魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀25


  親愛なる?師弟コンビ、黒竜翁と天鳳姫   
ムーンライズ

 
 その頃、魔戦姫を助けるために階下を進む黒竜翁とハルメイルの部下達が、階下から響
いてきた咆哮の爆音を耳にして立ち止まった。
 「黒竜翁様、今のはっ!?」
 耳を澄ませた黒竜翁が、階下での状況を判断する。
 「うむ、これは戦闘によるものと見た。何者かが交戦状態にあるのじゃ。」
 その言葉に、部下達は尋ねる。
 「一体何者が?まさか・・・魔戦姫が・・・」
 「間違いない、魔戦姫達がデスガッド一味と戦っておるのじゃよ。我等以外で戦ってい
る者があるとすれば、他に考えられまい。」
 「しかし、彼女達は魔力を奪われて戦えない状態では?」
 スノウホワイトから聞かされた事を思い出して質問する部下達に、黒竜翁は落ちついて
答えた。
 「経緯はわからぬが、魔力が復活したのじゃ。さもなくばこれほどの派手な戦いをする
筈もなかろうて。」
 「そうだったのですか。」
 納得する部下達。でもいくら魔力が復活したとはいえ、大多数の魔人達がいる状況では
苦戦は免れない。
 早急なる救援が要された。
 「賢者の石を破壊する前に魔戦姫を援護するのじゃ、急ごうぞっ。」
 「はいっ!!」
 武器を構え、返事を返す部下達。
 そして一同は咆哮のした場所へと向かった。
 一見落ちついているかに見える黒竜翁だったが、彼の心境は穏やかではなかった。魔戦
姫達と、そして・・・愛弟子である天鳳姫を案じているのだ。
 「天鳳姫や・・・死ぬでないぞ・・・」
 消え入るような小声で呟く黒竜翁。
 常に冷静な魔界仙人も、この時ばかりは激しく焦っていた。
 そして、程なく彼等は一階にまで辿り着く。
 「たしか、爆音がしたのはこっちだったな・・・」
 部下の1人が戦闘の行なわれている場所を探っていると、黒竜翁が廊下の端をじっと見
つめて立ち止まった。
 「黒竜翁様、如何なさいましたか?」
 部下の問いに、振り向く事無く答える黒竜翁。
 「うむ・・・あそこを見よ。」
 指差す方向には、地下室への入り口がある。昨夜ミスティーア達が潜入した入り口だ。
 そこから、女2人の激しく言い争う声が響いてくる。
 「あの声は・・・間違い無い、天鳳姫じゃっ。」
 確信する黒竜翁。彼が愛弟子の声を聞き間違える筈は無かった。
 「天鳳姫様が戦っておられるのですねっ?今すぐ向かいましょう。」
 部下がそう言った時である。
 ヴオオーンッ!!
 再び咆哮が響き、辺りを揺るがした。先ほどの戦闘が激化している証拠であった。
 天鳳姫の事もあるが、他の魔戦姫の救援にも行かねばならない。迷っている部下達に、
黒竜翁は指示を出した。
 「天鳳姫はわしが助ける、お前達は他の魔戦姫の元へ行け。」
 その指示に驚く部下達。
 「そんな、八部衆たる黒竜翁様が御1人で出向かれるなどとは・・・それに、御身に万
一の事があれば・・・」
 「馬鹿者っ、わしが魔人如きに遅れをとるとでも思うてかっ。それに、弟子の危機に師
が向かわずして何としようぞ。案ずる事は無い、早く行けっ!!」
 「はいっ、どうかご無事でっ。」
 指示を受け、走り出す部下達。それを見届けた黒竜翁は、1人地下室へと歩み始める。
 「やれやれ、出来の悪い弟子を持つと苦労するわい・・・」
 そして、少しだけ苦笑いする黒竜翁だった。
 
 ここは声のした地下室。デスガッドが弟子達を魔人に改造するための場所だが、今は誰
もいない。その場所で、天鳳姫と毒バチ女の激しい戦いが繰り広げられていた。
 「おらおら中華娘っ、さっさと降参しなっ!!」
 「それはこっちのセリフのコトねっ!!」
 毒針爆射と毒針マシンガンで応酬しあう2人だったが、決定的な致命傷を与えられない
毒針爆射での戦いは、天鳳姫が不利であった。
 天女の羽衣から毒針を出して腕に装填する天鳳姫。
 「こんな事なら暗器を持って来るんだったアル・・・」
 毒針爆射以外で、彼女の使用する武器である暗器。本来は携帯用の武器を指す物だが、
