魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫番外編)魔戦姫の休日


       素晴らしき別天地
ムーンライズ

 バーゼクスでの激戦が終わって1ヵ月。激しい戦いによって傷ついたミスティーア達は、
魔界の診療所で傷ついた体を癒していた。
 魔族の医師や魔界八部衆の、献身的な治療を受けて回復に向かった一同ではあったが、
精神的にも深いダメージを負っている彼女達に配慮した魔戦姫の長リーリアは、退院した
ミスティーア達に10日間の休暇を与えたのであった。
 当初、魔戦姫の保養所で休暇を取ろうとしていたミスティーア達であったが、アルカが
「良い休暇の穴場をみつけましたわっ。」と言った事から急遽、予定を変更してアルカの
言う(穴場)で休暇を執る事となった・・・

 診療所を退院したミスティーア、天鳳姫、スノウホワイト、レシフェは、アルカの案内
で朝早くから目指す(穴場)へと出掛けた。
 魔戦姫の城から飛行馬、ペガサスの引く馬車で目的地に向かっているミスティーア達は、
同行しているアルカに穴場の説明を求めている。
 「ねえ、アルカさん。穴場ってどんな場所ですか?」
 ミスティーアの質問に、ニコニコしながら答えるアルカ。
 「それはついてからのお楽しみですわよ。なにしろ、保養地や魔界のリゾート地よりず
っと良い場所ですから・・・ウフフ。」
 もったいつけたアルカの笑顔に、レシフェは少し戸惑った顔をしている。
 「もう、教えてくれたっていいじゃないの、別に減るもんじゃないし。」
 そんなレシフェに、アルカは指をチッチと振って答える。
 「いーえ、慌てる何とかは貰いが少ないって言いますわよ姫様。最高の場所にさっさと
着いてしまったら楽しみが半減しますわ。楽しみはじっくり待って、そしてから堪能する
のが一番ですのよ〜。」
 「慌てる何とかって・・・慌てる乞食はって事でしょう?私達は姫君ですわよ、全く・・
・」
 ブツブツ文句を言うレシフェ。その横では天鳳姫とスノウホワイトが楽しそうにニコニ
コしている。
 「んふふ〜、久しぶりの休暇アルよ〜。思いっきり羽を伸ばすのコトね〜。」
 相変わらず能天気な天鳳姫と、穏やかに微笑むスノウホワイト。
 「・・・そうですわね。せっかくリーリア様に休暇をもらったんですもの、楽しまなけ
れば悪いですわ・・・」
 そう言っているスノウホワイトは、一同の中で最も深い重傷を負っていた。
 デスガッドによる悲惨な責め苦を受け、さらに魔血を奪われ魔人の胎児を植え付けられ
ていた彼女のダメージは口にできないほど深刻であった。
 だが、スノウホワイトを愛するハルメイルの懸命の治療により、スノウホワイトは全快
に至っていた。当初は魔族の医師ですらサジを投げていた彼女を回復させたハルメイルの
献身的なる努力は報われ、愛の奇跡とも呼べる回復ぶりをみせている彼女。
 でもスノウホワイトの情況を身をもって知っているミスティーア達は、心配を隠せない
様子だ。
 ミスティーアは心配そうに尋ねた。
 「あの、本当に大丈夫なのですか?無理をしてません?」
 「ええ・・・ハルメイル様が夜も寝ずに看病してくださいましたもの・・・ああ、うれ
しかったですわ・・・思い出しただけで身体が疼いて、熱くなってきますのよ・・・」
 モジモジしながら顔を赤らめ、両手を頬に当ててノロけるスノウホワイトを見て、天鳳
姫は呆れた顔で手をパタパタさせた。
 「あ〜、はいはい。とってもよかったのコトね?ごちそーさまアルよ。」
 妬いている天鳳姫と、羨ましそうに見つめているミスティーア。
 「身体が熱くなるですって、良いですわね〜。私もアドニス兄さんに看病してもらいた
かったですわ〜。」
 相変わらずブラコンのミスティーアであった。
 そして、レシフェに小声で尋ねる興味津々といった顔のアルカ。
 「ねえ姫様、スノウホワイト様はハルメイル様にどーゆーコトをして頂いたのでしょう?
