魔戦姫伝説/魔戦姫の休日(後編)2


       アホ2人、魔戦姫に捕らわる
ムーンライズ

 赤鬼と青鬼がドワーフ達に捕まった頃、浜辺では魔戦姫とガリュウがドワーフ達の帰り
を待っていた。
 落ちついた一同は、なぜこの平和な湖に凶悪な鮫人が出現したかについて話し合ってい
る。
 冷静なレシフェが、漁師に質問をした。
 「この湖には鮫人が出現する事があるのですか?」
 その問いに漁師は首を振る。
 「いいえ、今までこんな事はありませんでしたが、ここに鮫人が出現する可能性はあり
ます。湖の南側に海に通じる河があるんですよ。たぶん・・・そこから獲物を求めてきた
のでしょう。」
 その横からガリュウが口を挟んだ。
 「そう考えるのが妥当だな。俺達の領地にあんな危険な奴等が入ってきたんだ、楽園を
守るのも楽じゃないぜ。」
 「ええ、全くです。」
 頷き合うガリュウと漁師。
 すると、心配そうな顔をしたミスティーアが、ガリュウに尋ねる。
 「あの・・・ひょっとして、ここは鬼の一族の領地でしたの?」
 ミスティーア達、魔選姫が助けた漁師親子もまた、ガリュウ同様に頭に角を有している。
 湖畔に住む彼等も鬼の一族であると言う事は、この湖自体が鬼の一族の領地であると言
う事だ。
 それは、魔戦姫を嫌悪しているガロンの領地内に勝手に足を踏み入れてしまった事でも
ある。
 とても心配そうなミスティーアの問いに、ガリュウは頷く。
 「一応そうだよ。ここは・・・鬼宝湖は鬼の一族の領地だ。どうやら、あんた達はここ
の事を知らずに来たみたいだな。でも驚いたよ、まさか魔戦姫が遊びにくるとは思わなか
ったぜ。」
 苦笑いするガリュウ。そして魔戦姫達は(スノウホワイトを除いて)アルカに視線をむ
けた。
 「アルカちゃん・・・ここの事をちゃんと調べてませんでしたわね〜。」
 魔戦姫達に詰め寄られ、アルカは思わず愛想笑いをするのだった。
 「あ、あの〜、まさか鬼の一族の領地だなんて知りませんでしたから・・・あはは。」
 「よりによってガロン様の領地を見つけてくるだなんて〜。」
 「あーん、ごめんなさーい。」
 すっかり恐縮してしまったアルカが、ガリュウに向き直ってペコペコ頭を下げた。
 「本当に申し訳ありませんわ。あなた達の領地とは知らずに・・・ここはすぐに引き払
いますから。」
 そんなアルカを見て、ガリュウは急に笑いだした。
 「あはは。いいよ、いいよ、別に気にしなくてもさ。好きなだけ遊んで行きなよ、親父
殿には俺から話しておくから心配はいらないよ。」
 ガリュウの言葉に、呆気にとられる魔戦姫達。
 「えっ?でもご迷惑をかけては申し訳ありませんわ。」
 そんな魔戦姫達に、助けられた漁師親子が声をかける。
 「何をおっしゃいますか、私達の命の恩人に出てゆけなどと言えますでしょうか・・・
若様の仰られる通り、どうぞここで御休暇をお楽しみください。村の者も喜んで歓迎しま
すよ。」
 「そうだよお姫様、遊んでいってよ。」
 漁師親子の言葉に、魔戦姫達は喜びの表情を浮かべる。
 「よろしいのですねっ?ありがとうございますわ。」
 明るい笑い声が浜辺に響き渡った。
 そんな笑い声の響く浜辺にドワーフ達が戻ってきた。
 「ヒメサマー、ドロボウヲツカマエタヨー。」
 現われたドワーフ達に、一同の視線が集中する。そこには、ドワーフ達に担がれた青鬼
と、鬼武者に引きずられた赤鬼の姿があった。
 それを見て驚きの声を上げるガリュウ。
 「お、お前等は、赤鬼と青鬼じゃねーかっ。ドロボウってのは・・・お前達だったのか
っ!?」
 怪訝な目で赤鬼と青鬼を見る。金棒で殴られた赤鬼と、ロープで縛られた青鬼がガリュ
ウの前に投げ出された。