天鳳姫はそれを最強の武器として使用している。
 だが迂闊にも、今回は暗器を持ってこなかったのだ。
 そして天鳳姫の脳裏に、信頼する侍女達の事が浮かんでいた。リンリンとランランは、
地下室のトラップで生き埋めにされているのだ。
 「あの2人がいれば・・・毒バチ女なんか・・・」
 いくら悔やんでも、今は天鳳姫ただ1人・・・
 彼女は両手を前に出して身構えた。
 「はああっ。魔界仙術、気功烈波っ!!」
 その両手から(気)が撃ち出され、天女の羽衣が翻る。
 しかしそれは毒バチ女に交わされ、(気)は後ろの丸い水槽に直撃した。
 ガッシャンと音を立てて壊れる水槽の中から、改造途中の魔人達が転がり出て来た。
 攻撃を交わした毒バチ女が、声を上げて笑った。
 「アッハッハッ、どこ狙ってンのさ。」
 「くっ、ダメだったアルか。もう一度・・・うっ?」
 再度気功波を放とうとした天鳳姫がよろめく。彼女の視界が急に暗くなったのだ。
 「ああ・・・こんな時に・・・」
 そんな天鳳姫のピンチを見逃す毒バチ女ではなかった。
 「また目が見えなくなったのね?ザマーみろっ!!」
 毒針マシンガンを放とうと身構える毒バチ女。
 「これでお終いアルか・・・」
 そう呟いた、その時である。
 「天鳳姫っ、これを受け取るのじゃっ!!」
 声が響き、天鳳姫の手元に長い鎖のような物が投げてよこされた。
 それは天鳳姫の使用する暗器。サソリの尾を模したそれは、先端に刃を装着した鎖状の
武器である。
 「これはっ・・・」
 暗器を受け取った天鳳姫が、毒バチ女目掛けて水平に振りかざした。
 「わあっ!?」
 その一撃を交わし損ねた毒バチ女が床に叩き付けられる。
 天鳳姫は、暗器を投げてよこした声の主の名を呼んだ。
 「お、お師匠様っ!!」
 声の主は彼女の師匠、黒竜翁だった。その黒竜翁が天鳳姫の傍に駆け寄ってくる。
 「危ないところじゃったぞ、しっかりせんか。」
 天鳳姫の目に手を当てて視力を回復させる。天鳳姫の目に魔界にいるはずの師の顔が映
った。
 「え、え?どうしてお師匠様がここに?」
 「詳しい話しは後じゃ、ところで、リンリンとランランはどうした?一緒ではなかった
のか。」
 その問いに天鳳姫は声を詰まらせた。
 「2人は・・・トラップに嵌って・・・」
 地下室で生き埋めにされた事を聞いた黒竜翁が、トラップのある場所へと向かった。
 「お師匠様、何するアルかっ?」
 「決っておるではないか、2人を蘇らせるのじゃ。あの2人はわしが鍛えしキョンシー
ぞ、これしきで死んだりするものかっ。」
 そして、2人が生き埋めになっている場所に手を当てた。
 「暗黒従者招来、来臨急々如律令!!」
 その呪文と共に、土を跳ね飛ばしてリンリンとランランが飛び出して来た。
 「姫様ーっ!!」
 復活した2人が天鳳姫に駆け寄ってくる。その姿に、天鳳姫は声を震わせて喜んだ。
 「り、リンリン・・・ランランーッ!!」
 そして抱き合う3人。
 「よかったアル・・・2人とも無事アルか・・・」
 「もちろんです姫様っ。ちゃんと生きてますよ。」
 「やっと出られたズラ〜っ。姫様に会えたズラ〜っ。」
 喜び合う3人だったが、再開の喜びに浸る暇はなかった。
 床に転げていた毒バチ女が、呻き声をあげて立ちあがったのだ。
 「んん〜、痛いじゃないの・・・って、お、お前達っ。生きてたのおっ!?な、なんで
ぇっ!?」
 驚く毒バチ女に、天鳳姫達が歩み寄る。
 「これで形勢逆転デスワ。2人を生き埋めにしたお前は絶対に許しマセン、覚悟シナサ
イッ!!」
 そう言うと、暗器の刃を自分の腕に突き刺す。その刃に、彼女の猛毒が宿った。
 暗器を身構える天鳳姫。その目は毒バチ女への怒りで燃えていた。
 「はっ、後ろのジジィに生き返らせてもらったのかい?そーなの・・・じゃあ、もう一
度生き埋めにしてあげるわよっ!!」
 喚く毒バチ女と対峙するリンリン、ランラン。
 「真っ二つにしてやるわハチ女めっ。」
 「天に代わって成敗してやるズラッ!!」
 毒バチ女を倒すべく身構える2人だったが、それを天鳳姫が制した。
