魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(5


第16話 戦女神を導く闇の宿命・・・
原作者えのきさん

               
 そんなダークを見つめていた私の耳に、割れた瓶の下敷きになっていたゴモラの喚き声が飛び込ん
できました。
 「やいやいっ、こ、この黒服野郎っ!!よ、よ、よぐもおれを蹴っ飛ばしてぐれたな!?お、お、
おとし前つけてもらおーかっ、ゴルアッ!!」
 憤慨して喚き散らすゴモラでしたが、ダークは相手にすらしていません。
 私を見つめ、そして背中に背負ったロングソードを抜いて言いました。
 「俺がどんな男か、その目で確かめるが良い。」
 構えたロングソードから黒い光が放たれ・・・全ての悪を震撼させる恐怖の魔剣へと変貌を遂げた
のです!!
 その刃には・・・愚劣な悪党の餌食にされた者の怨念が宿っていました。
 (・・・アクトウヲ、ヤッツケテ・・・カタキヲ、トッテクレ・・・ワレラノ、ムネンヲ、ハラシ
テクレッ・・・)
 黒い刃に浮かぶ、恨みと悲しみを宿した顔・・・それは悪党が最も恐れる存在・・・
 その怒りと悲しみの力を剣に宿し、全ての無念を晴らすべくダークは身構えました。
 「お前如きに披露するのは惜しいが・・・見せてやろう、魔界最強の剣、黒魔剣の威力をっ。」
 立ち上るは、偉大なる闇のオーラ。
 ダークは私に、闇の真の姿を見せてくれたのです。
 そして剣の切っ先を向けられたゴモラが、敵意も剥き出しにして突進してきます。
 「んがああ〜っ!!ぶっ潰しでやる〜っ!!」
 闇の偉大なる姿を目の当たりにして、ジャロームは激しく狼狽しました。
 「あ、あれは黒魔剣・・・と言う事は・・・やめるんじゃゴモラ〜ッ!!そいつは、ぢゃなくて、
その御方はああっ!!」
 叫ぶも遅く、魔剣は唸りを上げて悪を切ります!!

 ---ヴァシュッ!!

