魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第一話7


  猛毒の天女と血塗れの白雪姫
ムーンライズ

 同じ頃、リーリアと魔戦姫達もガスターク一味の殲滅行動を開始していた。
 ガスターク一味は城の各所に分散しており、それぞれの場所で略奪行為を繰り返してい
る。1箇所に集まっていれば殲滅は簡単なのだが、城の各所に散らばっている手下どもを
全員一度に殲滅するとなれば、それなりの大規模な行動が必要となり、それに伴う破壊も
否めない。
 無論、絶対的な破壊力を秘めている魔戦姫達が力を合わせれば、ガスターク一味と一緒
に、ミケーネルの城を丸ごと消滅させる事も可能だ。
 しかし、彼女等はそれを良しとはしなかった。
 なぜなら、ミケーネル城はミスティーアにとって掛替えの無い場所であり、それを奪わ
れる事はミスティーアに残されている最後の良心まで破壊する事になるからだ。
 もし、ミスティーアが良心を全て失えば、間違い無く自分の怒りや憎しみに精神を支配
されるだろう。そして、その魂は地獄の果てを永久にさ迷い、2度と戻る事は無い。
 そんな事にはしたくないのだ。
 それに、城には悪党どもに囚われている人々がいる。罪無き者を巻き添えにするわけに
は行かない。
 以上の事から、地味ではあるが魔戦姫が各自、城の各所にいる手下達をシラミ潰しに殲
滅していく事となった。
 一方、魔戦姫の出現を知らない手下達は、自身に近付く危険を知ることも無く、略奪と
破壊に勤しんでいる。
 城の食料庫では、次の略奪地への移動に必要な食料の運搬が行われており、手下達は城
の召使い達に強制させて食料を外に運び出していた。
 「おらっ、さっさと運べっ!!」
 クロスボウや銃を構えた手下達の罵声が響き、疲労困憊状態の召使い達は足元をふらつ
かせながら荷物を運んでいた。
 その召使いの1人が、荷物の重さに耐えられずに転倒した。
 「うう・・・も、もう動けません・・・休ませて・・・」
 「なんだとぉ?誰が休んでいいと言った!?さあ立つンだよっ。」
 手下に無理やり起こされた召使いは、よろけながら荷物を持とうとした。その召使いが
体を一瞬痙攣させ、再び倒れこむ。
 「う、う・・・うーん。」
 呻き声を上げながら、召使いは意識を失った。
 「てめえ、寝てンじゃねえっ!!起きろコラッ!!」
 手下は怒鳴りながら召使いを蹴り飛ばそうとした、その時である。
 ヒュッ、ヒュッと軽い音が響き、他の召使い達もバタバタと倒れて眠ってしまった。
 「な、どーしたんだ、こいつら・・・」
 突然の事に、手下達は驚愕する。よく見れば召使いの首筋に細い針が突き刺さっており、
どうやらこれで召使い達は眠らされた様である。
 誰がこんな事を・・・驚いた手下達は、慌てて周囲を見まわす。
 「やろうっ、どこのどいつだっ、こんなフザけたマネする奴はっ!?」
 喚く手下の声に答えるように、積み上げられた荷物の上から、クスクスと笑い声が聞こ
えてきた。
 「それは麻酔薬を塗った吹き矢アルね。良い人にアタシの姿見られたら困るのコトよ。
だからしばらく眠ってもらうアルよ。」
 「だ、誰だっ、てめえは!?」
 手下達が見上げると、そこには1人の若い東洋人女性が荷物に腰掛けて手下達を見下ろ
している。
 彼女の服装は、真紅と白を主体とした鮮やかな絹製の衣服で、東洋の絵画に登場する天
女のような姿をしている。
 鮮やかなのは装いだけではない。白い瓜実顔にはキリリと引き締まった美しい眼が輝い
ており、その黒い瞳が白い肌と合間って神秘的な印象を醸し出していた。
 「ウフフ・・・ワタシは天女様アルね、悪者やっつける正義の天女様アルよ。」
 東洋人女性はフワリと体を躍らせ、まるで舞い降りるかの如く床に降り立った。
 それは、まさに天女が降臨してきた様である。
