魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀29


  賢者の石を破壊せよ!! 
ムーンライズ

         
 
 陰謀渦巻くバーゼクス城のホールで、2人の最強者が激突するっ!!
 「うおおーっ!!」
 狼の豪腕が唸りを上げてリーリアの顔に迫る。
 「はあっ。」
 それを手に魔力を込め、受けとめるリーリア。
 バシィッ!!
 凄まじい衝撃が周囲に波紋する。そしてリーリアの立っている場所がビシビシと音を立
てて凹んだ。
 「く、ううっ。」
 ゲルグの強力に、さすがのリーリアも苦悶の表情を浮べる。動けないリーリアを見て、
ゲルグはニタ〜と笑った。
 「ほう〜、俺様のパンチを受けとめたのは貴様が始めてだ。ではこいつはどうだっ。ク
ラウドヴォイスッ!!」
 至近距離から超音波の咆哮を放つ。岩をも砕く砲撃がリーリアに炸裂した。
 「ああっ!!」
 即座にバリアーを張るが、超音波をモロに食らったリーリアが後ろに弾き飛ばされた。
 「くうっ、なんのっ!!」
 転げそうになるのを堪え、二の足で床を踏みしめる。だが、砲撃の威力は確実にリーリ
アにダメージをもたらしていた。ドレスの胸元が裂け、鮮血が飛ぶ。
 「うっ・・・」
 「リーリア様っ、大丈夫ですかっ!?」
 よろけるリーリアに、レシフェ達が慌てて駆け寄った。
 「掠り傷ですっ。心配には及びません、下がりなさいっ!!」
 声を上げてレシフェ達を制する。そしてドレスの破れた胸元を押さえながらゲルグを睨
む。
 「ただの魔人と甘く見たのがいけなかったですわね・・・お前こそ、この私にダメージ
を与えるとは中々のものですわ。」
 胸に手を当てながら傷を治しドレスを修復させた。
 再び向かい合う2人の最強者。
 「ふふん、掠り傷だと?強がっていられるのも今の内だぞ。貴様を再生できないほどに
切り刻んでやる。」
 余裕の表情でにじり寄るゲルグ。だが、彼はリーリアの真の実力を知らない。リーリア
の反撃が開始される。
 「今度はこちらの番ですわっ、グラビトンッ!!」
 かざした両手から超重力の波動が放たれる。
 ドワアッ!!
 強力なる衝撃がゲルグを直撃し、後ろの魔人兵士もろとも壁に叩きつけられた。
 「ぐわあっ、こ、これはっ!?」
 超重力で壁に押しつけられたゲルグと魔人兵士は、全く身動きできなくなり、メキメキ
とめり込んで行く。
 「ヒイイ・・・ヘグッ!?」
 「アガガ・・・アア、アガアッ!!」
 次々押し潰される魔人兵士達。それでも屈強なるゲルグは超重力に抵抗するべく足掻い
ている。
 「こ、これしきで・・・のわああ〜!!」
 壁が轟音をあげて破壊され、ゲルグは崩れ落ちる壁の下敷きになった。
 ゲルグを沈黙させたリーリアが、素早くレシフェ達に魔族の娘を助けるよう指示を出す。
 「今ですわっ、すぐに娘達を助けるのですっ!!」
 「はいっ!」
 そして立ち塞がる兵士達に、レシフェ、アル、ジャガー神の3人が飛びかかる。
 「さあ、退きなさいっ!!」
 「ペチャンコになるですのっ!!」
 「ぶっ飛ばしてやるニャ〜ッ!!」
 瞬く間に兵士達を血祭りに上げて、娘達の元に駆け寄ろうとした。しかし・・・
 「ギィ〜、ムスメドモハ、カエサネエゾ〜。」
 娘達の前に割って入る魔人兵士。だが、その兵士達の体が急に持ちあがり、見えない巨
大な手で掴み上げられた。
 「ノオオッ!?ナンダコレハッ!!」