気になりますわね〜。」
 その問いに、複雑な顔をするレシフェ。
 「そりゃあ、まあ・・・あんなコトや、こんなコトを・・・してもらって・・・その・・
・・」
 「あんなコトって、なんですの?」
 イジワルな口調で尋ねるアルカを見て、レシフェは顔を真っ赤にする。
 「もうっ、そんなハズカシイことを私に言わせる気?知ってるクセに〜。」
 「ウフフ。」
 馬車の中には、明るい笑い声が響いていた。
 そして、魔界の赤き空を駈けるペガサスの馬車に導かれた一同は、目的地へ進んでいっ
たのである。
 ペガサスに導かれること1時間。超高速で飛空する天馬の脚力からして、かなりの長距
離を進んだ事になる。
 やがて天馬は馬車を引いたまま、木が生い茂る森へと舞い降りた。
 森の開けた場所に到同した一同は、馬車から降りて辺りを見回す。どこまでも広がる森
を眺めても、(最高の穴場)と呼べる場所はない。
 まさかこんな森の中が(穴場)とか言うのでは?ミスティーア達は怪訝な顔でアルカを
見た。
 「・・・ただの森アルね。」
 「あの〜、ここが穴場ですの?こんな森ならいくらでもありますけど・・・」
 「場所を間違えたんじゃないの?」
 3人に尋ねられたアルカだったが、当の本人は平然としている。
 「ええ、間違いありませんわ。この近くに穴場がありますの。」
 どうやらアルカの言っている事に間違いはなさそうだ。3人は大きな溜め息をつく。
 「あ〜あ、どんな所か期待してたけど、森の中でキャンプするコトだったアルか〜。」
 スネた口調の天鳳姫に、スノウホワイトはニコニコして声をかける。
 「・・・あら、キャンプは好きですわ・・・子供の頃にお爺さまとよくキャンプに出掛
けましたから・・・」
 呑気にそう言うスノウホワイトの肩を、呆れた顔で叩く天鳳姫。
 「あ、あのね・・・アナタはどーしてそう呑気アルか?よーく考えるよろし、テントも
キャンプ道具もないのに、どーやって寝泊りするのコトね?野宿するつもりアルか?」
 天鳳姫に言われてキョトンとしているスノウホワイト。
 「えっ?・・・ここで野宿するんじゃありませんの・・・?」
 余りにもストレートなる大ボケに、天鳳姫の両目から(だ〜っ)と滝のよーな涙が流れ
る。
 「も、もういいのコトよ〜。アナタに聞いたワタシがアホだったアルよ〜。シクシク。」
 呆れるを通り越して何も言えなくなる天鳳姫だった。
 でも、この場所で寝泊りする事ではなかった。詳しい説明をするアルカ。
 「あ、あの天鳳姫様。ですからここじゃないんですの、この近くなんです。ここから少
し歩いた場所に目的地がありますのよ。まさか姫君がテントで寝泊りするわけにもいきま
せんでしょう?組み立て式のコテージを目的地に運んでますのよ。今頃はリンリンさんと
ランランさん、それにエルちゃんとアルちゃんとドワーフ君達が先についてコテージを組
み立ててますから・・・」
 説明するアルカに、涙目で詰め寄る天鳳姫。
 「アルカさ〜んっ!?ほんっとおーに穴場のコトねっ!?しょーもない場所だったら怒
るのコトよ〜っ!?」
 どアップで迫る天鳳姫に、思わずたじろぐアルカ。
 「あ、いやその・・・きっとご満足いただけますわよ〜。いや本当に・・・」
 苦しい弁解をするアルカだったが、彼女の説明を怪訝に聞いているのは天鳳姫だけでは
なかった。
 「本当に大丈夫ですか?なんか心配になってきましたけど・・・」
 「まあ、アルカが良いって言うんなら間違い無いと思うけど。」