 突如現れた天女に、数人の手下達が血相を変えて集まって来た。
 「よう、ねーちゃん。今何て言った?悪者やっつけるだあ?やれるもンならやってみろ
や。」
 フザケたマネをされて頭にきている手下達は、憤慨した顔で天女に詰め寄った。
 この状況から考えて、天女の立場が圧倒的に不利である事は誰が見ても明らかな事だっ
た。だが、天女は少しもたじろがない。むしろ余裕の表情だ。
 薄笑いを浮かべる天女は、手下達に向かって両腕をスッと上げる。衣の袖が捲れあがり、
白い腕が露になった。
 「ワタシの毒針爆射で、あなた達を眠らせてあげるのコトね。晩安(おやすみなさい)。
」
 天女がそう言った瞬間、彼女の腕から大量の針が飛び出し、手下達に突き刺さった。
 「うわっ!?」
 「ぎゃあっ!!」
 全身をハリセンボン状態にされ、悲鳴を上げて床に転げる手下達。
 天女の白い細腕からニードルランチャーの如く発射された大量の針。彼女は一体どうや
って大量の針を腕から発射したのか?天女は武器など持っていない、ただ腕を突き出した
だけだ。実は、その腕そのものが武器だったのだ。
 天女の腕には大量の針が仕込まれており、彼女の持つ(気)の力によって腕から撃ちだ
した針を、敵にお見舞いする技なのだ。
 そして・・・針の恐ろしさはそれだけに止まらなかった。
 体中に刺さった針を払った手下の1人が、怒声をあげて天女に飛び掛かってきた。
 「このクソアマーッ!!」
 目を血走らせて襲いかかる手下を、天女は身を翻すが如く交わす。
 「汚い事言うアルね、口が曲がるのコトよ。」
 天女の傍を通り過ぎた手下は、急に足をフラフラさせて床に倒れ伏した。その顔は真っ
青になっており、胸を掻き毟りながらのた打ち回った。
 「うがっ!?あがああっ。」
 彼の皮膚が見る見る内に紫色へと変色し、苦悶の表情を浮かべて苦しんだ。
 「がああ・・・く、くるしい・・・たすけてぇ・・・」
 苦しんでいるのは1人ではない。天女のニードルランチャーを浴びた手下の全てが口か
ら泡を吹き、全身を紫色に変色させて痙攣している。
 ニードルランチャーの針には、即効性の猛毒が仕込まれていたのだ。それも助かり様の
無い強烈な猛毒だ。
 その猛毒こそは・・・天女自身の体液である。
 やがて、手下達は苦悶の表情のまま全員動けなくなった。 手下達を倒した天女はスッ
と両手を上げる。
 「任務完了アルね。後は召使いサン達助けるのコトよ。」
 すると、麻酔薬で眠らされている召使い達の体が吊り上げられるかのように宙に浮かび
上がった。
 彼女は念力を使って召使い達を持ち上げたのだ。
 天女は持ち上げた召使い達を念力で運んで行く。そしてもう一度、倒した手下達に目を
向けた。
 「クスクス・・・中国四千年の歴史、たっぷり味わってオネンネするヨロシ。再見(さ
ようなら)、悪者サン。」
 冷笑を浮かべた天女こと東洋の魔戦姫は、軽く手を振ってその場を後にした。
 
 別の場所では、1人の手下が逃げたメイドを捕らえるべく城の中を歩き回っていた。
 城のメイドの殆どは捕らえられ、ガスターク一味の餌食にされていた。その中で、辛う
じて手下から逃げ延びたメイドがいたのだが、ガスターク一味が城の中を徘徊しているた
め、城から逃げる事ができず袋のネズミ状態になっている。
 手下は、狩りを楽しむが如くメイドをわざと追い詰め、心理的にいたぶっていた。
 「子猫ちゃーん、どーこーだー?隠れてもムダだよー。イジメてあげるから出ておいで
ー。」
 手下のサディスティックな声が廊下に響き、近くの部屋に隠れていたメイドは、恐怖に
震えて動けなくなっていた。
 「あうう・・・だれか助けて・・・おねがい・・・」
 泣きじゃくりながら助けを請うメイド。だが、城の中で彼女の助けになる人物はいない。
 皆、捕まってしまったのだ。彼女の仲間も、友達も、みんな捕まって酷い目に遭わされ
ている。