 不可視の巨大な手が、ぎゅう〜っと兵士達を締め上げる。
 突然の事にレシフェが振り返ると、後ろにいたハルメイルが両手を前に出して立ってい
た。念力によって兵士達を束縛したのだ。
 「まあ、ハルメイル様っ。」
 「へへ・・・そうは行くかってんだ魔人ども・・・こうしてやるっ!!」
 叫んだハルメイルが両手で雑巾を絞る仕草をする。すると、魔人兵士の体が物凄い勢い
で捻られた。
 「ンッ、ンギャアア〜ッ!!」
 悲鳴を上げ、ボロ雑巾状態で床に叩きつけられる。
 これにより人質は救出された。
 「早くあの子達をっ。」
 「わかりましたわ。」
 ハルメイルの声を受け、娘達に駆け寄ったレシフェは娘達の縄をナイフで切る。
 「大丈夫?今助けるわ。」
 「よかった・・・あ、ありがとうございます・・・」
 泣きながら縋り付く娘達。だが危機は去っていない。兵士は、まだ残っているのだ。
 「テメエラ〜、ニゲラレルトオモウナヨッ!?」
 包囲網を狭める魔人兵士。このままでは娘達を逃がす事ができない・・・レシフェ達が
身構えた、その時である。
 「ノワッ!?」
 「ウガッ!!」
 魔人兵士達の後ろから、何者かが弓矢で攻撃をしかけてきた。次々倒される兵士達。
 「な、何事なのっ!?」
 突然の事に驚くレシフェ達の目に、クロスボウを構えた男達が映る。
 「よう、お姫様方っ。応援に来たぜっ!!」
 威勢の良い声を上げるその男達は・・・ミスティーア達に助けられていたセカンドチー
ムのメンバーであった。
 「あ、あなた達っ。どーしてここにっ!?最上階で隠れてたんじゃ・・・」
 「あんなところでいつまでも隠れてられなくってさ。それに、あんた達に借りを返した
くてね。」
 そう言うセカンドチーム達を呆れた顔で、そして喜びの顔で向かえるレシフェ。
 「もう、あなた達は・・・でもありがとう、助かったわ。」
 「へへ、礼はいらないよ。」
 笑っているセカンドチームのメンバーを見たレシフェは、魔族の娘達を彼等に任せよう
と思い立った。
 「じゃあ、借りの返しついでで悪いけど・・・この子達を安全な場所まで連れて行って
くださらない?」
 レシフェの申し出に、快く答えるセカンドチーム達。
 「ああ、いいとも。みんな俺達について来てくれ、最上階に逃げるぞっ。」
 「はいっ。」
 魔族の娘達を引き連れたセカンドチーム達は、手を振りながらレシフェの元を去って行
く。
 そのしんがりには、泣き喚いて文句ばかり言っていた看守もいた。
 「お〜い、みんな待ってよ〜。」
 クロスボウを片手にセカンドチームに付いて行く看守を見て、レシフェはクスッと笑っ
た。
 「あいつもデスガッド達と戦う気になったのね・・・」
 そして振り返ったレシフェ達は、リーリアの元へと戻った。
 「リーリア様、これで黒竜翁様の所へ行けますわ。」
 そして頷くリーリア。
 「ええ、時間がありません。早く行きましょう。」
 そして一同は駆け出す。デスガッドの野望を阻止するために。
 だが逸る一同は、恐ろしい敵を見逃した事に気付いていなかった・・・
 
 崩れた壁の中から、獣の呻き声が発せられる。
 「ヴウウウ・・・ウオオ〜ン・・・」
 地獄の底から響く狂狼の声。獰猛なるその声と共に、崩れた壁が持ち上がる。
 「うおお・・・これで勝ったと思うなよ・・・俺様は不死身だ・・・ウオオオーッ!!」
 メキッ・・・メキメキッ・・・グワシャッ!!
 壁の残骸を掴んだ狼の豪腕が残骸を粉々に粉砕するっ!!