 ミスティーアもレシフェも半信半疑だ。
 「ま、まあ信じて頂けないのは無理もないですわね・・・論より証拠ですわ。来ていた
だけます?」
 そういいながら森の道を指差すアルカ。そして馬車の御者に声をかけた。
 「じゃあ10日後に、この場所でお願いします。」
 「わかりました。では姫様方、ご休暇をお楽しみください。」
 御者はそう言うと、ペガサスの手綱を引いて上空へと消えていった。
 後に残ったミスティーア達は、アルカの案内で(穴場)へと歩き始める。
 薄暗い森の中を抜ける道は、お世辞にも歩きやすいとは言い難いものであった。石コロ
が転がる砂利道で、しかも一同が履いている靴はパンプスである。
 ヒールで歩くよりはマシであろうが、ドレスを着たままでの状態は山道を歩くには余り
にも不釣り合いである。
 ドレスの裾を持ち上げ、嫌そうな顔で歩いているミスティーア。
 「あ〜ん、もうっ。まだ着きませんの〜?こんな事ならドレスを着てくるんじゃありま
せんでしたわ〜。」
 文句を言っているのは彼女だけではなかった。
 「ドレスならまだマシのコトね〜。羽衣で山道は歩けないアルよ〜。」
 天鳳姫の着ている天女の羽衣は、ドレスより足を広げられないのである。何度も長い裾
を踏みそうになる。
 しかし、そんな2人を尻目に、レシフェとアルカはスタスタと山道を歩いていくのであ
った。
 「ほらほら、2人とも早く来ないと置いていきますわよ。」
 「あう〜、もっとゆっくり歩いてほしいのコトよ〜。」
 「レシフェさんは慣れてるからいいですわよ〜。」
 怨めしそうな声が一同の後ろから響いてくる。
 足が早いのは南米のジャングルで鍛えた健脚の2人ならではなのだが、意外な事に、ス
ノウホワイトも山道を苦にする事無く歩いている。
 「レシフェさんとアルカさんは山道に慣れてるとして・・・どーしてスノウホワイトさ
んは山道が平気なんですか〜?」
 ミスティーアに尋ねられて、スノウホワイトは笑って答える。
 「・・・・ええ、子供の時からお爺さまと山道を歩いてますから・・・」
 「はあ、納得・・・」
 (スノウホワイトの呑気な口調には、ただ納得するしかないのであった。)
 そして・・・鬱蒼とした森が徐々に明るくなり、木漏れ日が差し込み始める。目的地に
着いたのである。
 道の前には枝が下がっており、カーテンのように視界を遮っていた。
 それを開き、アルカは目的地に着いた事を告げた。
 「さあ、皆様方。お待たせしましたわ、ここが・・・最高の穴場ですっ。」
 薄暗かった森に、強い光が差し込んできた。
 眩いばかりの光に戸惑いながら、ミスティーア達はその場所を見た。そこは・・・
 「一体何ですの、この光は・・・えっ・・・?」
 太陽の光ではない。何かが太陽の光を反射して光り輝いているのだ。
 「こ、ここは・・・わあ・・・きれいっ!!」
 「すごい・・・本当に穴場アルよっ!!」
 そこは・・・まさに別天地であった。金色の光がそこに燦然と輝いている。誰もが、ま
るで天国に迷いこんだだかのような錯覚に陥るであろう。
 いや・・・そこは本当に天国であった。金色の楽園であった。
 「海・・・いや・・・湖ですわっ!!」
 歓喜の声を上げるミスティーア。天国は・・・黄金の楽園の正体は巨大な湖であったの
だ。
 清らかな水を満々と湛える巨大な湖・・・
 波一つ立たない紺碧の水面に太陽の光が反射し、燦然と光り輝いている。
 周囲には、新雪のごとき踏み荒らされていない真っ白な砂浜が広がり、来訪者を出迎え
