魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫6)


  第16話 神を冒涜した国、神に見捨てられた姫君
原作者えのきさん

 
  薄暗い牢獄から城外に出されたアリエルは、明るい光に目を眩ませる。
 しかし、その光はアリエルにとって希望の光ではなかった。
 城の外には、ガルダーン軍の兵士や市民が集まっており、晒し首状態のアリエルは多く
の視線に晒される羽目になった。
 その視線は・・・邪淫と好奇に満ちている。誰もアリエルに同情する者などいない。
 孤立無援のアリエルは、逃れる事もできず陵辱の行われる広場へと連行される・・・
 
 ゴージャスにして贅沢極まりないガルダーン城から離れて行くに従って、街は刻々と変
化していった。
 城の周囲は貴族などの金持ちの住宅街で占められ、身分の低い一般市民は劣悪な環境の
地区に押し込められている。
 段階式に区切られた身分階級は、弱肉強食のガルダーン帝国にピラミッドの如く君臨し、
下流階級の民は上流階級から容赦ない搾取を強いられていた。
 弱き者が蔑まれるこの国では、優しさも良心も芽生えない。
 強者は弱者を虐げ、弱者は強者を怨み、妬み、さらに弱い存在を餌食にする。
 そして今現在、最も弱い存在なのが・・・敗国の姫君アリエルであった。
 木箱から首だけ出した状態で晒し者にされているアリエルに、数多くの視線が集中する。
 アリエルは身震いした。その視線は老若男女を問わず、全て、侮辱と軽蔑、そして怨み、
辛み、妬み、嫉みの感情に支配されていたからだ・・・
 日頃の鬱憤を晴らすべく、アリエルに卑猥な罵声を浴びせる者、無言なる侮蔑の視線を
向ける者、晒された美しい顔に嫉妬の感情を露にする者・・・
 あまりにも荒んでいた・・・
 噂には聞いていたが、これほどまでガルダーンの民は心が病んでいるとは思わなかった
アリエル。
 だが、今は民に同情する余地はない。
 自分は狼の群れに投げ出されたヒツジであるからだ。飢えた狼の邪笑いが、アリエルの
精神を蝕んでいる。
 そして・・・恐怖の刑場へと到着した。
 