 そして現れたる隻眼の狂狼・・・
 「グフフ・・・俺様は不死身だ・・・最強の魔人だアッ!!ウオオーンッ!!」
 狂暴なる咆哮が、全ての敵を粉砕するべく辺りに響き渡った。
 
 リーリア達が地下室に向かっている頃、黒竜翁やミスティーア達は、巨大な賢者の石を
コントロールする地下最深部へと迫っていた。
 デスガッドの弟子や魔人達が並み居る地下室で、凄まじい戦闘を繰り広げているミステ
ィーア達。
 先陣を切るサン・ジェルマンが、一同に指示を出す。
 「雑魚にかまうなっ、できるだけ先に進めっ!!」
 突破口を開く彼の後に続くミスティーアが、炎の剣で魔人達を切り倒す。
 「でも前からも横からも攻めて来ますわっ、これでは進めません。」
 「前の奴は私に任せろっ。君とアルは横から来る奴を倒すんだっ!!」
 「判りましたわっ。」
 「了解ですのっ。」
 ピコピコハンマーを振り回すアルも応戦する。
 一同の後方では、天鳳姫とリンリン、ランラン。そして黒竜翁が追い迫る魔人達と戦っ
ていた。
 「後ろからもどんどん来るアルよ〜っ。きりがないのコトね〜。」
 半泣き状態の天鳳姫を叱咤する黒竜翁。
 「これしきで弱音を吐く出ないっ。はああ・・・気功烈波っ!!」
 気の砲撃で魔人を粉砕する黒竜翁。そして青竜刀を豪快に振りかざすリンリンとランラ
ン。
 「キエーイッ!!」
 「おりゃ〜っ!!」
 バトルキョンシーの剣戟に、魔人達は次々と両断された。
 ミスティーア達に圧された魔人達は、一旦後退をした。しかし態勢を立て直しながら、
再度攻撃を仕掛けようと狙っている
。
 「来るぞ・・・みんな気を引き締めてくれ・・・」
 サーベルを手に身構えるサン・ジェルマンは、迫る魔人達を見て苦悶の表情を浮べた。
そして黒竜翁も険しい顔をしている。
 「むう、これだけ戦うと老骨に堪えるわい。伯爵殿、賢者の石までは後どれぐらいじゃ?
」
 黒竜翁に尋ねられ、自身の賢者の石で目的地を探るサン・ジェルマン。
 「真下に30mほどです。もう少し・・・と、言いたいのですがね・・・これでは・・・
」
 そして、一同を苦しめる脅威の振動が地下から発せられた。
 ズズズズッ。
 鈍い音と共に、魔族の力を奪う波動がミスティーア達を襲った。
 「きゃああーっ!!」
 「またアルよ〜っ!?」
 悲鳴を上げるミスティーアと天鳳姫。その波動の影響は黒竜翁にも及ぶ。
 「おのれっ・・・魔力が奪われてしまうぞっ。皆、気をつけ・・・ううっ。」
 強力なる波動は、魔界仙人の力をも奪うほどであった。
 「だ、大丈夫ですか、黒竜翁様。」
 「わ、私達にお掴まり下さいズラっ。」
 黒竜翁を助け起こすリンリンとランラン。だが、彼女達も力を奪われて行き、立ってい
られるのが精一杯となった。
 急の事態に、魔界伯爵は仲間を助けるべく賢者の石をかざした。(元)神族である彼は
波動の影響を受けないのだ。
 「みんな私の元に集まるんだっ。私の神力で波動を跳ね返すっ。」
 彼の掲げた手から深紫の光が放たれ、半円球のバリアーとなって波動からミスティーア
達を守る。
 これで魔力を奪われる心配はなくなった。だが、このままでは魔人達と戦えない・・・
 もはや万事休すか?ミスティーアは悔しそうに唇を噛んだ。
 そして彼女に寄りそうアルも、泣きそうな顔で震えていた。
 「ああ、姫様・・・もうダメですの・・・」
 「大丈夫よ、私が守ってあげるわ。」
 優しく抱き締めるミスティーア。そんな2人の耳に、聞こえる筈の無い者の声が響く・・
・
 (姫様、アル・・・もうすぐ波動は収まりますわっ・・・もう少しのご辛抱ですわっ・・
・)
 その声は・・・離れ離れになった筈のエルの声であった。
 「エルッ!?その声はエルねっ!?」
 「間違い無いですのっ、エルの声ですのっ!!」