てくれている。
 金色の光と白亜の海岸が、穏やかに両手を広げミスティーア達を包んでくれるのであっ
た。
 周囲を見れば、亜熱帯の木々が浜辺に並び、さながら南海の浜辺を連想させる美しき光
景である。
 湖を見るミスティーア達の目が感動で輝いていた。
 「湖・・・海ですわ・・・」
 「まあっ、こんな所に湖があったんですね・・・知りませんでしたわ。」
 「あいや〜、最高アルよ〜。まるで南国の海辺アルね〜。」
 「本当に最高だわっ、スゴイわよアルカッ、良く見つけてくれたわっ。」
 レシフェまでアルカの手を握って喜んでいる。
 さっきまでの不平は何処へやら、3人はすっかり湖の虜になっている。
 やっと機嫌を治してくれた事に、ホッと胸を撫で下ろすアルカ。
 「お気に召して頂けて嬉しいですわ。ほら、あそこに他のみんながいますのよ。」
 アルカの指差す浜辺に、組み立て式のコテージが見える。そのコテージに向けて声をか
けるアルカ。
 「リンリンさーんっ、姫様方をお連れしましたわよ〜っ!!」
 その声に、リンリンが手を振って答える。
 そしてアルカがミスティーア達に向き直り、皆の手を取って促した。
 「さあ、参りましょう。みんな待ち焦がれてますわ。」
 「ええっ。」
 浜辺に向けて走り出す5人。走りにくいドレスやパンプスも、浜辺に向かう喜びで苦に
ならなくなっている。
 途中で蔓草に足を取られそうになっても、かまわず走って行くミスティーア達は、すっ
かり童心に帰っている。
 最初に浜辺に到着した天鳳姫が、コテージに向かう。
 「やっほ〜っ、一番乗りアルよ〜。」
 「姫様〜。お待ちしてました。」
 天鳳姫を迎えるリンリンの声を聞いて、中で家具を整えていたエル、アル、ドワーフ達
が飛び出して来た。
 「「みなさん、ウェルカムですわ、のっ。」」
 大喜びで皆に駆け寄るエルとアル。
 全員(ドワーフを除いて)軽装をしており、その下に水着を着込んでいる。
 その服装を見て、彼女等が魔戦姫達を待ち焦がれていたのが良くわかる。
 「もう水着に着替えてたアルか?気が早いのコトね〜。」
 そう尋ねる天鳳姫に、侍女達はニコニコしながら答える。
 「ナハハ、そうズラ。早く姫様と遊びたくって・・・」
 「もう待ちきれなかったですわ〜。」
 「早く泳ぎたいですの〜。」
 後から来たレシフェとアルカも、喜んでいる侍女達の様子に笑顔を浮べる。
 「うふふ、あんなに喜んで・・・無理もないわね、久しぶりの休暇ですもの。」
 そう言いながらコテージを眺める。
 組み立て式コテージであるにも関わらず、ありきたりなリゾート地にあるコテージより
遥かに高級な造りとなっている。
 姫君たる魔戦姫が屋外での寝泊りをするともなれば、それなりの宿泊設備が求められる。
テントなど論外である。
 先の戦いで疲れている姫君達を癒したい一心で、アルカやエル、アル達は早くから準備
を整えていたのだ。
 侍女達が用意しているのは宿泊設備だけではない。 
 「姫様の水着も用意してますのよ、ほらっ。」
 アルカはそう言うと、トランクから水着を取り出す。
 取り出した水着はレシフェ用、天鳳姫用と別々になっており、
数だけでも数十着はあった。
 レシフェと天鳳姫、そしてスノウホワイトは、色とりどりの水着を手に取ってはしゃい
だ。どれも一流デザイナーが手がけたブランド品で、姫君が装うに相応しいものばかりだ。
 「へえ、これいいわね。あ、これなんか可愛い。」
