魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫10)


  第38話 迫るタイムリミット
原作者えのきさん

 逃亡の一行がノクターン軍と合流する日と、ゲバルドがグリードルに宣告された、マリ
エル捕獲猶予の日は、奇しくも同日であった。
 両者にとって絶対に譲れぬタイムリミットでもある。
 危機感をもって慎重に進む逃亡者と、それを猛火の如く負う追撃軍。しかし、逃亡者は
追撃軍の存在を知らない。
 その追撃軍が、逃亡者を絶対絶命の窮地に追い込む事になった・・・
 
 合流の日まであと1日。アリエルとマリーは、寝食も惜しんで目的地まで進んでいた。
 あと1日と言っても、期日の午前零時なので、正確には12時間後である。そして、そ
れまでの経過でガルダーン軍に見つかる事もなく、アリエル達は無事に逃げ果せていた。
 目的地までの道は、すでに馬も歩けぬ細い道であり、アリエルを担架に乗せ、マリーと
娘達が全員で担いで進んでいる。
 途中の峠まで来た一同は、アリエルの疲労を考えて小休憩する事にした。
 
 担架のアリエルを下ろしたマリーは、少し顔色の悪いアリエルを気使って声をかける。
 「どこか痛いところはありまへんか?まだ先は長いですよって、なんでも仰ってくださ
いね。」
 するとアリエルは、妙に恥かしそうな顔でモジモジ口篭もる。
 「あ、う・・・シッコ・・・たいの・・・」
 何かガマンしているらしく、時折、身体をプルプル震わせている。
 その仕草に、マリーは即座にガマンの理由を察する。
 「ああ、オシッコですね?そいやったら早よ言ってくださればええのに。」
 マリーに図星を突かれ、顔を真っ赤にするアリエル。
 「や、やだっ。そんな大声で言わないでっ。」
 「辛抱せんでもよろしいわ、お漏らししたら余計に恥かしいですやろ。ささ、スカート
脱いでパンツ脱いで・・・」
 アリエルの恥かしがるのも構わず、お尻丸出しの足を広げて抱き抱え、放尿を促すマリ
ー。
 「はい、しーしてください。」
 「もうっ、しーなんて言わないでよお・・・赤ちゃんじゃあるまいし・・・」
 
 ―――シャアア〜、
 
 文句を言いながらも、盛大に放尿をする。かなりガマンしていたらしい。
 マリーは逃亡中、動けないアリエルを甲斐甲斐しく世話していた。それこそ食事から身
の回りに、お下の方まで全部である。
 やはり権威ある姫君が、大の後始末まで世話してもらわねばならないのは極端に恥かし
く、アリエルはまだモジモジしている。
 「でも・・・マリーにお世話してもらえるなら、嬉しいですわ・・・」
 「なんか仰りました?」
 「ううん、なんでもないの。」
 アリエルは、優しいマリーになら一生お世話してもらってもいいと思っていた。マリー
も暗黙の了解で友の心を理解し、何も言わず微笑むのであった・・・
 
 小休憩も終わり、峠から目的地の方向を見たマリーは、時間までに合流地点に辿り着け
る事をアリエルに告げた。
 「これやったら、なんとか時間に間に合いますわ。後は、王子様とへインズ提督が間に
合ったらですけど。」
 その言葉を黙って聞いているアリエル。自分が助かる事よりも、弟マリエルが無事かど
うかを心配しているのだ。
 愛しいマリエルは無事で、もうすぐそこにまで来ている。できれば、ガルダーン軍を蹴
散らして、今すぐ迎えに行きたい・・・
 しかし・・・手足の全く動かぬ彼女にできる事は何も無い。
 歯痒さと悲しさが同時に込み上げ、辛く涙を流すアリエルを見て、マリーも同行の娘達
も悲しい気持になった。
 アリエルの気持を想った娘の1人が、思い立ったように口を開く。
 「私の知り合いに、とっても腕の良い外科医がいるんです。姫様よりも酷い怪我を負っ
た私の叔父が、そのお医者さんの治療で完治しましたから、きっと姫様も・・・」
 多少誇大した言い方ではあったが、アリエルの心に一筋の希望をもたらすに十分であっ
た。
 「ありがとう・・・私は必ず元の身体を取り戻してみせますわっ。そして、必ずアリエ
ルをこの腕で抱きしめるの。絶対に・・・」
 その希望ある言葉に、一同は笑みを浮べた・・・
 
 やがて夕刻になり、辺りは暗闇に包まれる。
 早く、1秒でも早く目的地に・・・
 最小の灯りを頼りに、アリエル達は目的地を目指す。緊張と希望が重なり、皆、沈黙を
したまま進んでいる。
 辺りを見回せる場所まで来た時、アリエル達はマリエルとミュートの人々がいないかを
調べた。
 マリエル達が無事ならば、もう視界に入る位置まで来ているはずだ。
 目を凝らして暗闇を見つめる・・・
 その暗闇に、希望の光が見えた!!
 ユラユラと揺らめく多くの炎。間違いなく、ミュートの人々の翳す松明の灯りであった。
 緊張が解け、不安が希望へと変わる。アリエル達は、喜び勇んで灯りを目指した。
 「姫様っ、助かりましたよっ。」
 「ええっ、マリエル、今すぐ行きますわっ!!」
 茂みを掻き分け、灯りを目指すが・・・突如として、その歩みが止まった。
 ミュートの人々の後方から、多くの邪悪な炎が、無数に浮かび上がったのだ!!
 アリエルは邪悪な炎の正体を知って絶句する。
 「が、ガルダーン軍ですわっ。マリエルーッ!!みんなーっ!!早く逃げてええーっ!!
」
 しかし、その声は届かない・・・
 絶体絶命の危機が、一同に襲いかかろうとしていた!!



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