 歓喜の声に、一同は振り向く。喜ぶ2人に天鳳姫が尋ねた。
 「どーしたアルかっ?ワタシには何にも聞こえないアルよ?」
 「聞こえるの・・・エルの声が・・・もうすぐこっちに来るって・・・リーリア様やレ
シフェさんも一緒だって・・・」
 声を震わせて感涙を流すミスティーアとアル。
 その姿に、一同は呆然としている。
 「ふむ・・・我等にも聞こえぬとなれば、魔力ではない力での会話と言う事か・・・」
 黒竜翁の言葉にサン・ジェルマンも賛同する。
 「そうですね、血の繋がりや主従関係を超えた親愛の成せる技ですか。」
 それはまさに、ミスティーアと侍女達の親愛関係による意思の疎通であった。
 そしてエルの伝えた言葉通り、魔力を奪う波動は収まって行く。
 「波動が弱まってる。みんな魔力を回復させてくれ、反撃に出るっ!!」
 波動の消滅と共に、サン・ジェルマンはバリアーを解除した。そして、魔力を回復させ
た一同が戦闘態勢を取る。
 「ミスティーア、アル。来るのじゃな?リーリア達は・・・」
 黒竜翁の声に、力強く答える2人。
 「ええ、間違いありませんわ。」
 「そうか・・・リーリアが来てくれれば百人力じゃっ。我等も頑張ろうぞっ!!」
 「はいっ!!」
 立ちあがる一同。直ぐそこまで来た魔人達に、怯むことなく戦いを挑むのであった。
 
 そしてミスティーア達の元に向かっていたリーリア達。一同は波動の影響を回避するべ
く建物の影に潜んでいる。
 一同の真ん中に、喜びの涙を流すエルの姿があった。
 「ああ・・・姫様、アル・・・みんな無事ですわ・・・よかったですわ・・・」
 建物の影に潜んでからすぐ、エルはミスティーアとアルの存在を感じとった。そして、
全ての念を愛する姫君と妹に送ったのだ。
 その念は2人に届き、ミスティーアや黒竜翁達の危機を救ったのである。
 泣いているエルの頭を、リーリアが撫でている。
 「よかったですわねエル。みんなも無事なのね?あなたの活躍よ。」
 優しい言葉に、エルは無言でウンウンと頷いている。
 その後ろでは、どうも納得いかないジャガー神が首を傾げていた。
 「うーん、どーしてエルはアルと話ができたのニャ?」
 「はいはい、お前の頭で理解できる事じゃないわよ。」
 レシフェに言われて落ち込むジャガー神。
 「ンニャ〜、オレってバカなのニャ?」
 だが、一同はここで休んでいる訳には行かない。即座に地下室へと向かった。
 
 ミスティーア達は再度、魔人達と激突していた。
 魔力を奪ってから息の根を止めようと考えていた魔人達の思惑は見事に覆されてしまっ
た。
 もし、デスガッドがサン・ジェルマンに倒されていなければ、もっと別の手を労してい
たであろうが、指揮官のいない弟子達や魔人達には有効な手段などない。あるとすれば、
人海戦術で押しまくるのみ。
 コントロールルームにいた弟子達も加わり、総がかりで押し寄せて来た。
 怒涛の如き勢いで総攻撃をかけてくる魔人達に、ミスティーア達は再度膠着状態に陥っ
た。
 「さっきより数が多いですわっ!?」
 前に進めなくなり、ミスティーアは思わず声を上げる。だが、黒竜翁が冷静に状況を判
断した。
 「怯むでないぞっ、奴等に打つ手が無くなった証拠じゃっ。勝機はこちらにある、なん
としてもここを突破するのじゃっ!!」
 気功烈波で魔人達を倒しながら檄を飛ばす。
 だが数が余りにも多く、このままではこちらが不利になる。
 このままでは・・・
 そう案じた時である。
 突如、敵の攻勢が乱れた。地下室の上階から攻めて来る魔人達が悲鳴を上げて逃げ惑い
始めたのだ。
 ミスティーア達以外の何者かが、魔人達を撃破しているのである。その者とは・・・
 可憐なる御技で敵を討ち倒し、突き進んで来る黒いドレスの淑女・・・
 それを見たミスティーア達は歓喜の声を上げた。
 「ああっ、リーリア様っ!!」