 ただ1人残されたメイドは、抵抗も逃亡もできず、恐怖に耐えて神に祈るしか術はなか
った。
 「どうか見つかりません様に・・・捕まった友達がこれ以上イジメられませんように・・
・どうか・・・」
 彼女の切なる願いは、静かに闇に吸いこまれていった。
 コツン、コツンッ。
 不意に廊下から足音が響き、メイドは全身を強張らせた。その足音は紛れもなく凶悪な
悪党の足音だ。
 そしてドアの外から、悪夢の声が聞こえてくる。
 「んふふ〜ん、ここに隠れているのかな〜。」
 イジワルげな声でドアを開けた手下は、暗い部屋の中を見回した。メイドは机の下に隠
れているので、手下の視界には直接入らない。
 だが、彼女が手下に見つかるのは時間の問題だ。しかも部屋には逃げ場はない。
 絶望的な状況の中、手下の足音がメイドに迫ってくる・・・絶体絶命であった。
 「ああ、神様・・・」
 メイドがそう呟いた時である。不意にメイドが隠れていた机の影から無数の手が伸びて
きて、メイドを掴んだのだ。
 突然の事に叫び声をあげそうになるメイド。
 「ひうっ?・・・うう・・・」
 影から出現した手はメイドの口を押さえて動きを封じ、闇の中へと引きずり込んでいっ
た。その行動は、近寄ってきた手下に悟られる事無く隠密に、そして速やかに行われた。
 部屋でメイドを探している手下は、お目当てのメイドが消えた事など全く知らずに、部
屋を徘徊しながら脅し文句を吐いていた。
 「さっさと出てきな、子猫ちゃーん。出てこないとお前の友達がヒドイ目にあうよー、
もう逃げられないぜぇ〜。」
 部屋をキョロキョロ見渡した手下は、メイドが隠れているであろう机の下に視線を移し、
机を蹴飛ばした。
 「かくれんぼは終わりだ、出てこいっ。」
 怒鳴る手下だったが、そこにはメイドはいない。
 「ちっ、ここだと思ったんだが。」
 がっかりした手下は部屋を出ようと振り向き、ドアを見た。そして・・・驚きの声を上
げた。
 「な、なんだお前は・・・」
 ドアの前に純白のドレスを着た美しいお姫様が立っていたのだ。
 純白のドレスに雪のような白い肌の姫君・・・まるでお伽話の(白雪姫)がその場に出
現したかのような錯覚を催すそのお姫様を前にして、手下は我が目を疑った。
 (何者だ?部屋に入ってきた気配もないし・・・だいたい、晩餐会でこんな奴いたか?)
 晩餐会の会場には数多くの淑女がいたが、こんなお姫様はいなかったはずだ。お姫様は、
ミケーネルの姫君であるミスティーアただ1人である。
 その(白雪姫)は、どこか申し訳なさそうな目で手下を見ている。そして口篭もったよ
うな口調で問い掛けてきた。
 「あの・・・あなたはここで何をしているのですか?」
 「はあ?」
 あまりにも不自然な(白雪姫)の問いに、手下は少し困惑した顔になった。
 今のミケーネル城の状況を見れば、手下が何をしているか即座に判る筈だが、この(白
雪姫)はそんな事すら理解していないような口調だ。
 「何をしてるかってぇ?はっ、決まってるじゃねーか。カワイ子ちゃんをイジメてるん
だよ。」
 イジメてる・・・その言葉に、(白雪姫)は少し暗い顔をした。
 「そう・・・弱い者イジメしてらしたの・・・そうですの・・・」
 しおらしくする(白雪姫)に、手下は淫乱な感情を露にして迫った。
 「弱い者イジメして悪いかよ。イジメられてる奴の心配より、自分の心配したらどうな
んだ。」
 迫る手下は、(白雪姫)の肩を掴んで強引に押し倒す。彼女は小さな声を上げて転倒し
た。
 「あ・・・何をなさるのです・・・」
 「何をだあ?お上品ぶりやがって。いいだろう、たっぷり教えてやるぜ。その体に直接
なあっ。」
 馬乗りになった手下は、純白のドレスを引き裂き始める。非力な(白雪姫)は、無抵抗
のまま手下に蹂躙された。
 「あう・・・いけません・・・弱い者イジメはやめて・・・」
