魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(7)


第19話 古の時代より語られし闇の姫君の伝説・・・
原作者えのきさん


強大なる闇の力を有する異世界・・・魔界。
 その魔界の支配者、闇の魔王の導きにより、私は無敵の存在に生まれ変わる事となりました。
 卑しき悪を滅する最強の力を得れば、数々の無念を全て晴らす事ができる・・・
 しかし、何かを得るためには、それに見合うだけの代償を払わねばならないのが世の常です。
 金品で支払うか、身体で支払うか、魂で・・・支払うか・・・
 いずれにせよ、得ようとする事の大きさに比例して、支払う代償も大きくなります。
 私は最強の力を得るために、姫君としての華やかな過去、安らかな日々を代償にしました。
 最強者になること・・・それはあまりにも辛く、そして悲しい宿命を背負う事に他ならないのです・・・


 魔王の巨城にて、暗黒のブラックホールに吸い込まれた私とミルミルは、闇の最深部へと向いました。
 どこまでも続く暗黒の世界・・・
 やがて宙に浮くような感覚に翻弄された私は、闇の最も深い場所へと辿り着いた事に気付きました。
 周囲は全て無明の闇・・・胸に抱いているミルミルの顔すら見えません。
 互いの温もりだけを心の支えに抱きあっていた私達の眼前に、蒼く輝く(星)が現れました。
 紺碧の海と豊かな大陸の広がる、とてつもなく巨大な(蒼い星)・・・
 「・・・こ、これは・・・?」
 (蒼い星)を見つめていた私は、これこそが人間の住まう世界の全てだと知りました。
 そして・・・闇に浮かぶ蒼い星の過去の壮大なヴィジョンが、私達の前に映し出されたのです・・・

 太古の蒼い星に生命が誕生し、それ等が数々の進化を繰り返して巨大な恐竜や雄々しき獣達へと変わっていく映像が、ものすごいスピードで目の前を過ぎて行きました。
 やがて過去の刻の流れが緩やかになり、人間が蒼き星を支配する時代へと移りました。
 原始的な生活を営んでいた人間は、農作物を育てる手段を得て集落で生活を始め、文明の発展と共に集落を拡大させて(国)を造り上げました。
 国は民を導く指導者によって統治され・・・指導者は王を名乗って国に君臨しました。
 そして民に慕われた王と妃の間に、玉のような可愛い子女が産まれたのです。
 そう・・・姫君の誕生であります・・・
 姫君は多くの民達に愛され、美しく汚れなく成長しました。
 民を見守る麗しの瞳は優しさと慈悲に満ちています。民は姫君の栄誉を讃え、愛の唄を捧げました。
 豊かで安らかな国の繁栄は、姫君の愛によって恒久に続くと・・・思われました・・・
 しかし、歴史は非情な運命を姫君の国にもたらしたのです!!
 晴れ渡っていた空が突如暗雲に覆われ、侵略者の足音が姫君の国に迫りました。
 平和だった国が侵略者の軍勢によって蹂躙され、数多の民の悲鳴が轟きます。
 王は民と国を守ろうと奮戦しましたが、侵略者の猛攻に倒れ、非業の最後を遂げました。
 凶悪な侵略者は、王の首を掲げて高笑い・・・そして民が最も愛した姫君を毒牙にかけたのです!!
 汚れない姫君の身体は、邪悪な欲望の餌食となり・・・侵略者のみならず、多くの卑しい兵達にまで蹂躙されました・・・
 そしてボロクズと成り果てるまで犯し汚された姫君が見たのは・・・愛した国が悪しき炎に包まれ、無残に滅びゆく姿でした・・・
 全てを奪い尽くされ、地獄の底に叩き堕とされた姫君の絶望は計り知れません。侵略者の邪笑いが姫君の心に怒りを呼び、泣き叫ぶ民の慟哭が悲しみを呼びました。
 そして、絶望により神に縋る心を失った姫君は、神と対極の者に助けを乞うたのです!!

 ---魔の王よ・・・私に力を・・・弱き私に、闇の力をお与えください・・・悪を倒す力を授けてください・・・

 悲しき叫びは闇に届き、それに応えた魔の王が姫君に無敵の力を授けました。
 やがて・・・愚劣な宴に酔い痴れる侵略者の前に、美しき闇の姫君が姿を現したのです。
 輝く戦装束に黒い翼を身につけた闇の姫君は、怒りと悲しみの宿った正義の剣で侵略者どもを倒しました。
 闇の姫君に救われた民達は、その正体が愛する姫さまであると知り、歓喜の声で迎えましたが・・・姫君はただ悲しく微笑むのみ・・・
 魔に魂を捧げた姫君は、もはや民達と手を携えれる存在ではなくなっていたのです。
 我らの元に帰ってくれと叫ぶ民達に手を振り、涙を流して別れを告げた姫君は、闇の中へと消えて行きました・・・
 姫君が去ったあと時代は流れ、復興を遂げた国に一つの伝説が産まれました。
 悪しき侵略者から民を救った姫君の伝説です。
 古の物語は幾千年もの間、密やかに語り継がれる事となりましたが、伝説はこれだけではなかったのでありました。
 再び時間の流れが加速し、国々の歴史を物語る映像が私の前に映し出されました。
 華やかなる国々の歴史、しかしそれは争いと陰謀の歴史でもあります。

 国と国の戦争・・・それはこの世で最も悲しむべき事・・・
 戦争で負けた国の運命は悲惨であり、その中で最も過酷な定めを強いられるは敗国の姫君でした。
 負けた国の王の血筋は一滴も残さない、これが勝者の決めた理不尽な掟であります。王の一族は、男は皆殺しにされ、婦女子は・・・苛烈な陵辱に弄ばれて地獄に堕とされました・・・
 戦争だけでなく、陰謀を懐いた家臣の下克上、王位を奪おうと画策した一族の裏切り、そして愚劣な悪党の横行・・・どの場合においても、最後に最悪の責め苦で破滅に追い込まれるのは姫君です。
 悪の餌食となって果てる姫君の、悲しき叫びが流れては消えて行きます。
 姫君の慟哭が闇に轟くたび、連綿と続く歴史の中に新たな伝説が産まれました。
 それは全て、悪を倒し民を救った闇の姫君の伝説です。
 決して表に出る事のない、暗黒の伝説・・・そのヒロインとなる闇の姫君達がある時、世界各国から集い、一つに団結しました。
 強く美しく、そして威厳に満ちた彼女達の姿は、まさに伝説の姫君と呼ぶに相応しいものでした。
 彼女達は古今東西の様々な民族で成り立っており、その容姿や衣装も多種多様です。
 美しいドレスを着飾った姫君、勇ましい戦装束に身を固めた姫君、東洋の雅な羽衣を纏った東洋の姫君、褐色の肌にエスニカルな民族衣装の姫君、鷲の羽根飾りと鮮やかな毛皮を身につけている姫君・・・
 民族も多様ですが、文化的、宗教的にも異なっており、中には占術師のようなスタイルの巫女姫もおりました。
 異種の容姿と価値観を持つ姫君達に共通しているのは・・・皆、凄惨な陵辱を受けた果てに魔と契約し、闇の姫君となった事です。そのためでしょう、闇の姫君達の団結力は親族の結束よりも強固でありました。
 そんな壮絶な過去を背負っている彼女達と、バール・ダイモンに犯し汚された私との境遇が一致し、体中に興奮の震えが走るのを感じました。
 「・・・やみのひめぎみの・・・でんせつ・・・」
 そう呟いた時、映像の前に突如、黒いマントを翻してダークが姿を現しました・・・



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