 そう、黒衣の淑女は魔戦姫の長、リーリアである。苦戦を強いられるミスティーア達に、
強力な助っ人が参戦した。しかも魔界童子、アマゾネス・プリンスとジャガー神も一緒だ。
 頼もしい助っ人達によって、形勢は一気に魔族側に傾いた。
 人海戦術も、無敵のリーリアの前では無力。魔人達は残らず蹴散らされた。
 歓喜と共に合流する魔族達。互いの肩を抱き合い再会を祝した。
 「リーリア様っ、お待ちしておりましたわ。」
 「よく来てくれたの。待っておったぞ。」
 「君のおかげで助かったよ、これで形勢逆転できる。」
 ミスティーアや黒竜翁達の声に、リーリアも微笑んだ。
 「遅参をお詫びしますわ、でも皆が無事で何よりです。」
 喜びあうその横では、ミスティーアとアルがエルとの再会に涙していた。
 「エル・・・もう会えないかと思ったわ・・・」
 「エルがいてくれないとダメですの・・・」
 2人に抱かれたエルも感涙に咽んでいる。
 「私達は一心同体ですわ。姫様も、アルも・・・ずっと一緒ですわ・・・」
 その親愛なる関係があってこそ、彼女達は無敵の力を出せるのだ。
 そして、再会の余韻に浸る間もなく、一同は最後の戦いに出向くことになった。
 一同の耳に、凶悪なる狼の咆哮が響いて来たのだ。
 「あの声は、ゲルグの・・・」
 一同は上階に目を向ける。そして、リーリアに倒された筈の狂狼が復活した事を知った。
 リーリアの顔が険しくなる。
 「あの狼男、まだ生きていたのですねっ。しぶとい奴ですわ。」
 リーリアの言葉に、一同は即時行動に移った。
 一同には、やらねばならない事がある。全ての元凶、地下の賢者の石を破壊する事だ。
 入念な話し合いの末、賢者の石の破壊をリーリアと魔界八部衆の3人が、そして復活し
たゲルグとの応戦を魔戦姫達が受け持つ事となった。
 リーリアが、上階へと向かう魔戦姫へ激励を送る。
 「みんな、賢者の石の事は私達に任せて、ゲルグを倒す事だけに専念なさい。いいです
ね?」
 「はいっ、リーリア様も皆様も、どうかご無事で・・・」
 そう言うと、速やかに上階へと向かう魔戦姫達。
 後姿を見送ったリーリアと八部衆は、地下最下部へと走り出す。
 怪我を押して参戦しているハルメイルを、黒竜翁は心配そうに見ている。
 「ハル坊、無理をするなと言ったのじゃがのう。やはり聞き入れてくれなんだか。」
 いつも仲の良いハルメイルを案じての老婆心だったが、忠告など意味を成さないとわか
っていた。
 半ば諦めともとれる黒竜翁の言葉に、ハルメイルは笑って答えた。
 「心配かけてゴメンねジッちゃん。でも心配かけてるのはみんな同じだろ?ね、リリち
ゃん、伯爵。」
 そんなハルメイルを、リーリアとサン・ジェルマンも笑って見ている。
 彼等もまた、ミスティーアと侍女達同様の信頼関係で結ばれているのだ。だからこそ、
闇の魔王も彼等に最高の信頼をおいているのである。
 4人の向かう先には、もはや歯向かう者はいない。総動員で押しかけてきたので、誰も
いなくなってしまったのだ。
 無人のコントロールルームに入った4人は、制御装置を全て破壊し、魔力を奪う忌まわ
しき波動が2度と使えないようにした。
 あとは・・・元凶の賢者の石を破壊するのみ。
 コントロールルームの真下にそれはある。
 制御装置の残骸から石を調べているサン・ジェルマンが口を開く。
 「・・・構造的には通常の賢者の石よりパワーアップするよう造られてる。しかもこの
大きさだ、その力は・・・ほぼ無限大としても過言じゃない・・・デスガッドの奴、とん
でもない代物を造ってくれたもンだ。」
 深刻な表情で呟くサン・ジェルマン。その彼にハルメイルが声をかける。
 「でも制御装置を壊したんだから心配ないよ。力を出せない賢者の石なんか、ただの石
コロじゃんか。」