 目にも止まらぬ剣戟は、拷問室を・・・いや、空間そのものを両断したのです。
 ガコンと言う音が響き、部屋全体が横にずれて傾きました。それと同時に、魔剣の剣戟をまともに
喰らったゴモラも真っ二つになりました。
 「うっぎゃあ〜っ、い、い、いでぇよおお〜っ。」
 切り裂かれたゴモラの巨体が床に転げます。
 なんとも異様な光景でした、切り別れた下半身がトカゲのシッポみたいにバタバタ暴れているので
す。胴体を切られてもなお、生きたまま激痛でのたうち回る・・・これほどの責め苦がありましょう
か。
 いや、悪しきゴモラはそれだけ悪行を重ねていたと言うべきでしょう。
 そして両断された拷問室の壁がゆっくり開き、そこに・・・恐ろしい光景が出現したのです。
 そこは(地獄)でした。無明の世界に、無数の亡者がうめき声をあげて蠢いています。やがて壁の
裂け目から幾つもの亡者の手が出てくると、床で転がっているゴモラの体を掴んで地獄へと引きずり
込みました。
 「・・・オオ〜ン・・・ゴ〜モ〜ラ〜、ジゴクニクルノダ〜。」
 「あひ〜んっ、ジゴクだなんてやだああ〜っ!!だ、だ、だじげで〜っ!!(泣)」
 泣き叫ぶゴモラが地獄に引き込まれると、切り裂かれていた空間が元に戻り、拷問室は何事もなか
ったかのように静かになりました。
 ロングソードに戻った魔剣を、無言のまま背に収めるダーク。
 強い・・・
 彼は、無敵どころではありません。本物です、紛う事なき最強の男です。
 いま私の前で披露した技はおそらく、実力の1000分の一程度・・・いや、10万分の一もない
かもしれません。
 彼にしてみれば、指先の動作にもならない事だったでしょう。もしも、彼が本気を出せばどうなる
か?思考の領域を遥かに超えています。恐ろし過ぎて考える事もためらわれます。
 そのダークの足元に土下座したジャロームは、懸命になって許しを乞いました。
 「おゆ、おゆ、るるしくだしませ・・・あいや、わ、わ、わたしめはバール・ダイモンのアホにそ
そのかされ、でわなくて・・・いやあの・・・わたしは悪くございませ〜んっ!!バール・ダイモン
に天界侵略を無理やり命じられたんですう〜っ、ど、ど、どうか、どうかご容赦を〜っ!!」
 従っていたバール・ダイモンを名指しでアホ呼ばわりし、卑屈なまでに平謝りする有様は只事では
ありません。ダークがそれほどまでに悪党に恐れられていると言う事でしょう。
 しかし、絶対的最強者は卑屈な悪党をゴミクズの如くあしらいました。
 「クタバレ、くそ虫。」
 ダークは土下座するジャロームを踏みつけると、凄まじい重圧で押し潰したのです。
 「ぎょええ〜っ!?お、お、おもいいい〜っ。や、やめて、やめやめ・・・あんぎゃ〜っ!!」
 ズゥンと鈍い音が響き、ジャロームは息子のゴモラと共に地獄へ堕ちました。
 そして再び、ダークの視線は私に向けられます。
 ダークは私に真の最強者としての姿を見せてくれました。今度は私がダークに真意を見せる番です。
 「・・・つよい・・・あなたは・・・わたしの・・・もとめてた・・・ひと・・・」
 「闇の力を求めし者よ、お前の名は?」
 「あ、アンジェラ・・・いくさめがみ・・・アンジェラ・・・」
 ダークこそ最強者と認めた私は、ボロボロになった身体を引きずり、願いを託しました。
 「わがねがいを、かなえてくださいませっ!!さいきょうの、やみのちからを・・・わたしにさず
けてくださいませ!!」
 懸命なる私の思いは、最強者に受け入れられました。
 ダークは私を抱えると、威厳ある声で言いました。
 「戦女神アンジェラ、お前に最強の力を授けよう。お前は闇の姫君、魔戦姫となるのだ!!」

 魔戦姫・・・

 威厳あるその名を、私は心に刻みました。
 私は最強の姫君に生まれ変わるのです・・・

 ダークは私を肩に背負うと、卑しき欲望が吹き溜まる拷問室を後にしました。
 彼の向う先は、暗黒が支配する領域・・・魔界と呼ばれる闇の世界です。

 魔界に通じる扉が開いた時、私は一番大切な事を思い出して叫びました。
 「まってくださ・・・いっ・・・わたしのともだち・・・ミルミル・・・いじめられてるこを・・・
たすけ・・・たすけなければ・・・」
 ビンに閉じ込められ、魔酒に浸けられているミルミルと、罪無き女の子達・・・
 私と一心同体である最愛の友達を助けなければ・・・魔酒浸けにされている女の子達を救わねば・・


 意識モウロウとしている私は、ダークに担がれたまま、喘ぐように手を動かしました。
 すると、私の手にミルミルの小さな身体が出現したのです。
 酒ビンに閉じ込められ、魔酒浸けにされていたミルミルが、私の手の中で・・・弱々しいながらも
命の鼓動を繋いでいるのです・・・
 「ミルミル・・・わたしのともだち・・・」
 最愛の友達を抱きしめた私の目に、魔酒の瓶に閉じ込められていた女の子達が解放され、正気を取
り戻して逃げて行く光景が浮かびました。

 ダークは私の願いをかなえてくれたのです。
 友達を助けてほしい・・・イジメられる女の子を救ってほしいとの願いを・・・

 寡黙に歩むダークは、一言だけ呟きました。
 「これで満足したか?」

 その一言は、私の心に大いなる安堵をもたらしました。

 私は魔界に赴きます・・・
 最強の姫君・・・(魔戦姫)となるために・・・


 To・Be・Continued・・・


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