 百戦錬磨のアマゾネス・プリンセスも、この時ばかりはただの女の子に戻るのである。
 「・・・フリルがついてますわね、前から欲しかったんです。私の好みですわ・・・」
 「サイズがピッタリのコトね〜。ワタシの胸にジャストフィットするアルよ〜。」
 自身の巨乳にビキニを当てて喜ぶ天鳳姫。
 そしてレシフェがアルカに向き直って尋ねた。
 「でも、これだけの水着を良く用意できたわね。さすがはアルカだわ、容易周到ね。」
 しかし、アルカは少し困った顔で返答した。
 「あの〜、それは私が用意したんじゃないんですの・・・実は、サン・ジェルマン伯爵
様に湖へ行く事を話したら、最新モデルの水着を用意してくださって、その・・・」
 その言葉に、レシフェと天鳳姫が目を丸くする。
 「えっ、伯爵様が?」
 「ちょっと待つね、どーして伯爵様は私達の好みやサイズを知ってたのコトよ。」
 アルカは更に困った顔をして笑う。
 「あはは・・・調べたんだと思いますわ、抜け目のない人ですから、伯爵様は。」
 それを聞いて、水着を手にして爽やかに笑うサン・ジェルマンを思い浮かべるレシフェ
と天鳳姫。
 女好きで知られる魔界伯爵は、婦女子を喜ばせる事に関しては余念がない男である。
 「遊び人の伯爵様らしいわね、女泣かせの異名は伊達じゃないわ。」
 「まったくアルよ〜、あのスケベ伯爵は〜。」
 呆れた顔をする2人だったが、スノウホワイトはとても喜んでいる。
 「・・・今度お礼をしなければなりませんね。お優しい心遣いをしてくださったんです
もの・・・ありがとうございますわ伯爵様・・・」
 勝手に好みやサイズまで調べられていた事になど、全く頭にないスノウホワイトだった。
 (疑うとか怪しむとかしない、ほんとーに人の良い純朴な白雪姫様なのだ。)
 そんな一同は、肝心の者がいない事に気がついた。レシフェは辺りを見回して呟いた。
 「あれ?ミスティーアはどこなの。」
 先ほどから姿の見えなくなっていたミスティーアを探すと、浜辺の前で突っ立っている
のが見える。
 不審に思った天鳳姫がミスティーアの傍に歩み寄る。
 等のミスティーアは、瞬きもせずに湖を見つめていた。その瞳は湖の光を浴びてキラキ
ラ輝いている。
 「あの〜、何してるのコトか?」
 尋ねるが返事がない。手を顔の前でサッサと振るが、それでも反応はない。
 「ちょっと、返事ぐらいするよろし。どーしたねっ?」
 天鳳姫が怪訝な口調で尋ねる。すると・・・
 「・・・うみ。」
 半分開いた口から、小さな声が漏れる。
 そして、ミスティーアは目を大きく広げて叫んだ。
 「うみ・・・みずうみ・・・海ですわ〜っ!!」
 そう言うや否や、ミスティーアは着ているものを全て脱ぎ捨て、紺碧の湖に飛び込んだ
のだった。
 「わ〜いっ、うみ、海、うみ〜っ!!うれしいな〜っ。いやっほう〜っ!!」
 脱ぎ捨てられた赤紫のドレスと下着が宙に舞い。天鳳姫の頭に覆い被さった。
 歓喜の声を上げ、ミスティーアは産まれたままの姿で湖を泳ぎ始める。その様子を目を
点にして見ている天鳳姫。
 「あいや〜、大胆アルね。いきなりスッポンポンで泳ぐのコトか?」
 呆れた顔でミスティーアのパンティーを掴んでいる天鳳姫の横を、血相を変えたエルと
アルが走って行く。
 「ひめさま〜っ!!いけませんわ〜っ!!」
 「準備運動しないとダメですの〜っ。」
 見当違いな事を言いながらミスティーアを追うエルとアルだった。
 「あの〜、そー言う問題じゃないと思うのコトね。」