 だが、サン・ジェルマンの表情は晴れない。
 「そうだといいがね。問題はこの巨大な石コロを、どーやって破壊するか、だ。賢者の
石に魔力を浴びせれば、その力が全て吸収されて攻撃した者に直接はね返る。魔力が強け
れば強いほど、その影響は甚大だ。」
 その言葉に、ハルメイルは固唾を飲む。
 「じ、じゃあ・・・オイラやジッちゃん、リリちゃんでは攻撃できないじゃないの・・・
」
 「ああ、その通りだ。私の神力なら跳ね返される心配はないが、私1人の力では無理だ
しね。魔力を使わずに直接攻撃するしか方法が無い。」
 「ゲンコツで殴るしかないって事?」
 「単純に言えばそうだね。」
 魔力は直接使えない・・・それは一同にとって致命的な事であった。まさか4人がかり
で殴って破壊するわけにもいかない。
 その問題を、黒竜翁が解決する。
 「それなら、別の物を波動系魔力で弾き飛ばし、その反動を利用して賢者の石に叩きつ
ければ良いのじゃ。それに、賢者の石は超硬質の物質でできておる。硬いと言うことは、
逆から言えばもろいと言う事じゃ。1箇所にヒビが入れば、そこから一気に崩壊する。1
点集中攻撃でなら確実に破壊できよう。」
 黒竜翁の提案に、サン・ジェルマンもハルメイルも手を叩いて賛同する。
 「なるほど、その手がありましたか。」
 「さっすがジッちゃんっ、伊達に歳をとってないねっ。」
 だが喜んでいる暇は無い。破壊に使う(物)を探さねばならないのだ。
 辺りを伺うリーリアが、最適な物がないか調べる。しかし、そう簡単に見つかるもので
はなかった。
 「壁や制御装置では役に立ちませんわ。叩きつけても石に傷1つつけられません・・・」
 だが、見つけなければならないのだ。懸命なる捜索を続ける一同。
 と、その時である。
 ズンッ!!
 鈍い音が響き、床や壁にヒビが入り始める。やがて・・・壁を突き破って巨大なイカの
触手が飛び込んで来た。
 「こ、これはっ!?」
 驚くリーリア達に、触手が襲いかかってくる。その攻撃を間一髪交わしたリーリア達の
目に、壁から出現するイカの怪物の姿が映った。
 醜悪なるその姿・・・そして禍禍しいまでの瘴気を放ちながらイカの狂獣、クラーケン
は唸り声をあげる。
 「ヴウウウ・・・きさまらの思い通りにはさせんぞぉ〜っ。」
 その声を聞いたサン・ジェルマンが絶句する。
 「お、お前は・・・まさか・・・デスガッドかっ!?」
 倒した筈のデスガッドが、クラーケンに変身して出現したのであった。
 「グフフ・・・そうとも・・・私を甘く見たなルシファー。あれしきで私は倒せんぞっ!
!貴様達に・・・我が野望を阻止できはしないのだあーっ!!」
 巨大な触手が、リーリアに襲いかかる。しかしその寸前、リーリアの前に立ったハルメ
イルが触手を受け止めた。
 「うぐうう・・・で、デスガッド・・・め・・・」
 苦悶の表情で触手を掴むハルメイルの身体から、鮮血が流れ落ちる。先ほどの傷が開い
たのだ。
 「ハルメイル様っ!?」
 「ハル坊っ!!」
 驚いて駆け寄るリーリア達。だがハルメイルはリーリア達の援護を拒否した。
 「みんな来ないでっ!!こいつは・・・オイラが引導を渡してやるっ。スノウホワイト
の苦しみ・・・部下の苦しみ・・・みんなの悲しみ・・・思い知らせてやるからな・・・
覚悟しろデスガッドっ!!」
 愛するスノウホワイトを犯し苦しめ、大切な部下の命を奪った憎きデスガッド・・・
 ハルメイルとデスガッドの間に、凄まじい炎が燃え上がる。
 「思い知らせてやるだと〜?小僧、貴様は白雪姫の弟か何かか?そういえば、白雪姫は
助けてハル何とかとほざいていたな、それが貴様か。クックック・・・あの悲痛な声、貴
様にも聞かせてやりたかったぞっ!?フハハ〜ッ!!」
 嘲笑うデスガッド。そしてハルメイルの怒りは頂点に達したっ!!
