魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第一話5


  新たなる魔戦姫の誕生
ムーンライズ

  そこは漆黒の闇が支配する世界の真っ只中であった。
 夢とも現ともつかない意識の中、ミスティーアは目覚めた。
 「う・・・ここは?」
 目覚めた彼女は、自分が仰向けに寝た状態で宙に浮いている事に気が付いた。一糸纏わ
ぬ姿で暗闇に浮いているのだ。
 全裸の体には、ガスターク達に傷つけられた傷跡が生々しく残っている。
 そして、自分の体が全く動かない事にも気が付いた。
 「動けない?どうして・・・」
 声を発する事は出来るが、手足は神経が麻痺したように指一本動かせない。
 首が動かないので、目だけを動かして辺りを見回す。周囲には9人の人影が彼女を囲む
様に立っている。
 その顔をはっきりと見ることは出来ないが、着ている衣装から、それが全員女性である
ことがわかる。
 過半数は西洋のドレスを着ているが、中には東洋の民族衣装や、サリーと思しき衣装を
着ている者もいる。
 その中の1人が音も無く歩み寄ってきた。
 「闇の世界へようこそ、ミスティーア姫。貴方が私達の同士になる事は大変喜ばしい事
だわ。我等魔戦姫一同、貴方の仲間入りを歓迎致します。」
 その人物はミスティーアを連れ去った悪魔、リーリアであった。そして、周囲の女性こ
と、魔戦姫達もミスティーアに歩み寄って挨拶した。
 「始めましてミスティーア姫。」
 「ウェルカム、トゥ、プリンセス・ミスティーア。」
 「ヨウコソ、コンニチワ。」
 「サリュ。」
 「ドーブルイ・ジェーニ。」
 「グーテンターク。」
 「ニィーハオ。」
 「ナマスカール。」
 自国の言葉で口々に挨拶をする魔戦姫達。
 その姿は、いずれも美しき姫君の装いをしており、気品溢れる独特の雰囲気を醸し出し
ている。
 「魔戦姫は私を含めて全員で9人。そしてミスティーア姫、貴方は映えある10人目の
魔戦姫となるのです。」
 リーリアは魔戦姫達の前に立ち、ミスティーアの仲間入りを歓迎した。リーリアの態度
からして、彼女が魔戦姫の最高位たる頭目である事は間違いなかった。
 闇の恐怖に怯えるミスティーアは、震える声で頭目リーリアに質問する。
 「あなた達は一体・・・魔戦姫とは一体なんなのですか・・・?」
 質問されたリーリアは、周囲の女性達を手で指し示し、全てを語った。
 「前に言ったように、私達魔戦姫は悪を滅ぼすために存在する闇の者です。私を始め、
後ろの8人の者は皆、かつては人間界で民達から愛され、称えられた姫君でありました。
でも・・・」
 僅かの沈黙を置くリーリアの表情が不意に曇った。
 「いつの時代にも無慈悲な悪党が存在するのです。私達は貴方と同様に悪党に身を汚さ
れ、全てを奪われました。ある者はピクニックに出かけた際、盗賊に襲われ、ある者は敵
国の軍隊に蹂躙され、またある者は権力を傘に着た卑劣な暴君に陵辱され・・・そして何
もかも踏み躙られ、地獄に蹴落とされました。私達は、その恨みを晴らすために悪魔と契
約を結んだ同士なのですよ。」
 切々と語るリーリア。彼女が最後に語った言葉がミスティーアに言い知れぬ恐怖をもた
らした。
 (悪魔と契約を結んだ同士・・・)
 その言葉がミスティーアの小さな胸を突き刺す。
 自分も悪魔の仲間になれと言うのであろうか・・・
 「私は、私は・・・一体どうなるの?」
 不安に駆られるミスティーアに歩み寄り、額にキスをするリーリア。
 「貴方をこれから魔戦姫にするべく、肉体への改造を施します。心配はいらないわ、苦
痛は一瞬。その後には素晴らしい快楽が貴方を包むでしょう。」
 そう言うと、ミスティーアの乳房の谷間に指を置いた。
 「では・・・覚悟はよろしいですか?」
 リーリアの声は穏やかであるが、その口調には有無を言わさぬ迫力が込められている。
 「あ、ああ・・・ダメ・・・やっぱり私は・・・私は・・・」
 ミスティーアの心に後悔の念が過った。
 でも・・・もう遅いのだ。絶対的な悪魔の契約を交わしてしまった以上、彼女に引き返
す道は無かった。
 そして、胸に置かれた指に力が入る。