 声をかけようとしたが、等のミスティーアもエルとアルも、すでに声の届かない場所ま
で離れている。
 泳ぐミスティーアは、まさに水を得た魚であった。歓喜と自由の命ずるがまま、イルカ
のようにジャンプし、トビウオの如く水面を飛び跳ねる。
 「きゃっほ〜っ、いやっほ〜っ、わーいっ、わーいっ!!」
 楽園の水辺を戯れるミスティーアは、他に何も見えない状態だ。喜びの声を上げ、水と
一体化して舞い泳いでいる。
 それを見ながら、クスクス笑うレシフェとスノウホワイトが浜辺に歩み寄る。
 「ウフフ。確か、あの子は海育ちだったわね。」
 「・・・無理もありませんわ。久しぶりに泳ぐのですものね。」
 そう、ミスティーアの祖国ミケーネルは海洋国家である。
 ミスティーアは幼少より水と海に慣れ親しんで育って来た。それゆえ、泳ぎは彼女の十
八番とするところである。
 魔戦姫となってから、1度も水に身を委ねる事のなかったミスティーアは、久しぶりの
水の感触を存分に楽しんでいた。
 どばばば〜っと水飛沫を上げ、湖の中心目掛けて泳ぎ行く。
 その後ろを、エルとアルが追いかける。
 「「姫様〜っ、お待ち下さいですわ、の〜っ!!」」
 2人も泳ぎは得意であったが、ミスティーアには追いつけない。このままでは対岸まで
一気に泳ぎ切るであろう。
 その様子を見ながら、天鳳姫は呟いた。
 「炎使いのクセに水が好きってのは変アルね?どーせなら、ミスティーアさんは水使い
の方が良かったんじゃないアルか?」
 その言葉に、ウンウンと頷くレシフェとスノウホワイト。
 「まあ、そんな事はどーでもいいじゃないの。ミスティーアがあんなに楽しんでるのよ、
私達も泳ぎましょう。」
 そう言うなり、今度はレシフェがドレスを脱ぎ始める。
 上半身裸のレシフェは、片手を上げてアルカを呼んだ。
 「アルカーッ、水着を持ってきて〜。」
 その声に、トランクを持って駆け寄るアルカ。
 「姫様〜、こんな所で着替えたらダメですよ。誰かに見られたらどうするんです?」
 警戒心すら持たずに水着に着替えようとしているレシフェを見て、アルカは怪訝な顔を
した。
 でも等のレシフェは何処吹く風だ。
 「いいじゃないの、ここにいるのは私達だけでしょう。はい、これお願いね。」
 そう言いながらドレスをアルカに預ける。
 「知りませんわよ。覗き魔がいても・・・」
 文句を言うアルカに、スノウホワイトもドレスを持って来た。彼女もまた全裸状態だ。
 「アルカさん・・・これもお願いしますね。」
 「もうっ、スノウホワイト様まで・・・」
 すっかり怒る気もなくしているアルカだった。
 「え〜っと、どれにしようかしら。」
 トランクを探ったレシフェは、ブラジリアン・カットのボトム(カッティングしたタイ
プのボトム)にマリーン・ブルーのトライアングル・ブラを身に着け、スノウホワイトは
バックレスタイプの純白セパレート水着を着る。胸元と腰についているヒラヒラのフリル
がチャーミングだ。
 「ねえアルカ、似合う?」
 ポーズをとるレシフェを見たアルカが溜息をついて笑った。
 「ウフッ、良くお似合いですわよ姫様。」
 スタイルの良いレシフェは、どんな格好をしてもさまになるのだった。
 それにしても、身体の傷跡を見られる事を嫌っていたレシフェが、人前で肌を露にする
事はなかったが、今は昔の傷跡を気にする事もなく肌を露にしている。
 それほどまでに開放的な感覚になっている証拠だ。
 「アルカも着替えなさいよ。」