 「わひっ、こ、これは若・・・お久しぶり〜。」
 怯えた目でヘコヘコ頭を下げるアホ2人組。そんな2人を見ながら、ガリュウは鬼武者
に尋ねる。
 「おい鬼武者、これはどーいう事だ?なんでコイツ等がドロボウなんだよ。」
 「はい、こ奴等は御館様の御命令で魔戦姫の監視をしていたようですが、あろうことか、
下着を盗んで不埒な狼藉を働いておったのですぞ。若、このアホどもをお叱りください。」
 鬼武者の言葉に、ガリュウは目を釣り上げる。
 「なんだって〜っ!?下着ドロボウだとおっ!?」
 ガリュウの怒声に、赤鬼と青鬼は顔を引きつらせる。
 「あ、あの〜、これにはふかーい訳がありまして・・・その〜。」
 弁明する2人組だったが、ガリュウにはそんな言い訳など通用しない。
 「親父殿の命令で仕方なくやったってか?じゃあなにか、下着まで盗めって親父殿が言
ったのか?ああんっ!?」
 「きゃ〜、もーしわけありましぇ〜んっ!!ほんの出来心だったんですう〜。」
 半泣き状態で謝る赤鬼と青鬼だったが、栄えある鬼の一族の面目を潰したのだ、許され
る事ではない。
 眉間に血管を浮き立たせ、怒り心頭のガリュウがゲンコツに息をハア〜と吐きかけてア
ホ2人組を睨み据える。
 「てめえら〜、そのアホタレ根性に喝を入れてやんぜっ。歯ァ食いしばれやっ!!」
 「ひえ〜いっ。」
 ガリュウの鉄拳制裁が下されそうになるその時である。
 「待ってくださいっ。」
 駆け寄ったスノウホワイトがガリュウの前に立つ。そして両手を組んで懇願した。
 「・・・どうか、彼等を許しては頂けないでしょうか・・・確かに、ドロボウは良くな
い事です・・・でも、彼等は十分反省していますわ・・・ドレスも戻った事ですし、ここ
は穏便に済ませては頂けませんか?」
 その訴えに、ガリュウは渋々ゲンコツを下ろした。
 「うーん、そこまで言われたら怒る気もなくなるぜ・・・」
 その後ろから、鬼武者が口を挟む。
 「しかし若、いくら姫君の情けとはゆえ、あ奴等にケジメを取らせないと示しがつきま
せんぞ。」
 鬼武者はあくまで2人を許さないつもりだ。すると、スノウホワイトは潤んだ瞳で鬼武
者を見つめた。
 「・・・お願いです、彼等を許してあげて・・・」
 その純真無垢なる瞳で見つめられ、さすがの鬼武者も根負けしてしまった。
 「う、うむ・・・致し方あるまい・・・姫君方が許すと申すなら、拙者もあ奴等を許し
ましょうぞ。」
 その言葉に、スノウホワイトは鬼武者の手を取って感謝を示した。
 「ありがとうございます・・・あなたは本当にお優しい方ですわ・・・」
 「あ、いや。拙者はその・・・優しいなどとは・・・」
 厳つい面構えに似合わず、顔を赤くして照れている鬼武者であった。その姿に思わずた
め息をつくガリュウ。
 「フッ、鬼の目にも涙ってやつだな。」
 そんな呟きを洩らすガリュウに、ミスティーアが声をかけてきた。
 「あの、ケジメを付ける代わりと言ってはなんですが、彼等の身柄を私達に預けさせて
はもらえませんでしょうか。せっかくの休暇ですもの、大勢で楽しく過ごしたいのですわ。
」
 そう言うと、意味ありげなウインクをするミスティーア。
 始めはキョトンとしていたガリュウと鬼武者だったが、すぐにウインクの意図を察した
ガリュウ達はニッと笑って了承した。
 「ああ、いいぜ。あんなアホどもでよかったら遊んでやってくれ。」
 「まあ、嬉しいですわ。」
 ミスティーアと了承を取り合ったガリュウは、赤鬼と青鬼の頭をポコッと叩く。
 「姫君のお情けだ、今回の事は大目に見てやるぜ。それと、姫君方がお前等と遊んでく
れるってよ、よかったじゃねーか。」
 その言葉に、大喜びする赤鬼と青鬼。
 「ええ〜っ、そ、それは本当でありますか〜!?よかった〜。」