 「闇の王にして正義の支配者よっ、かの者に永遠不滅の肉体を与えたまえっ!!」
 叫んだリーリアの指が、白い肌を突き刺した
 「うあっ!?あああーっ!!」
 ミスティーアの胸に強烈な痛みが走る。指は肉を貫き、心臓にまで達する。
 心臓にまで達した指先から闇の波動が発せられ、心臓は異形の物質へと変化していった。
 変化した心臓は激しく鼓動し、体は勿論、指先から髪の先に至るまで闇の波動を送り込
んでいく。
 「はうっ!?あ、あがっ、あうああーっ!!」
 体中の毛細血管が破裂せんばかりに膨張し、激痛に耐えかねて悲鳴を上げるミスティー
ア。
 「いやーっ!!もうやめてっ、ああーっ!!」
 送り込まれる闇の波動は、泣き叫ぶ彼女に対して容赦無く肉体改造を施した。
 闇の波動に接触した部分は、全て闇の物質に変化する。それは、健全な細胞がガン細胞
に侵されるが如く、細胞の一つ一つに至るまで闇の物質へと変貌せしめた。
 ミスティーアの薄い赤紫のカールヘアーが、見る見る内に漆黒の髪へと変化し、輝くエ
メラルドグリーンの瞳も、深い闇を宿した暗黒の瞳へと変わっていった。
 体を侵食した闇の波動は、最後にミスティーアの脳にまで浸透し、彼女に悪と戦うため
の能力、魔術の使い方や知識、自我を保つための方法、そして弱き者を助ける術・・・様
々な事をもたらしていく。
 やがて・・・その全てを受け入れたミスティーアの心に、魔戦姫となって悪と戦う決意
が固まっていった。
 それはある意味、洗脳ともとれる状況であったが、しかし・・・たとえ自分は悪魔に利
用されているだけだとしても、これで家族やアドニスの仇をとる事が出来るなら本望であ
る・・・そう思うようになっていた。
 それはミスティーアの瞳が強い決意に漲っている事で理解する事が出来る。
 その時点で肉体改造は終了を告げた。
 ミスティーアの肉体改造が終了したのを見届けたリーリアは、胸からゆっくりと指を引
き抜いた。傷口は速やかに塞がり跡形も無く消え去る。それはガスターク一味につけられ
た傷も同様だった。
 ミスティーアは今まさに、至高にして不滅の肉体を手に入れたのであった。
 だが、魔戦姫となるための試練はまだ終わってはいない。
 「肉体改造の次は、貴方に闇の快楽を施します。魔戦姫は己の性をも武器として戦わね
ばなりません。その快楽に耐えうる精神力を持つ事で、無敵の力を発揮する事が出来るの
です。」
 リーリアがそう言うと、ミスティーアが浮いている場所の真下から不気味に蠢く触手が
出現した。
 それと同時に、ミスティーアの足が目に見えない力で大きく広げられ、秘部が露になっ
た。
 「あ・・・な、何を、ひっ!?」
 広げられた股間から、先ほど出現した触手が鎌首をもたげて姿を現した。触手の先端は
勃起した男性器のそれと酷似しており、秘部目掛けて突き進んでくる。
 迫り来る触手に怯えるミスティーア。
 「いやっ、ダメッ、こないでっ!!ひいっ!?」
 触手はミスティーアの悲鳴を無視して秘部に食い込んできた。触手は激しく振動しなが
ら秘部を刺激し、おぞましいとも気持いいともつかない異様な快楽をミスティーアにもた
らした。
 「はうっ、ううあ・・・何これは・・・き、気持いい・・・」
 悶えるミスティーアの膣内に、黒く異質な液体が大量に流し込まれる。
 その液体は、闇の快楽をもたらす魔液であった。
 耐え難き快楽に翻弄されるミスティーアは、今にも気が狂いそうになって叫んだ。
 「ああ〜っ!!もう・・・ダメ・・・い、いく・・・」
 だが、悶えるミスティーアは快楽に堕ちる事を許されなかった。
 「耐えるのよミスティーア姫っ。その快楽を克服して始めて・・・宿敵ガスタークを倒
せる力が貴方にもたらされるのですっ。」
 宿敵ガスターク・・・その言葉が、絶頂を迎えんとしていたミスティーアの精神を奮い
立たせた。
 「うあ・・・私は負けない・・・ガスタークを倒すまでは・・・」
 怒りが、そして憎しみが快楽を超越した。
 それを満足に見るリーリア。
 「素晴らしいわミスティーア姫・・・それでこそ魔戦姫として相応しいっ。」
 やがて魔液は全てミスティーアに注ぎ込まれ、彼女の秘部から触手が抜き取られた。そ