 「・・・ゆるさない・・・クソ野郎めっ・・・これでもくらえーっ!!」
 ハルメイルの激しい怒りが、念力の拳となって顔面に炸裂する。
 「ぐおっ!?がっ、ぐはあっ!!」
 繰り出されるゲンコツの嵐っ。歪む頭部、飛ぶ血飛沫っ!!
 だが、渾身の攻撃もデスガッドを倒すには至らなかった。
 歪んだデスガッドの頭部がユラユラと蠢き、即座に修復したのだ。
 「き、効いていないっ!?」
 「フッ・・・私の肉体は最強なのだ。貴様のゲンコツなぞ痛くも痒くもないわ〜っ!!」
 そして触手がハルメイルに群がり、ギリギリと締め上げた。
 「くううっ・・・このクソイカ・・・」
 苦悶の声を上げるハルメイル。しかし、その眼には勝機への確信が宿っていた。
 後ろを振り返りながら、リーリア達にウインクする。
 「ハル坊・・・何を・・・はっ!?」
 一同はハルメイルの考えを即座に察した。それを了承しあい、ハルメイルは再度デスガ
ッドと対峙する。
 「・・・や、やいクソイカ・・・今からお前を地獄に送ってやる・・・念仏でも唱えて
ろっ!!」
 デスガッドはハルメイルの強気の意味を判断できない。
 「ああン?貴様、気でも狂ったか?」
 「狂ってンのはお前だっ!!こうしてやるっ、でやあああーっ!!」
 突如、ハルメイルの身体が回転を始める。念力を自身にかけ、回転させているのだ。そ
れにより、触手でハルメイルを捕まえていたデスガッドも振り回される。
 「うおっ!?おおおーっ!?」
 強烈な勢いで回転する両者。そしてデスガッドの体が床に叩きつけられた。
 床にめり込むデスガッド。それを見たリーリア達も動いた。
 「今ですわっ!!」
 リーリアの声と共に、空中に浮かんでいるハルメイルを中心に取り囲む3人。
 天井付近に集まった一同は、全ての力を1点に集中させた。
 魔力の波動をデスガッドに撃とうとしているのだ。
 それを見て、不死身のデスガッドは嘲笑した。
 「ふははっ、バカめっ!?私に魔力は通用しないと・・・はっ!?」
 嘲笑が突然途切れる。デスガッドのめり込んでいる床のすぐ下には、巨大賢者の石が・・
・
 「ま、まさか・・・」
 リーリア達の意図を察するデスガッド。今度はハルメイルが笑った。
 「いまさら気がついても遅いんだよバカイカ野郎。お前の強靭な肉体を利用させてもら
うからなっ、はああっ・・・」
 ハルメイルの、そして皆の力が漲ってゆく・・・
 「地獄へ落ちろっ!!デスガアアーッドッ!!」
 全員の手から、凄まじい波動が繰り出される。それはデスガッドを直撃した。
 「ぐはあああーっ!!」
 床を突き破り、絶叫と共に巨大賢者の石に叩きつけられるデスガッド。
 そして・・・ビシビシと音を立て、賢者の石に亀裂が入り始める。
 「お、おお・・・け、賢者の石が・・・わ、私の野望が・・・あああ〜っ!!」
 悲鳴を上げるデスガッドを中心に、亀裂が走って行く。
 それを見たサン・ジェルマンが即座に撤退を指示した。
 「早く逃げるんだっ。バーゼクス城もろとも吹っ飛ぶぞっ!!」
 早急に逃げて行くリーリア達。
 賢者の石は轟音をあげて砕けて行く、デスガッドの歪んだ野望と共に・・・






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