 「弱い者イジメは俺の得意技でねぇ、どうやってイジメてやろうか(白雪姫)様よお。」
 ドレスを全て引き破った手下は、露になった雪の様に白い乳房を鷲掴みにする。
 「柔らけぇ、マシュマロみてーだ。(白雪姫)とヤレるなんて最高だぜ。」
 「いや・・・ダメですわ・・・そんな事したら・・・ああ・・・」
 胸を揉まれた(白雪姫)は、今にも消えそうな声で喘いだ。その非力さが、手下のイジ
メ心を刺激する。
 「イヒヒッ、いいねぇ〜、その弱そうな声。なーんてイジメ甲斐のある奴だ。さあ、も
っと良い声で泣きなっ。」
 手下は無抵抗の(白雪姫)を容赦なくイジメる。パンティーを引き破り、一糸纏わぬ裸
体を舐めまわし、汚れない新雪を踏み荒らすが如く(白雪姫)をイジメた。
 「あひい・・・もうやめて・・・やめて・・・」
 (白雪姫)はイヤイヤをする様に首を振り、涙を流して懇願した。
 「へっ、いまさら何言っても遅いンだよっ。さあ、俺のをブチこんでやるぜぇ〜!!」
 歓喜の声をあげる手下は、(白雪姫)の秘部に怒張したイチモツをねじ込んだ。
 激しい腰の動きに翻弄される(白雪姫)は、喘ぎ声を上げて悶える。
 「はうっ、あう・・・あう・・・」
 「感じてるのかい(白雪姫)様よ〜。俺も感じてるぜ〜。最高のオ○ン○だぁ、イカせ
てやる、そらそらっ。」
 手下は激しく腰を振り、純白の雪の中に汚らわしい精液をブチまけた。
 「お、おおう、きもちいいぜ〜。」
 恍惚とした顔の手下は、体を震わせて快感に酔いしれた。
 汚された(白雪姫)は、両手で顔を覆いシクシク泣き声をあげている。
 「はう、あ・・・うう・・・ああ、あなたは・・・私を・・・私をイジメましたね?」
 「あ〜ん?何寝言ほざいてやがる。こんなとこにノコノコ出てきたてめえが悪いんだよ。
恨むんなら自分のバカさ加減を恨むんだな。」
 吐き棄てる様にそう言った手下は、ブロンドの長い髪を掴んで睨んだ。
 「お前がどこの誰かは知らんが、これほどの上玉は他にいねえ。奴隷商人に売り飛ばせ
ばいい金になるぜ。逃げようなんて思うな、俺達に捕まったのが運の尽き。お終いなんだ
よ、へへっ。」
 邪悪に笑う手下に、(白雪姫)は悲しそうな声で呟いた。
 「ええ、もうお終いですわ・・・あなたが・・・」
 その声に手下は怪訝な顔をして喚いた。
 「あなたがって・・・そりゃどーいう意味だっ!?」
 「それは・・・あなたがあの子達を怒らせたからなの・・・」
 「へっ?」
 不意に、手下の後ろから囁くような声が聞こえてきた。
 「イジメタ・・・ヒメサマ、イジメタ・・・」
 そして暗闇からヒタヒタと足音が響いてきた。それも大人の足音ではない、子供と思し
き複数の足音だ。
 不気味な気配に戦慄を覚えた手下が思わず振り返ると、彼の視界に、7人の小さな人影
が映った。
 ぎこちなく歩くその人影は、ダブダブの服に赤い三角帽子を被った7人の子供・・・否、
子供を模した人形であった。
 その人形達を目の当たりにして、手下は目を丸くした。
 「あの小娘が白雪姫って事は、こいつらは7人のドワーフか?」
 手下の言う通り、その人形達は(白雪姫)に登場する7人のドワーフであった。
 木で出来たドワーフ人形達は、まるで生きているかの如く歩き、手下に向かって歩いて
くる。
 操り人形でもない、カラクリ人形でもない。どう言う原理で動いているのかすら全く判
らない。
 しかし、手下にとってそんな理屈はどうでもいい事だった。
 「けっ、脅かしやがって・・・この人形どもがお前の仇を討つってか?上等だ、やって
もらおうじゃねーかっ!!」
 吠えた手下は、向かってくる7人のドワーフを蹴飛ばした。蹴飛ばされた人形が次々宙
に舞う。
 床に転がった人形を見据える手下は、フンと鼻息を荒げて(白雪姫)に向き直った。
 「さあ、頼みの人形どもは片付けたぜ。今度こそ覚悟決めな。」