 しかし、そんな2人を見て、妙に哀れむような口調で苦笑いするガリュウだった。
 「よかった、か・・・まあ、俺のゲンコツ食らったほうがマシだったって、すぐに思う
だろうけどよ。」
 「へっ?それはどーゆー意味でありますか?」
 「んん〜、なんでもねーよ、なんでも。」
 そう言うと、青鬼と赤鬼に背をむけて漁師親子の元に歩いてゆく。
 そして漁師と話をしたガリュウが、ミスティーア達に声をかけた。
 「村の連中があんた達を歓迎したいってよ。すぐに迎えの船をよこすそうだから、よか
ったら村で泊まっていきなよ。俺達は先に行ってるぜ。」
 それだけ言い残し、ガリュウと鬼武者は漁師親子と共に湖の村へと向かった。
 後に残された青鬼と赤鬼は、優しく慈悲深い白雪姫にヘコヘコ頭を下げている。
 「す、すまねえ。あんたのお陰で助かったよ〜。」
 「優しい白雪姫さま〜、あなたは女神さまじゃ〜ん。」
 感謝感激している2人だったが、白雪姫は申し訳なさそうな顔で口を開いた。
 「あの・・・感謝して頂くのはいいのですが・・・私は別として、他の仲間があなた達
の事を許してくれるかどうか・・・」
 「他の仲間?それって・・・のおっ!?」
 振り返った2人はギョッとする。
 そこには、とても優しく、とてもにこやかに微笑む姫君と侍女達が立っていた。
 だが、その背後には・・・(ごおお〜っ)と怒りのオーラが燃え盛っているのであった
っ!!
 「あなた達・・・何か勘違いしてないかしら?誰が許すと言いましたか。」
 「姫君に無礼を働いたンですもの・・・只では済みませんわよ〜。生きて帰れるとは思
わない事ですわ。」
 「タップリとお仕置きしてあげマスワ、覚悟するよろしっ。」
 にじりよる怒りの姫君達・・・
 「あ、あの〜、ゆるしてちょうだいって・・・んわ〜っ!?」
 「みんなっ、やってしまいなさーいっ!!」
 姫君の号令一過、侍女達によって袋叩きにされる赤鬼と青鬼。
 「あだだっ、引っ掻くんじゃねぇっ、いででっ。」
 「わ〜ん、暴力反対じゃ〜ん。」
 「覗きの下着ドロボウが文句言うんじゃありませんわ〜っ!!」
 砂浜にドタバタと騒々しい音が響き、砂埃が舞う。
 やがて砂埃が収まると、砂浜には赤鬼と青鬼が目を(×印)状態にして伸びている。
 「きゅう〜。」
 それを見ながら手の砂をパンパンと払い落とす侍女達。
 「少しは懲りましたかお馬鹿さん。これは覗きをした分ですわ、そしてこれはドレスと
下着を盗んだ分っ!!」
 アルカの声と共に、エルとアルが2人を丸裸にする。
 「あひ〜っ、なにすンだ、ちょっと、エッチ〜、スケベーッ。」
 「逃げるんじゃありませんですわ〜。」
 「無駄なてーこーはやめるですの〜。」
 ジタバタ暴れる2人は、近くのヤシの木に縛り付けられる。手足を縛られているので、
全く身動きができない状態だ。
 「わ〜んっ、縄を解けじゃんっ。」
 ギャアギャア喚く2人の前に、魔戦姫達が近寄る。
 「お仕置きはまだ終わってませんわ、泣きを入れるのは早いですわよ。」
 問答無用の目付きで赤鬼と青鬼を睨むが、開き直った赤鬼がふてくされた態度で文句を
言った。
 「へ、へーんだっ、お姫様なんか恐くねーぞっ。煮るなり焼くなり好きにしやがれって
んだ。」
 この期に及んでの反抗的な態度・・・少しは手加減してやろうと思っていた魔戦姫の堪
忍袋の尾が切れた。
 振り返ったレシフェがドワーフ達を手招きする。
 「ドワーフ君、ちょっといらっしゃい。」
 「ハーイ。」
 集まってくるドワーフ達に何か耳打ちする。ウンウン頷いていたドワーフ達が、一斉に
浜辺へと走っていった。
 それを見送った後、再度赤鬼と青鬼に向き直るレシフェ。
