魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(7)


第20話 無敵の姫君、魔戦姫アンジェラ誕生!!
原作者えのきさん


 彼は壮大なる歴史絵巻の支配者であるかの如く悠然と立ち、私に語ります。
 「強き者憚りし時、敗残の地に弱き者の涙あり。姫君はこの世で最も美しく、そして弱く儚き存在なり。多くの民に愛された麗しの姫君こそ、奢り昂ぶる強者どもの最高の戦利品となりうるのだ。」
 移り行く映像は、虐げられた弱者の悲劇を物語っています。
 弱者を喰らって力を得た強者は、底無しの欲望を滾らせて破壊と侵略の限りを尽くし、さらに悲劇を繰り返しました。
 しかし・・・どこまでも続くかに見えた強者の横行が突如、闇の姫君の登場によって止められたのです。
 迫りくる大軍勢にも怯まず、正義の剣で猛り狂う者どもを屠る闇の姫君の力・・・まさに最強無敵!!
 虐げられた者の無念と悲しみを背負い、完璧なる美しさで迫る姫君。暴虐に狂った悪党に最後の時が来ました。
 (奢れる者も久しからず・・・ただ春の夜の夢の如し・・・猛き者も遂には亡びぬ・・・)
 平家物語の一節の如く、愚かなる悪は怒れる正義の鉄槌にて滅せられたのです。
 こうして、一つの伝説を造り上げた闇の姫君は、救われた人々に名も告げず去って行きました・・・
 時は過ぎ、やがて人々は救世主の事を、こう呼ぶようになったのです。

 ---魔の戦う姫君・・・

 歴史絵巻は、ついに最後のシーンとなりました。
 それは・・・バール・ダイモン率いる魔族の軍勢によってノクターン王国が乗っ取られ、救援に向った武神の兵団と・・・そしてこの私が破滅する場面だったのです。
 目の前で繰り広げられる悪夢のシーン・・・私の脳裏に、地獄の記憶が鮮明に蘇りました!!
 「い・・・いやあああーっ!!やめてっ、やめてえええーっ!!」
 脳髄を抉り取られるかの如き衝撃に襲われ、耳を塞ぎ、絶叫する私・・・
 そして歴史絵巻の終了と共に、再びダークは私に語ります。
 「虐げられた者どもの悲しみを背負い、自らの怒りを刃に変えて悪を切る闇の姫君・・・彼女達こそ最強と呼ぶに相応しい存在だ。闇の力に飲み込まれぬ強き精神力、それは怒りと悲しみ、そして民を想う心から生ずる。アンジェラよ、純真なる優しさを持つお前こそ、真の最強者となる資格がある。怒りを刃に、悲しみを力に変え、今こそ生まれ変わるのだっ!!」
 ダークの身体から沸き上がる闇のパワー。それを掌に集中させ、私に向って放ちました。

 ーーードヴゥオオオーッ!!

 私の胸に直撃する凄まじい衝撃!!
 それは・・・幾千幾万もの虐げられた者達の怒りと悲しみが込められた闇の波動だったのです。
 先程ダークがジャローム親子を倒した力、それも虐げられた人々の念を闇の力に込めて使用したと推測できます。
 恐るべき闇の波動が私の胸を貫き、心臓を禍々しい闇の臓器へと造り替えました。
 凶悪に鼓動する闇の臓器・・・それが私の全身に黒い血を送り込んできます。

 ---ドクッ・・・ドクドクッ・・・

 血管を通し、隅々まで黒い血に浸食された私の肉体は全て闇の物質に変化しました。
 そしてドス黒く染まった私の裸体が・・・木っ端微塵に砕け散ったのです!!
 身体が砕ける瞬間、私は衝撃で飛ばされたミルミルがダークに受け止められるのを見ました。
 「ひめさまあああぁぁぁ・・・っ。」
 悲しく叫ぶミルミルの声が・・・こだまのように私の心に響きました・・・
 身体も精神も・・・全てが粉々になって・・・闇の中に吸い込まれました・・・
 これによって・・・戦女神アンジェラと言う存在は、完全に消え去ったのです・・・

 漆黒の闇の中を、何も感じぬまま漂う私・・・
 身体と精神は砕けても、唯一砕けていないものがありました。それは私の心であります。
 人を愛する心、愛する者を想う心・・・それだけは壊れる事なく残っています。
 悪魔に魂を売ると言いますが、愛も心をも売る愚か者の所業をそう呼ぶのでしょう。魔に身を委ねたとはいえ、私の心と愛は一片も失われておりません。
 やがて、純粋な愛の宿った心を核にして新たな肉体が構築され始めました。
 強固な骨格に無敵のパワーを発揮する身体。そして無限に魔力を産み出す心臓が激しく鼓動します。
 肉体だけではありません、最強の肉体を行使する知識が私の頭へと洪水のように流れ込んできました。
 それは戦うための知識・・・
 格闘、戦闘の技術。さらには軍隊を指揮する戦術。呪術による戦魔法術など・・・
 まさに私の身体は、戦うためのものとなったのです。
 この戦うべき力の源を知った時、私は愕然としました。
 かつて悪しき強者どもと戦い、無念に散っていった戦士達の力だったのです。
 私の心に・・・幾千幾万の戦士達の想いが届きました。
 (・・・我が戦術の全てを・・・そなたに授けようぞ・・・)
 (・・・俺は無敵の剣士だったんだぜ・・・俺の剣術で敵を倒すんだ・・・)
 (・・・オラは国で一番の力持ちだったべ・・・オラの力をあんたにやるだ・・・)
 知識と技術と剛力が一体となり、私を無敵の存在にします。
 そして・・・罪無き人々の愛と慟哭が、私の心を震わせました・・・
 心技体、全てが完璧となった最強の身体が美しい輝きを放ち、闇の姫君が誕生しました!!
 溢れんばかりの力が漲り、私は哮る獅子の如く鬨の声をあげます。
 「うあああーっ!!私は無敵・・・私は闇の姫君ーっ!!私は戦う・・・全ての悪を滅ぼすためにーっ!!」
 私の叫びに応えるかのように、ダークの声が響いてきました。
 『・・・そうだっ・・・お前は生まれ変わった。もはやお前は戦女神にあらず、過去の全ては闇に消えたのだ。』
 雷鳴が轟き、私に新たなる二つ名が授けられました。
 ・・・最強を司るその名は!!
 『今日よりお前は魔の戦う姫君・・・目覚めよ魔戦姫アンジェラッ!!』

 ---魔戦姫・・・

 今ここに、新たなる闇の姫君の伝説が始まったのです・・・
 闇で語り継がれる物語・・・
 人はそれを、(魔戦姫伝説)と呼びます・・・



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