 勝ち誇った様な態度の手下だが、そんな彼を(白雪姫)は絶望的な眼で見ている。
 「ああ、何て事を・・・私だけでなく、あの子達まで・・・もう誰にも止められない・・
・あなたはお終いですわ・・・」
 悲しそうに泣きじゃくる(白雪姫)に、手下は逆上した。
 「てめえまだそんな事言ってやがるのかっ!?いい加減にしや・・・」
 手下の声が止まった。倒れていたドワーフ人形達が平然と起き上がり、再び手下に向か
って歩き始めたのだ。
 「こ、こいつら・・・」
 無表情に歩いてくる人形を見た手下の背中に、冷水を浴びせられたような悪寒が走った。
 「く、くるな・・・やめろお!!」
 怯える手下の体に細いロープが飛んできて絡まる。背後に回ったドワーフ人形が、腕の
部分からロープを発射して絡めたのだ。
 「ひっ!?何しやが・・・うわっ!!」
 ロープでグルグル巻きにされた手下が床に倒れた。ジタバタ足掻くが、強靭なロープを
断ち切る事も解く事も出来ない。
 恐怖に慄いた手下が、悲痛な声で(白雪姫)に助けを求めた。
 「ひいっ、助けてくれっ、こ、こいつ等をなんとかしてくれーっ!!」
 「ダメですわ・・・その子達を止める術はありません・・・」
 「そ、そんな・・・」
 「もう諦めなさい・・・アウフヴィーダーゼーン(さようなら)。」
 (白雪姫)の非情な宣告が告げられ、動けなくなった手下に、人形達が迫る。
 「あわわ・・・た、たすけて・・・」
 「オマエ、ワルイヤツ・・・ヒメサマ、イジメタ・・・ボクタチ、イジメタ・・・」
 口々に呟きながら迫る人形達の腕から、シャキンと音をたててナイフが飛び出した。そ
して・・・ドワーフの顔が横に大きく割れ、鋭い牙が並んだ口が開いたっ。
 「ワルイヤツ、ユルサナイ・・・ワルイヤツ・・・イジメテヤルーッ!!」
 一斉に飛びかかるドワーフ達。
 そして部屋に手下の絶叫が響いた。
 
 手下の声は、近くを通りかかった仲間の耳にも入った。
 「おい、今の声はなんだ。」
 「悲鳴だぞ。何があったんだ?」
 数人の手下達が、悲鳴のあった方に向かって走る。悲鳴が聞こえたのは廊下の向こうか
らだった。
 手下達が廊下を走っていくと、その先からハイホー、ハイホーという歌声が聞こえてき
た。
 「あれは・・・」
 手下達が廊下の向こうに視線を移すと、7人のドワーフ達が気を失っているメイドを抱
えて歩いてくるのが見えた。
 ドワーフ達は、唖然とする手下達を無視し、歌声を上げながら何処かへとメイドを運ん
でいった。
 ポカンとしていた手下の1人が、我に返って廊下をかえりみる。すると、ドワーフ達が
歩いてきた方向から、全裸の美しい娘が歩いてくるのが見えた。
 手下達は全裸の娘に目を奪われ、立ち止まった。
 「なんだあいつは・・・」
 その娘(白雪姫)の片手には、ボロボロになった純白のドレスが握られており、彼女の
目には、大粒の涙が流れている。
 その様子を見た手下達は、悲鳴のあった事を忘れて全裸の娘に詰め寄った。
 「へへ・・・いい格好してるじゃねーか。俺達と遊んでくれるのかい?」
 色欲を剥き出しにした手下達は、美しい(白雪姫)の裸体に見とれてヨダレを垂らして
いる。その様は卑しいケダモノだ。
 そんな手下達を見た(白雪姫)が、破れたドレスをスッと前に突き出した。
 「卑しい人達・・・あなた達の真実の姿を見せてあげますわ。」
 その声と共にドレスが宙に舞い、クルリと弧を描いて別の物体・・・円形の鏡に変化し
た。
 突然の事に、手下達は声も上げれないほど驚いている。その彼等の姿を、円形の鏡は映
し出した。
 しかし、鏡に映ったその姿は・・・
 「な、なんだあれは。」
 「ば、バケモノじゃねーかっ。」
 鏡に映っているのは、見るもおぞましい化物の姿だった。鏡に映った手下の姿が、その
まま化物の姿になって映し出されているのだ。
 手下達は慌てて自分の手を見てみる。すると!!