 そこは(かつては壮麗だったろう)大きな教会の跡地であった。
 瓦礫の散乱する広場の中央には、殆ど廃墟と化した教会が建っており、以前は敬虔な信
者達が礼拝に訪れていた事実を物語っている。
 しかし・・・今は違っていた。グリードルの恐怖政治によって民は神をも信じなくなり、
教会は神を罵る事で己の不幸を慰める場所と化していた。
 グリードルが帝になる以前は、平和で温和だったガルダーン帝国。今は神を冒涜する強
者が横行する堕落した国・・・
 この国には、もはや神は存在していなかった・・・存在するのは狂った悪魔のみ・・・
 その教会の広場に、崇高なる聖人を奉った十字架が設けられていた。
 青銅でできた十字架には、かつては磔の聖人像があったのだが、しかしその像は破壊さ
れ、残骸が地面に転がるのみだ。
 その聖人像の頭部を踏みつけ、2人の悪魔がアリエルを待っていた!!
 「クックック・・・アリエルよお〜、昨夜は良い夢を見れたかあ〜?」
 「フフフ・・・悪夢はこれからが本番なのさ、覚悟するのね。」
 邪悪に笑う2人の悪鬼は・・・ガルアとガラシャだった。
 昨日の悪夢も覚めやらぬアリエルは、恐怖を隠せない様子でガルア達を見た。
 「・・・この茶番の主催者は、やはりあなた達だったのですねっ。私を辱めたくらいで
は気が済まないのですかっ!!」
 叫ぶアリエルだったが、木箱から首だけ出した状態では口を動かす事しかできない。
 2人の悪魔は、蔑みの目で拘束されたアリエルを見る。
 「フッ、良い恰好じゃねーか。晒し首が似合ってるぜ。」
 「あんたを地獄に堕とすまで私達の怨みは晴れないわ、民どもの前でヒィヒィ泣き叫ん
でもらうわよ。」
 「こ、この悪魔っ・・・」
 いくら睨もうとも、虜囚の身に逆らう術はない。そして怒りよりも、恐怖の方が増加し
ていく・・・
 そして、アリエルを連行したブレイズが、へコヘコと頭を下げてガルア達に挨拶した。
 「うへへ、これはこれは両将軍。ご機嫌麗しゅうでやんすな。」
 「おう、おかげで気分は上々だぜ変態芸術家。ところで仕込みのほうは忘れずにやった
か?」
 「へいへい、それはもう十分に。もうしばらくしたらアリエル姫は我慢できなくなると
思うでやんす。」
 ブレイズの言葉に、ガルアはニヤリと笑う。
 「もうしばらくしたら、か。フフフ、こいつは見物だぜ。」
 「楽しみでやんすね〜♪すでにあちきの(弟子)どもも待機させてますンで、頃合にな
ったら参上いたしやす。」
 意味ありげな事を言うと、ブレイズは一旦下がった。
 そして再びアリエルに向き直ったガルアは、義手を外すと戦斧を腕に装着した。
 「そんなとこに閉じ込められてたら窮屈だろう?今出してやるぜ〜。」
 動けないアリエルの頭に戦斧を突き付けるガルア。アリエルの顔から血の気が引いた。
スイカのように粉砕される自分の頭部が脳裏に浮かぶ。
 「は、あああ・・・い、いや・・・」
 頭上高く振り翳された戦斧が唸りを上げ、アリエルを拘束していた木箱を粉砕する。
 「うあっ。」
 悲鳴を上げたアリエルが地面に転がり、鎖で縛られた裸体をガルアは足蹴にした。
 「せっかく出してやったんだ。礼ぐらい言ったらどーなんだ、ああン?」
 グリグリ踏み付けられるアリエルの横に、無惨な聖人の像が転がっている。神を冒涜す
るガルダーン帝国のさまに、アリエルは声を震わせた。
 「か、神をも恐れぬ輩とはあなたの事ですわね・・・天罰が下ればいいのですわっ!!」
 「ほう、天罰かよ。1つ教えてやらあ、この世に神なんぞ居やしねーンだよ。それに、
おめえは戦女神って呼ばれてたよなあ、今ここで女神さまの敗北した姿を晒してやるぜっ。
」
 吠えたガルアは、手下達に青銅の十字架を外すよう命令する。それに従った手下が、数
人がかりで重い十字架を運んで来た。
 そしてガルアの目配せに従い、アリエルを十字架に縛りつけた。
 錆びた青銅の十字架に拘束され、横たわるアリエル。
 「こ、こんな・・・私を晒し者にするつもりですかっ!!」
 「そーとも、美しき女神様の裸、存分に拝んでもらえやっ。」
 手下達が十字架を持ち上げて元の場所に掲げた。
 十字架に磔られた美しき全裸の女神・・・その哀れな姿に、ギャラリーの視線が集中し
たっ!!
 「あ・・・ああ・・・」
 全身に冷たい視線の嵐を浴び、アリエルは声を失った。
 昨日の貴族達よりも遥かに多い視線の集中砲火・・・まるで全身の力を奪い取られるか
のような感覚に翻弄される・・・
 全身を震わせているアリエルの背後に周ったガルアは、さらに惨めな姿を晒そうと歩み
寄った。
 「もっと恥かしい恰好にしてやるぜ、ご開帳だ〜っ。」
 足を掴んだガルアが、アリエルの秘部を丸見えにしてしまった。ギャラリーが歓喜の声
を上げ、アリエルは泣き叫ぶ
 「い、いや・・・見ないで・・・おねがい・・・みないでぇっ!!」
 その晒し者にされた姿・・・まさに敗北し、堕ちた女神の姿であった・・・ 


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