魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫10)


  第37話 アリエル、マリエルに迫る危機
原作者えのきさん

 アリエル姫が逃亡しているその頃、マリエル王子もリケルト領を目指していた。
 数十人からなるミュートの民とへインズ提督に護られ、順調に進んで行く。しかし行く
手には数多くのガルダーン兵がひしめいており、油断ならぬ進行を強いられていた。
 その緊張感をもっとも感じているのは、他ならぬマリエル本人だった。幼い身体に課せ
られた使命は重く、マリエルの顔に再び暗い影が過っている。
 へインズ提督に背負われているマリエルは、不安な目で行く先を見詰めていた。へイン
ズは、ミュートの人々が安全に進行できるよう、懸命な指示を出しており、心痛なマリエ
ルにまで気が回らない状態であった。
 「みんな、できるだけ少数で進むように。斥候部隊がどこで目を光らせているかわから
ないぞ。」
 へインズの顔にも疲労が蓄積されている。歴戦の猛者である彼でも、休み無き逃亡は辛
いのであった。
 汗を拭うへインズに、彼の親友であるゲンカイが声をかける。
 「へインズ、ぬしはだいぶ疲れとるったい。王子様はオイと女房に任せて、少し休みん
しゃい。」
 「ああ、すまない。でも気持は嬉しいが、私は休むわけには・・・」
 しかしへインズの顔色は悪く、気を使ったゲンカイと彼の妻にマリエルを任せる事にな
った。
 ゲンカイに背負われたマリエルが、心配そうにへインズを見ている。
 「ねえ提督、大丈夫なの?この前から全然寝てないでしょう。」
 「お気使いありがとうございます。王子様の御心だけでこのへインズ、いかなる苦労も
苦になりませんぞ。」
 笑顔で答え、再び人々に指示を出すへインズ。
 マリエルは辛そうに彼の後姿を見た。それに心配なのはへインズだけではない。姉アリ
エルを救うため、単身ガルダーンに向ったマリーの事も気になる。
 「提督・・・マリー・・・姉上・・・大丈夫かな・・・」
 背中で辛そうに呟くマリエルに、ゲンカイは優しく声をかける。
 「なあ王子様、クジラば見た事はあると?」
 不意にそんな事を尋ねられ、マリエルはキョトンとした。
 「クジラ?ううん、見た事無いよ。クジラって大きいんでしょう。」
 マリエルの問いに、大げさに手を広げクジラの話をするゲンカイ。
 「そうたい、オイの家より大きかよ。船でも飲み込む程の口ば開けて、イワシの大群を
丸呑みにするの見た事があるばい。」
 「わあ、すっごいね。海にはいっぱい魚がいるんでしょう?もっと聞かせて。」
 「良かよ。海で一番大きいのがクジラばってん、一番泳ぐのが速か魚がカジキたいね。
オイは3日3晩かけて仕留めたことがあるとよ。」
 「本当っ?スゴイね。それで、それで?」
 喜ぶマリエルの頭を、ゲンカイの妻が優しく撫でる。
 「王子様、すっかり海の話が好きになったとよ。私達も・・・王子様みたいな良か息子
が欲しかったばい。」
 ゲンカイ夫婦には子供がいなかった。故に、マリエルが本当の息子のような気がしてな
らなかった。
 そんなゲンカイ夫婦に守られ、マリエルは束の間の安らぎに身を委ねるのであった・・・
 
 アリエル、マリエルの姉弟がリケルト領に向っている頃、ノクターン軍の動きを察知し
たゲバルド将軍が動き出していた。
 グリードル帝から処刑宣告されていたゲバルドは、マリエルを捕えれる(かもしれない)
悦びに狂気乱舞し、自軍の兵を総員集結させて進軍を開始する。
 「ぐはは〜っ!!行け行けてめえら〜っ!!絶対にマリエルを逃がすンじゃねえぞおお
〜っ!!」
 下品な声をはり上げて兵士に檄を飛ばしているゲバルドに、さらなる歓喜の報告が飛び
込んで来た。
 「将軍っ、先ほど本国から情報が来たのですが、アリエル姫が脱走したそうです。逃げ
た地域からして、マリエルの元へと逃亡中ではないかとの事でありますっ。」
 その報告に、ゲバルドの目が光る。
 「なに〜、アリエルに逃げられたって事は・・・ガルアとガラシャの2人がミスしやが
ったってことじゃねーか。こいつはいいっ、アリエルもついでに捕獲したとなりゃあ、俺
様の元帥昇格は間違いなしだぜ〜っ!!」
 ゲバルドの覇気は凄まじいまでに高まり、全軍が巨大な獣の群れの如く蠢き出す。
 その凶悪な獣どもが狙う獲物は・・・アリエルとマリエル!!
 しかし2人は今だ気付いていない。
 狂獣が背後から襲いかかろうとしている事実に・・・



次のページへ
BACK
前のページへ