 「ひっ!?こ、これはぁっ!!」
 手下達は絶叫した。なんと、手下達の姿が鏡に映った姿そのままの醜いバケモノと成り
果てているのだ。
 「う、うわああーっ!!ど、どうしちまったンだ俺達はぁ〜!!」
 泣き叫ぶ手下達に、(白雪姫)は冷たく言い放った。
 「それがあなた達の真実の姿です。その醜い化物となったあなた達に最も相応しい場所・
・・地獄に案内して差し上げましょう。」
 その瞬間、鏡の中に亡者の阿鼻叫喚が響く、地獄絵図が映し出され、手下達がその中へ
と吸い込まれて行った。
 「ひいいーっ・・・たぁ〜すけてえぇぇぇ・・・」
 「いやだあぁぁぁ・・・」
 悲痛な叫びを飲みこみ、地獄を映していた鏡は元の鏡に戻った。そして(白雪姫)が鏡
に手を触れると、鏡は一瞬で純白のドレスに早変わりし、彼女の体に装着された。
 ドレスを着た(白雪姫)は、懐から縦長のコンパクトに似た物を取り出して広げた。す
ると、コンパクト上部の鏡の部分(ディスプレイ部にあたる)に、リーリアの顔が映し出
された。
 そのディスプレイに映ったリーリアに(白雪姫)は話し掛ける。
 「リーリア様、こちらブラッディー・スノウホワイト。逃亡していたメイドの保護及び
手下達の殲滅を完了しました。」
 コンパクトから、魔戦姫の長であるリーリアの声が響く。
 (よろしいですわ、これで城に残っているメイドや召使い達は全員保護しましたね。後
は会場に残っているガスターク一味だけ。すでに各自会場に向かっています。ブラッディ
ー・スノウホワイト、貴方も急ぎなさい。)
 「判りました。」
 (白雪姫)は、簡潔に返答を済ませてコンパクトを懐にしまった。
 そのコンパクトに似た物は、魔戦姫が離れた場所にいる仲間と連絡を取り合うために使
う、携帯情報端末にあたるアイテムである。
 現代風に言えば携帯電話と言えるそのアイテムの機能は、音声、映像、文字による1対1
の通信機能に加え、リアルタイムチャットやメーリングリストによる多数対多数の通信も
可能である。
 入力方法は音声と脳波方式なので、指での操作は不用であり、持ち主の魔力を電力(?)
に変換して使用するため、バッテリー切れなどの心配もない。通信方式は、異次元空間通
信システムを使用しているので、如何なる場所からでも通話が可能となっている。
 また、ディスプレイには現在地や端末を持っている仲間の位置を地図で表示するGPS
としての機能も備えており、どんな場所にいても互いの位置確認が出来る。
 現代の携帯端末装置を遥かに凌駕するそのアイテムは、リーリアが魔界のアイテム技術
者に特注で造らせた物で、魔界でも極めて希少な魔水晶を本体内部に装備しているため、
普通の魔族が手に入れることの出来ない高価なアイテムである。
 魔界の有力者から資金援助を受けている魔戦姫は、各自で一台ずつ携帯端末を装備して
おり、世界各地に散っている魔戦姫同士での通話で重要な役割を果たしているのだ。
 連絡事項を伝え終えた血塗れの(白雪姫)は、魔戦姫としての勤めを果たすべくガスタ
ーク一味のいる会場へと向かって行った。



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