 「じゃあオバカさん。私達は朝まで村にお邪魔するけど、あなた達は一晩かけてゆっく
り反省してなさい。ドワーフ君が監視するけど、あの子達に逆らおうなんて思わないでね。
ドワーフ君を怒らせたら恐いわよ。」
 そう言って、レシフェは2人に背を向ける。
 後に残ったスノウホワイトが心配そうに2人を見つめた。
 「まあ可哀想に・・・こんなにイジメられて・・・」
 優しいスノウホワイトの言葉に、赤鬼と青鬼は涙目で助けを求める。
 「わーん、白雪姫様〜。助けて〜、死んじゃうじゃ〜ん。」
 でも、白雪姫様は申し訳なさそうにするばかり。
 「・・・ごめんなさいね。もしもの時は・・・あなた達の骨は拾ってあげますから・・・
」
 「「それって慰めになってなーいっ!!」」
 さらに落ち込む2人であった・・・
 浜辺には魔戦姫を迎えにきた村の船が到着している。魔戦姫達は赤鬼と青鬼を残して村
へと向かった。
 丸裸のまま木に縛られている赤鬼は、魔戦姫がいなくなったのをいい事に悪態をついて
いる。
 「けっ、なーにがドワーフ君を怒らせたら恐いわよ〜だ。あんなチビ助どものどこが恐
いんでぇ、アーホ、バーカ。」
 すると横から青鬼が一言ポツリ。
 「あ、魔戦姫が戻ってきたじゃん。」
 「にゃにい〜っ!?ど、ど、ど、どこだ〜っ!?」
 怯えてうろたえる赤鬼だったが、魔戦姫はいない。
 「ウソじゃん、おめー本当に面白い奴じゃん。」
 「て、てめーっ!!脅かすンじゃねーっ!!」
 「脅してねーじゃん、からかっただけじゃん。」
 「このヌケ作〜っ、どっちでも一緒だ〜っ!!」
 間抜けなコントをするアホ2人の前に、袋を手にしたドワーフ達が歩み寄ってきた。そ
の袋からガサゴソと音がしており、中に(とっても怪しい)生き物が入っている様子であ
る。
 嫌な予感を感じた赤鬼が、ドワーフ達を睨む。
 「な、なんだよチビ助ども・・・なにしようってんだ?」
 「キマッテルジャナイノ、オマエタチヲイジメルンダヨ〜。」
 とってもイジワルな目付きで笑うドワーフ達が、赤鬼と青鬼の足元に袋の中身をブチま
けた。
 「ソレイケーッ、イジメテヤレーッ!!」
 掛け声と共に、キョーボーな生き物が這い出す。。
 ウジャウジャと群がるそれは、無数のカニだった。小さくも鋭いハサミをチョキチョキ
鳴らし、さながら獲物に襲いかかるピラニアの如く赤鬼と青鬼に迫った。
 「んわ〜っ!?く、くるな〜っ、あっちいけ、シッシッ!!」
 カニ達を追い払おうとするが、縛られた状態の2人に逃れる術などない。たちまちのう
ちに全身に無数のカニ達が群がり、ちっこいハサミで裸の2人をイジメ始める。
 「ひえ〜っ!!イテイテッ、た、た、た、助けて〜っ!!」
 「痛いじゃんっ、痛いじゃんっ、チン○ン挟んだら痛いじゃ〜んっ!!」
 いくら喚いてもカニに通じるわけがない。
 悲鳴をあげる2人に、ドワーフ達は塩水をブッかけた。カニに痛め付けられた傷口に塩
水が浸みこみ、悲鳴が絶叫へとレベルアップする。
 「ふんぎゃ〜っ!!し、しみるーっ!!」
 「お、お、おまえらヒドイじゃんっ!!血も涙もないじゃ〜んっ!!このオニーッ、ア
クマーッ、んぎゃ〜っ!!」
 「バーカ、オニハオマエラダロ。」
 「ボクタチハ〜、アクマダヨ〜。ワルイヤツヲイジメル〜、アクマダモ〜ン、キャ〜ハ
ハッ。」
 歌いながらはしゃぐドワーフ達の手には・・・激痛アイテム、練り辛子がっ!!
 「ひええっ、それはやめれーっ!!ぎょえええ〜っ!!」
 そして絶叫は阿鼻叫喚へとグレードアップした。
 陰湿極まりない?幼稚なイジメは尚も続くのであった・・・




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