魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(4)


  第8話 恐怖の究極魔術(エナジー・ドレイン)
原作者えのきさん

               
敗北、そして裏切り・・・誇り高き私達武神の兵団は、絶望の果てに魔族に屈しました。
 追い詰められた私達は、地獄の責め苦に晒される事となったのです・・・
 悪の魔神バール・ダイモンに率いられた魔族の軍団は、圧倒的な勢力で全てを支配しています。
 そして・・・邪悪な欲望を露にする魔族達によって、私は激しい陵辱を受ける羽目となったのです・・・

 敗者とは、こうも惨めな存在であったとは・・・
 私の眼前に、絶望の光景が広がります。
 出現した大量の触手が武神の兵を拘束し、完全に動きを封じてしまいました。
 負傷した兵達は、無数の触手でがんじがらめにされ、怒りの声すらあげられなくなっているのです。
 「ぐ、ぐああ・・・く、くるしい・・・」
 「・・・は、はなせええ・・・」
 その苦悶の声。凄まじい激痛に苛まれている兵達を、触手は容赦なく苦しめます。
 身体に絡まる触手が万力のように締まり、血反吐を吐いた兵達は白目をむいて悶絶しました。
 「ぐはあ・・・ひ、ひめさまああ・・・」
 その苦悶の呼びかけに、私は涙を流すしか術はありませんでした。私も兵達と同様に、触手で自由を奪われていたからです。
 「み、みんな・・・ああ、なんて事に・・・み、みんなを助けなければ・・・こ、こんな触手・・・あ、ああっ!!」
 腕にギリギリと食い込む触手が、私に激しい苦痛をもたらしました。
 元々非力な私です。触手を振りほどくなど決してできぬ事・・・そんな私をバール・ダイモンは嘲笑います。
 「ふふん♪可愛い天使ちゃんの細腕で、触手から逃れられるわけなかろーが。無駄だ、むだむだ〜。わっはっは!!」
 ふんぞり返る魔神は余裕の表情で仁王立ちし、手下に目配せをしました。どうやら、武神の兵達に地獄の苦しみを与えようと企んでいる様子です。
 命令に応じた手下によって、ラムゼクスがバール・ダイモンの前に引き立てられました。
 「・・・ううっ、お、おのれ・・・それがしをどうするつもりだ・・・」
 先程の戦闘と墜落で大怪我を負っているラムゼクスは、歩く事すらできません。無理やり平伏させられたラムゼクスに、バール・ダイモンが凶悪な顔で歩み寄りました。
 「わしを傷つけた落とし前だ。オイボレ、貴様の力を全ていただこうか。わしは相手の能力を吸収する魔術を会得しておるのだ、このようになあっ!!」
 残虐な手でラムゼクスの頭を鷲掴みにすると、神族の力の元である神力を奪いました!!
 「や、やめろおおおーっ!!うわあああーっ!!」
 タンクに満たされた水が排水される如く、力が抜け・・・そして奪われる・・・
 神力を全て奪われた武神の戦士は、バッタリと床に崩れ落ちました。そして勝利の雄叫びをあげる魔神の肉体が、凶悪に隆起しました。相手の力を奪う能力・・・これこそが、魔神バール・ダイモンの力の真相だったのです。
 ラムゼクスと戦った時、バール・ダイモンは、「せっかく(新調)した肉体に傷がついた」と言っていましたが、どうやら数多くの敵から力を奪い、それを糧にして己の体を造り上げていた様子です。
 まさに、恐るべき悪魔の能力でありました・・・
 「ぐわ〜っはっは〜っ!!これぞ敵の力を奪う究極魔術(エナジー・ドレイン)!!我は神族の力を得たり〜っ。オイボレ、貴様の力を試させてもらうぞっ。」
 バール・ダイモンは身構えます。その構えは・・・ラムゼクスの必殺技の構えでした。
 「むうう〜んっ、神光波動砲っ。どりゃあああ〜っ!!」
 
 −−−ドゴォオオーンッ!!
 