れと同時に彼女を拘束していた目に見えない力が消滅し、体が黒い床に転げた。
 「はぁうっ、う・・・はあ・・・はあ・・・」
 床に寝そべり、快楽の余韻に浸っていたミスティーアは、自分の体が元のように動かせ
る事に気が付いた。
 傷も媚薬の影響もなくなっている。彼女の体は完全に復活していた。
 「あ・・・うごく・・・あはは・・・動かせる・・・」
 喜ぶ彼女の前に、数人の黒衣の侍女達がタオルを持って現れた。黒衣の侍女を前にして
戸惑うミスティーア。
 「え・・・あ、あの。」
 黒衣の侍女達は、恭しく一礼をしてミスティーアの汗まみれになった体をそっとタオル
で拭いた。
 体が綺麗になると、今度は櫛を取り出して黒く染まったカールヘアーを梳き始めた。ミ
スティーアは黒衣の侍女達の行為を嫌がる理由も無かったので、されるがままに身を任せ
た。
 甲斐甲斐しい黒衣の侍女を見ていたミスティーアは、ふと、自分の侍女であるエルとア
ルの事を思い出した。
 ガスターク一味に蹂躙され、自分同様ひどい怪我を負っているはずだ。
 「そうだ、あの子達はどうしたのかしら。確か・・・ガスタークの手下にイジメられて
から気を失っていて・・・私と一緒に連れ去られて・・・」
 2人の安否を心配しているミスティーアの元に、リーリアが彼女の直属の侍女を伴って
現れた。
 「貴方の侍女達なら心配いりませんわ。2人とも順調に回復していますわよ。あれを御
覧なさい。」
 リーリア直属の侍女は、2つの巨大な(繭)を運んできていた。
 その繭の表面は生き物の様にビクンビクンと躍動していて、その中に包んでいる(モノ)
を大切に保護している。
 突如現れた巨大な繭に驚くミスティーア。
 「こ、これは?」
 ミスティーアの質問に、リーリアが口を開いた。
 「これは貴方の大切な侍女達を蘇らせるための繭ですわ。」
 「侍女達って・・・まさか、この中にエルとアルが・・・」
 「大丈夫ですよ、2人はまもなく(誕生)します。」
 (誕生)と、意味ありげな事を言うリーリア。唖然とした顔で繭を見ていたミスティー
アの眼前で、その繭がバリバリと破れ始めた。そして、その中から、2人の娘が全裸状態
で転がり出てきたのだ。
 「あ・・・エルッ、アルッ!!」
 転がり出てきたのは、紛れも無くエルとアルの2人であった。羊水のような液体に濡れ
た2人は、うずくまったまま動かない。
 「2人とも目を覚ましてっ。」
 叫ぶミスティーアの肩を、リーリアはそっと掴んで首を横に振った。
 「心配要らないって言いましたでしょう?」
 そんなリーリアの声に答えるように、黒衣の侍女達がエルとアルの体についた羊水をタ
オルで拭き、黄色いドレスを着せた。
 双子の2人に同じ色のドレスを着せれば、まさに瓜2つ状態である。どちらがエルで、
どちらがアルか全く判らない。
 その意識の無いまま眠っている2人の傍らに歩み寄ったリーリアが、指をパチンと鳴ら
した。
 「さあ起きなさい、ヒヨコさんたち。」
 その声と共に、エルとアルは目覚めた。
 「うう〜ん・・・頭がクラクラしますわ〜。」
 「眠いですの・・・まだオネムですの〜。」
 いきなり起こされ目をグルグルさせている2人に、ミスティーアが駆け寄った。
 2人の体はミスティーアの体同様、完全に傷が癒えていた。おそらくは(繭)が2人の
傷を回復させていたのであろう。
 「エル、アル、大丈夫?」
 「ひ・・・姫様・・・ですわ・・・」
 「ひ・・・姫様・・・ですの・・・」
 互いの無事を確かめた3人は、声を上げて強く強く抱きしめ合った。
 「2人とも無事だったのねっ!?」
 「無事ですわーっ、姫様も無事でうれしいですわーっ。」
 「姫様っ、寂しかったですのーっ、怖かったですのーっ。」
 抱き合う3人を、リーリアを始め魔戦姫のメンバーが愛しそうに見ている。
 魔戦姫の中には、感極まって涙を流している者もいた。
 「可哀想に・・・辛かったでしょうね・・・悲しかったでしょうね・・・」
 その泣き声は、抱き合っていたミスティーアにも聞こえた。
 「あなた方は・・・」
 涙を流している魔戦姫を見て呆然とするミスティーア。
 リーリアを始め他の魔戦姫も、潤んだ眼で目でミスティーアを見ている。