 「そうですわね、ではっ。」
 開放感に誘発されたアルカも服を脱ぎ始める。そしてダーク・ブルーのタンク・トップ
を身に着けた。
 「開放的過ぎるかもアルよ。ちょっと大胆のコトね。」
 そう言う天鳳姫に、レシフェとスノウホワイトが詰め寄る。
 「どーしたの天鳳姫。あなたは着替えないの?」
 「いや・・・あの・・・ワタシはその・・・」
 「恥かしがってないで、あなたも着替えなさい、ほらっ。」
 問答無用で天鳳姫を丸裸にするレシフェ。
 「んきゃっ!?ちょっと待つアルよ〜。ダメダメッ、いや〜んエッチ〜ッ。」
 ジタバタする天鳳姫に、3人掛りで水着を着せる。
 「これはどうかしら?やっぱり巨乳を強調するのが良いわね〜。」
 「天鳳姫様は羨ましいですわ〜。こんな立派な巨乳で〜。」
 「・・・水着の色はオレンジが似合うと思いますわ。」
 そう言いながら、天鳳姫を着せ替え人形にしているレシフェ達3人であった。
 天鳳姫が身に着けた水着は、巨乳にフィットするフルフィギャー・ブラ(フルカップ・
ブラ)のビキニだ。たわわな乳房を安定した円錐形のバストに保っている。
 (中世時代に、なんでこんなデザインの水着があるのだ?とゆー疑問はなされぬように・
・・魔界は何でもありなんですって。笑)
 はしゃいでいるレシフェ達の元に、リンリン、ランランも駆け寄って来た。
 「皆さん良くお似合いですね。」
 「カッコイイですズラ。」
 2人も上着を脱いで水着姿になり、スノウホワイトとアルカと一緒に水辺へと走って行
く。
 (リンリンとランランは黒のセパレートです。ちなみにエルとアルは、フリルのついた
黄色の幅広ビキニとボーイレッグ・ボトム。)
 だが、どーしたのか天鳳姫は、落ちつきない顔でウロウロしている。
 「何してるの、早く泳ぎましょうよ。」
 尋ねるレシフェに、困った顔で愛想笑いをする天鳳姫。
 「あ、あの〜。ワタシはいいのコトよ・・・ちょっと気分が悪いし〜、その・・・」
 「なによ、あなたさっきから変ねぇ。」
 落ちつきない様子に、レシフェはピーンときた。
 「はは〜ん・・・天鳳姫。あなた実はカナヅチね?そーでしょ。」
 鋭い指摘に、天鳳姫はギクッとする。
 「ノホホ・・・その〜。ワタシは泳げないじゃなくて・・・すこーし苦手なだけのコト
ね、ナハハ・・・」
 それを見て、イジワルな目付きで詰め寄るレシフェ。
 「そー言うのをカナヅチって言うのよ。心配要らないわ、泳げる様に私が特訓してあげ
ますわ〜。」
 レシフェは嬉々とした声で天鳳姫を無理やり水辺に引っ張る。
 「あいや〜っ!!レシフェさんのシゴキは過激のコトね〜っ!!いやアルよ〜っ!!」
 抵抗空しく(?)水辺に連行される天鳳姫でした・・・
 「それ〜、えいえいっ。」
 「あははっ、気持ちいい〜っ。」
 水の掛け合いをし、水辺で戯れる一同。
 眩しく降り注ぐ太陽の光と、輝く水面。真っ白な浜辺ではドワーフ達がボール遊びを楽
しんでいる。
 全てが開放的で自由であった・・・
 バーゼクスでの激戦の疲れも、楽園の湖によって癒される。最高の喜びに、魔戦姫達は
全てを忘れて遊んだ。
 だが・・・
 そんな一同の様子を監視している者の姿があった・・・
 浜辺から離れた場所に潜んでいるその者達の正体は?
 そして魔戦姫達は、この楽園たる場所で思いがけない人物と出会う事になるのだった。






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