。」
 「半年・・・そんなに・・・そんなに待ってられへんわ・・・」
 できれば自分もアリエルの力になりたかった。でも、療養中の今は見守るしか術はない。
 歯痒さを堪え、修練場を後にしようとした時であった。
 自分以外で、リーリアとアリエルの様子を見つめている人物達に気がついて振り返る。
 それは、アリエルとマリーを救うためにリーリアに付き従っていた2人の侍女であった。
 「な、なあ看護婦さん。あの2人の所に行ってもらえまへん?」
 「ええ、いいですよ。」
 看護婦に車椅子を押してもらいながら、2人の侍女に声をかける。
 「あの〜、ちょっとよろしいですか?お聞きしたい事がありますねんけど。」
 恐縮した表情で訪ねてくるマリーに、無感情な動きで向き直る侍女達。
 「何か御用ですか。」
 動作のみならず、口調も素っ気ない。
 黒づくめのメイド服で身を包み、つばの広い帽子を被り、顔をベールで隠した彼女達は
どこか異質であった。
 彼女達は、他の召人とは違うリーリア直属の侍女である。その存在も実態も、全て闇に
包まれた人物なのだ。
 「御2人は変身の魔法が使えるって聞いたんですけど、どうやって変身する力を身につ
けはったんです?」
 唐突の質問に、侍女達は互いの顔を見合せ、そしてマリーに向き直る。
 「そんな事を聞いてどうするのですか?」
 またしても素っ気ない返事が帰り、マリーは戸惑う。
 「そんな事って、えーっと・・・まあその〜、うちも変身できる魔法を教えてほしいな
〜って思いましたんや。ほら、うち剣術とかできまへんし、そ、そやから・・・その・・・
剣とか鎧とかに化けれたら、うちは姫様のお役にたてるやろし、一緒に戦えるし、その・・
・」
 「つまり、変身能力が欲しいと仰るのですね?」
 「あ、そうそう、そうですねん。」
 回りくどく質問するマリーの言葉を、侍女達は単刀直入に解した。
 「私達は長年の修行で変身能力を会得しました。あなたにも会得は可能です。」
 「もし変身能力を得たいなら、怪我が直ってから修行なさるとよろしいですわ。」
 余りにもストレートな物言いに、マリーは焦った口調で口を開く。
 「うち、今すぐ変身できる力が欲しいんですっ。姫様と一緒に戦いたいんですっ!!な
んとかなりませんやろかっ?」
 興奮したマリーを、看護婦は慌てて宥めた。
 「落ち着いてくださいマリーさん。気持ちはわかりますが、あなたは怪我を治さなけれ
ばいけないんですよ、無理を言わないで。」
 「わかってますわっ、そやかて・・・姫様を1人で戦わせるやなんて、うちは辛抱でき
しまへんっ。今すぐ欲しいんですっ!!」
 あまりの真剣な眼差しに、侍女達も黙り込んだ。
 そして何か、2人で二言三言話し合った後、マリーに告げる。
 「そこまで言うなら、リーリア様に御相談してみましょう。」
 「ほんまですかっ!?おおきに、うれしいですわ侍女さん・・・あ、侍女さんてのはお
かしいですわね、お名前はなんて言うんです?」
 感謝を述べ名前を訪ねるが、侍女達は愛想なく答えた。
 「感謝して頂く必要はございませんわ、能力を得るも否もあなたの意志ですから。それ
に・・・」
 「私達に名前はありません。私達はリーリア様の影、リーリア様と共に生き、戦う侍女・
・・それ以外何者でもありません。」
 それだけ言うと、マリーの前から霞のように消え去った。
 感謝の言葉も受け取ってもらえず、マリーは溜め息をつく。
 「なんや愛想ない人達やな。いっつもあんなんですの?」
 看護婦も同じ思いらしく、マリー同様に溜め息をついている。
 「ええ、そうです。あの方達はリーリア様に古くからお仕えしているとしかわからない、
謎の人物ですから。」
 侍女の事を口にする看護婦だったが、彼女の気持ちは侍女よりもマリーに注がれている。
 強い意志で変身能力を望んだマリーの決意は、あまりにも無謀と言える事だったから・・
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