 爆音が轟き、光の波動が触手に拘束されている数人の兵に直撃しました!!
 光の砲撃は壁を貫き、波動をまともに浴びた兵は跡形もなく消え去ってしまったのです・・・
 仲間の悲惨な末路を直視し、愕然となっていた兵達は、凄まじい怒りを魔神に向けました。
 「おのれええーっ!!この腐れ魔神めがああっ!!」
 自分達を拘束する触手を振りほどこうと必死の抵抗をしますが・・・全て無駄な行為となりました・・・
 足掻く兵達を見て、バール・ダイモンは眼を光らせました。
 「フッ、次はお前達の番だっ。全員の神力を奪い尽くしてやるわ〜。」
 触手の本体に手を置くと、再び恐怖の魔術を使いました。
 「エナジー・ドレイン、フルパワー全開〜っ!!」
 力を奪う魔術を最大出力で発動させ、触手を通じて兵達の体から神力を全て奪ったのです!!
 絶叫をあげる兵達・・・無残にも力尽き、倒れてゆきました・・・
 そして、奪った神力を全身に漲らせた魔神は、不敵に笑って手下の魔族達に向き直りました。
 「わしだけ神力を独り占めしては悪いわい。お前達にも分けてやろうぞ。」
 そう言って手を翳すと、自分の体に溜めた神力を放出しました。
 城全体に及んだ神力の光は、魔族達全員に久しく行き渡り、神力を浴びた魔族達はバール・ダイモン同様に肉体が強固に変化したのです!!
 「おおお〜っ、ち、力がギンギンにみなぎるぜ〜っ!!」
 「パワー全開って感じ〜っ♪ついでに(ぴー)もビンビンっすよおお〜♪」
 悦ぶ彼等の全身から、神族しか有しないはずの神の光が迸っています。
 魔族が神族の力を手に入れた・・・それは絶対にありえない事でした。
 本来、魔と神は闇と光の属性であり、水と油のように決して混じり合う事はありません。しかし・・・闇に属する彼等が、平然と光の力を手にしているのです。私の頭のなかで、今まで信じてきた固定観念が崩れました。
 そして、元が魔族である彼等は、闇と光、両方の力を有する最強の戦闘兵と成り得たのです。
 「俺たち無敵の戦闘兵〜っ。我らがバール・ダイモンさまは最強の魔神〜っ。」
 手下達の賛美を受け、バール・ダイモンは(ビシッ)と決めポーズをとりました。
 「むっふっふ〜、わしって最強♪」
 浮かれ喜ぶ魔神は、力を失った武神の兵達を凶悪に睨みました。
 「さぁてと、神力を頂いたからには、もうお前らに用はない。適当に遊んでやるとしようか。」
 そう言うと、触手から兵達を解放し、床に転がしました。
 邪悪な魔神は、何を企んでいるのか・・・そう私が思った瞬間、邪悪な視線が私に向けられたのです。
 「ひっ・・・わ、私をどうするおつもりですのっ。」
 「どうするだと?決まっとるだろーが、お前を闇のドン底に叩き堕とすのじゃあ〜っ!!」
 私を拘束する触手が私の手首と足首を掴み、強引に引っ張りました。
 「はぁうっ!?うあ、ああ・・・やめて・・・おねがい・・・」
 手足を強制的に広げられた状態では、逃れる事はできません。身動きできない私に、魔神が邪笑いを浮かべて歩み寄ってきました。
 「むふふ〜、いい恰好ではないか。もはや抵抗できまい、こんな事をされてもなあ〜♪」
 黒光りする爪が・・・私の胸元を切り裂きました!!
 「い、いやあっ。たすけてっ、たすけてええーっ!!」
 純白の鎧がバラバラになり、乾いた音を立てて地面に落ちます。そして・・・私を守るべきものが・・・無情にも失われてゆきました・・・


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