 「あいつはワタシが倒すアル。2人とも見てて欲しいのコトよ。」
 そう言うと、高くジャンプして毒バチ女の前に立った。
 「さあ、サシで勝負アルッ、かかって来るネッ!!」
 「ほざくンじゃないよ、クソ小娘がーっ!!」
 そして再度激突する2人。
 毒バチ女が毒針マシンガンを発射する。その全てを暗器で弾き飛ばす天鳳姫。
 サソリの尾のように暗器が攻撃を仕掛ける。その猛襲で次第に後退して行く毒バチ女。
 「こ、このままでは・・・なんとかしなきゃ・・・」
 攻撃を交わしながら後退した毒バチ女が、足元のガラス片を掴んで投げつけた。
 「うあっ。」
 天鳳姫の動きが一瞬止まった。暗器の先端は毒バチ女の横をすり抜ける。
 「油断したねっ、クタバレッ!!」
 毒針を放とうとしたその時、暗器の先端がUターンし、毒バチ女の首筋に突き刺さった。
 「うあっ!?そんなバカな・・・」
 信じられないといった顔で前に倒れる毒バチ女。
 まさか交わされた暗器の軌道を曲げて攻撃するとは・・・それは正に、獲物を倒す毒サ
ソリの尾の一撃であった。
 そして、倒れた毒バチ女を見て喜びの声を上げるリンリンとランラン。
 「姫様やったわっ!!」
 「見事ですズラ〜。」
 天鳳姫に駆け寄る2人の手を握り、喜びをしめす天鳳姫。
 「やっと、やっつけたアルよ・・・」
 その天鳳姫に満足げな顔で歩み寄る黒竜翁。
 「よくやったぞ。随分と痛めつけられたようじゃが、それを乗り越えて良く頑張った。」
 「お師匠様・・・」
 そして師の前に立つ天鳳姫・・・しかし?
 「お師匠様っ、来るのが遅〜いっ!!」
 何を思ったか天鳳姫、イキナリ黒竜翁の頭をパコ〜ンッと殴った。
 「のおっ!?な、何をするのじゃ〜っ!?」
 「何するもないアルよっ!!可愛い弟子がピンチだってのに、来るのが遅すぎのコトね
っ!?どーせまた女の子のお尻でも触ってたアルねっ!?」
 「のわんじゃと〜っ?それが師匠に向かって言う言葉かっ、何が可愛い弟子じゃっ、こ
のアホ弟子がっ!!」
 「だれがアホのコトねっ!?」
 文句を言いながら子供じみたケンカをする師弟。
 その姿を呆れて見ているリンリンとランラン。
 「あ〜あ、せっかく感動したのにぜーんぶ台無し・・・いつもこーなんだから・・・」
 「仕方ないズラ。姫様は黒竜翁様の良いケンカ相手ズラよ。」
 師弟と言うより、本当の祖父と孫娘といった感じの凸凹師弟コンビを、リンリンとラン
ランもただ笑って見ているのであった。
 「それより姫様、黒竜翁様。急がなくていいのですか?」
 「ケンカしてる場合じゃないズラ。」
 その言葉に、互いの顔を引っ張り合っていた2人が我に返る。
 「おお、そうじゃった・・・ミスティーア達の所に急がねば・・・」
 「遊んでる暇は無かったアルね・・・」
 そして地下室を出ようとした時である。
 「う、う〜ん・・・助けて〜。動けないよ〜っ。」
 背後から呻き声がする。その声に振り返ると、倒されていた毒バチ女がうつ伏せ状態で
伸びている。
 それを驚いて見るリンリン。
 「あいつ・・・まだ生きてるわっ。」
 そしてランランが天鳳姫に尋ねる。
 「姫様、あいつにトドメささなかったズラですか?」
 それに平然とした顔で答える天鳳姫。
 「毒を弱めにしたアルよ。でも神経に直接毒を撃ち込んだから、2、3日は動けないの
コトね。」
 天鳳姫は、わざと毒を弱めて毒バチ女の運動神経のみを封じていたのであった。
 その言葉を聞いて、思わず喜ぶ毒バチ女。
 「2、3日っ!?ナハハ・・・た、助かるのね?よかった〜。」
 だが、天鳳姫は悪行を重ねた毒バチ女を助けるつもりはなかった。
 「あんたがそれまで生きていれれば、の話アルよ。後ろの奴を見るアル。」
 その言葉に、毒バチ女は視線を後ろに向ける。
 そこには・・・さきほど破壊した水槽から出てきた改造中の魔人が、ゆっくり毒バチ女
に歩み寄ってくるのが見えた。
 いずれも改造途中であったため、内蔵がはみ出し、表皮はズル剥け状態である。その姿
は正に地獄の亡者・・・筆舌にし難いほど醜悪で凶悪であった。