 リーリアはミスティーアを連れ去る時に(私は闇の者)と言っていた。それに、魔戦姫
の1人レシフェはガスタークの手下を冷酷無情に処分した。そんな魔戦姫に人間らしい感
情は無いと思っていたのだが、それは間違いである事をミスティーアは悟った。
 彼女等は、本当は心優しいのだ。
 ただ・・・悪を憎み、悪と戦わねばならない彼女等は、自分の感情を表には出さない。
 ほんの僅かな幸せに浸る時・・・その時だけが彼女等が本来の自分を取り戻す時なのだ
った。
 魔戦姫達は皆、心に深いキズを負っている。悪党に無垢な体を汚され、辱められ、全て
を失った彼女等は憎しみと怒りに身を焦がし、宿敵を討ち果たすため悪魔に魂を売ったの
だ。
 絶対的な悪魔の力と引き換えに、彼女等は永遠に悪と戦い、罪なき者を救う使命が課せ
られている。
 そんな彼女等にとって、純粋な喜びや幸せのワンシーンを見る事は、疲れた心を癒す最
高のシチュエーションとなっているのだ。
 だが、彼女等には喜びに浸っている猶予は無かった。
 戦いが迫っているのだ。ミスティーアを苦しめ、罪無き人々を奈落に蹴落としたガスタ
ーク一味を倒さねばならない。
 「さあみんな、狩りの時間よ。」
 リーリアが皆に戦いの開始を告げた。
 その声を受け、魔戦姫達は目を拭ってリーリアに向き直った。
 突然の事に、ミスティーアも双子の侍女達も戸惑っている。
 「狩りって・・・ガスターク一味と戦うのですか・・・」
 「そうです、あれを御覧なさい。」
 リーリアの指差す方向に、巨大なスクリーンが出現した。
 そこには・・・ミケーネルの城を占拠したガスターク一味が、略奪と蹂躙の限りを尽く
しているシーンが映し出されていた。
 晩餐会の会場には奪われた金品が山積みにされ、その前で若い淑女や召使いの娘が手下
に強姦されている。
 悪党どもの首領ガスタークは、会場の奥に陣取って酒を煽っていた。脇に愛人をはべら
せ、頭にはミケーネル領主から奪った黄金の王冠を被っている。
 しかも、彼の足元にはミケーネル領主と、その子息達の遺体が並べられていた。
 ボロ雑巾の様にされたミケーネル領主と子息を、ガスタークは無情にも足蹴にし、手下
の乱痴気騒ぎをゲラゲラ笑いながら見ているのであった。
 「ガスターク・・・よくも・・・お父様を・・・」
 悪烈なるガスタークを見た途端、ミスティーアの心に強烈な憎悪が炎となって燃え盛っ
た。それは2人の侍女も同じだった。
 「許しませんわ、あの悪党・・・」
 「やっつけるですの、仕返ししますの・・・」
 スクリーンに、ガスタークが拳銃で虫の息になっている貴族の息の根を止めるシーンが
映り、貴族の伴侶であろう若い淑女の泣き叫ぶ声が反響する。
 そして・・・嘲笑うガスタークは、足元に転がる遺体の1つを蹴飛ばした。それは紛れ
も無い、ミスティーアの最愛の兄アドニスだったっ。
 それにより、ミスティーア達の怒りが絶頂に達した。
 「うわああーっ!!」
 3人の絶叫が闇にこだまする。そんな怒り狂うミスティーア達を、リーリアが制した。
 「待ちなさいっ、今ここで怒りを振るってもどうにもなりませんよっ!?」
 3人を制したリーリアは、片手をミスティーア達に向けた。その手の平から、静かな闇
の波動が満ち溢れ3人を包んだ。
 「う、あ・・・?」
 闇の波動を受けたミスティーア達は、怒りを強制的に静められてその場に座り込んだ。
 ミスティーア達を制したリーリアの額から一筋の汗が流れている。
 「ふう・・・これほどの怒りの力を持っているとは・・・」
 高位魔戦姫リーリアの手に余るほどの凄まじい怒りを、3人は有していたのである。そ
の怒りは正に地獄の業火であった。
 額の汗を拭ったリーリアは、踵を返して直属の侍女達に声をかけた。
 「例の物をここへ。」
 「はい。」
 リーリアの命に従った侍女達は、一着のドレスを手にしてミスティーアの前に立った。
 「ミスティーア姫、お召し物でございます。」
 恭しく跪く侍女達は、戸惑うミスティーアにドレスを着せた。ドレスを見た途端、ミス
ティーアは驚嘆の声を上げた。
 「こ、これは・・・」
 それは息を呑むほど美しく、そして神々しいまでの気品を醸し出すドレスであった。そ
のドレスの胸元には、深緑に輝くエメラルドが光っている。
 それを見たエルとアルの2人は思わず呟いた。
 「このドレス・・・姫様の髪と同じ色ですわ。」
 「この宝石・・・姫様の御目みたいですの。」
 そう、ドレスの色は闇の漆黒に染まる前のミスティーアの髪と同じ薄い赤紫で、胸元の
宝石からは、かつてのミスティーアの瞳と同じエメラルドグリーンの優しい光が放たれて
いる。
 まるで、失われたミスティーアの輝きを再現するかのような、美しきドレスであった。
 ドレスを身に纏ったミスティーアに、リーリアは声をかける。
 「そのドレスは魔戦姫の武器なのです。着ている者の意思によって様々な形、物質に変
化します。剣になれと念ずれば剣に、鎧になれと念ずれば鋼鉄の鎧と化します。ただし、
使用者の精神を糧にしているこのドレスは、使用者の精神力に著しい影響を及ぼします。
その胸の宝石がリミッターの役割を果たしていますが、くれぐれも自分の暴走した精神に
飲み込まれないよう気をつけるのですよ。」
 リーリアは噛んで含める様に注意を促した。そしてミスティーアと侍女達の目をじっと
見詰める。
 「もし・・・貴方が自身の怒り狂った精神に飲み込まれたら・・・貴方の魂は地獄の果
てを永久にさ迷い、2度と戻る事は無いでしょう。そうならないためにも、エル、アル。
貴方達がミスティーア姫を助けるのですよ。そのためにミスティーア姫のドレスに近い能
力を持ったドレスを貴方達に授けたのですからね。」
 淡々と語るリーリアを前にして、2人の侍女は自分達の着ている黄色いドレスを見た。
 そのドレスにも、自身の意思によって変化する能力があるのだ。2人にも無敵の武器が
与えられたと言う事は・・・
 ミスティーアは、(繭)に包まれていたエルとアルが、もうすぐ(誕生)するとリーリ
アが語っていた事を思い出した。
 (誕生)・・・その言葉の答えが導き出される。そう、ミスティーア同様、エルとアル
もリーリアの手で悪魔の力を与えられ、(繭)から(誕生)した2人は(闇の者)として
生まれ変わっていたのだ。
 ミスティーアは思わず2人の手を握った。
 「エル、アル。あなた達も・・・」
 「そう・・・ですわ。でも、どんな事になっても・・・あたしたちは・・・」
 「・・・あたしたちは姫様のお傍にいますの、御仕えしますの。」
 その言葉に、ミスティーアの瞳から大粒の涙が溢れた。
 こんな酷い目に会わされながらも、自分に付いて来てくれる・・・自分を慕ってくれる・
・・
 「あなた達・・・ありがとう・・・」
 泣きじゃくりながら、エルとアルを強く抱きしめる。2人の侍女も親愛なるミスティー
アを強く抱きしめた。
 全てを奪われた3人に残されたものは、彼女等の愛情、そして・・・全てを奪った悪漢
ガスタークに対する憎しみだけである。
 抱き合う3人に、悪漢への復讐心が湧き上がった。
 「ガスタークを倒すのよ・・・私達の手で、皆の仇をとるのよっ!!」
 「もちろんですわ姫様、私達も戦いますわっ。」
 「御館様やアドニス様の御無念を晴らしますのっ。」
 強い決意に燃える3人。先ほどは憎悪の感情に流されかけた彼女等も、強い決意と信頼
関係によって見事に制御している。
 その姿に、リーリアは満足げに微笑んだ。
 「素晴らしいっ・・・素晴らしいわ貴方達・・・その強い意思があれば、必ずや悪党ど
もを屠ることが出来るわ。」
 リーリアの声に、静かに頷くミスティーアとエル、アル。
 スクリーンがあった場所に、闇の世界と現世を繋ぐゲートが出現し、魔戦姫達がガスタ
ーク一味の元へと進んで行った。
 普段は仲間が集結して戦う事は滅多にないのだが、今回はミスティーアにとって始めて
の戦いである事と、ガスターク一味の数が多すぎる事を考慮したリーリアが、世界各地に
散らばっている魔戦姫達に助太刀を要請したのであった。
 「さあ、行きましょう、奴等を倒すためにっ。」
 「はいっ!!」
 リーリアの声に答え、ミスティーア達も後に続いた。
 復讐の時は来た・・・
 ミスティーアは、紅蓮に燃える怒りの炎を胸に、復讐の地へと赴いた。



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