 そして、動けない毒バチ女に向けられている陰湿な視線から、彼等が何をしようとして
いるかは明白である。
 「ヴウ・・・アヴ〜、ヴウ・・・」
 ゾンビのようにおぞましい声を上げて迫る魔人達を見て、毒バチ女の顔が真っ青になっ
た。
 「へっ?ちょっと・・・まさか・・・悪い冗談はやめてよ〜っ!!」
 そして、天鳳姫は冷徹な眼で毒バチ女に一瞥をくれた。
 「そいつ等にタップリ遊んでもらうよろし。再見(さよなら)、ドブスハチ女。」
 冷たく言い放って背を向けると、地下室から出て行く。
 そして黒竜翁とリンリン、ランランも毒バチ女に背を向けた。
 「当然の報いじゃの。」
 「そんじゃね〜。」
 「ばいばいズラ。」
 地下室から去って行く4人。後には動けなくなった毒バチ女が残された。
 「あ〜んっ、待ってよおっ、見捨てないで〜。」
 半泣きの毒バチ女に・・・イチモツを怒張させたバケモノが群がる。
 「ヴウ〜、オンナダァ〜。ヴッフェフェフェ〜。」
 「きゃ〜っ!?そんなコトしちゃダメ〜っ!!誰か助けてぇっ、あーれーっ!!」
 そして、悪行の報いを受けた毒バチ女は、ゾンビ状態の魔人達に嬲られたのであった・・
・
 
 ゲルグと魔戦姫が激突した場所では、凄まじい戦闘が展開している。
 魔戦姫を取り囲んだ魔人兵士達が、休む事無く攻撃を仕掛けており、魔狼族のナイフが、
炎の剣が、鉄球とハンマーが向かってくる魔人兵士を片っ端から倒して行く。
 「やあっ、はあっ!!」
 「たああーっ!!」
 魔戦姫達の反撃で次々倒されて行く魔人兵士達だったが、数が半端ではない。いくら倒
しても後から後から出てくる。
 ナイフが煌き、バケモノ等の身体を切り裂いた。
 「もうっ・・・一体何人いるのっ!?」
 余りにも多い数に、思わずレシフェが呟いた。そのすぐ後ろで、レシフェに同意するミ
スティーア。
 「全くですわっ、これではキリがない・・・ええーいっ!!」
 炎の剣がまた1人、敵を両断する。だが、即座に次の奴が飛びかかって来る。
 「ギエ〜イッ!!」
 その奴に、アルがハンマーを叩きつける。
 「このーっ!!飛んでけですのっ。」
 バコーンッ!!
 「フンギョエ〜ッ!?」
 悲鳴を上げた魔人兵士が、窓の外へと飛んで行った。
 そして今度は、魔人達が3人がかりで押し寄せてくる。
 「ウガーッ!!」
 そいつ等目掛けて、エルが鉄球を転がす。
 「それーっ!!潰れるですわっ。」
 ゴロゴロゴロッ。
 「オワ〜ッ!?キュッ。」
 次々ペチャンコになる魔人兵士達。
 攻撃力では魔戦姫は魔人達を上回るが、数では圧倒的に不利だった。ミスティーア達は
僅か4人だが、魔人達は総数数十人以上はある。
 しかも、魔人達の総大将である最強魔人ゲルグが控えており、このままでは彼女等の敗
色は濃厚だ。
 サイ魔人に倒された時と同じ状況であるため、レシフェは早急に身を引かねば危ないと
思案した。
 「ミスティーアッ、翼を出しなさいっ。上の階に逃げますわよっ。」
 レシフェがそう言うと、彼女のドレスから草色の翼が出現する。リーリアの漆黒の翼と
同様の物だ。
 レシフェに言われ、ミスティーアも同じ様にドレスから赤紫の翼を出す。そして飛行能
力が無いエルとアルを、それぞれ1人ずつ抱えるレシフェとミスティーア。
 魔人兵士達が取り囲む中、巨大な翼がはためく。
 「飛んでっ!!」
 フワリと浮き上がった彼女等を逃がすまいと、魔人兵士達が襲いかかってくるが、間一
髪交わしたミスティーアが天井を炎の剣で切り裂き、その穴にレシフェも飛び込む。
 そこへ咆哮の砲撃が炸裂した。
 「逃がすかっ、ヴオオオーンッ!!」
 超音波の攻撃によって天井が大きく崩れる。降り注ぐ瓦礫を避けた魔人兵士達が天井を
見るが、ミスティーア達はすでに上階に逃走した後だった。
 悔しそうに地団駄を踏むゲルグ。
 「ぬうっ、逃げられると思うなよっ!!bPからbQ0まで俺について来い、残りは奥
に向かえっ。奴等を追い詰めるんだっ!!」
 「イエッサーッ!!」
 速攻で2手に分かれた魔人兵士達が上階へと向かう。
 そして、上階に逃げ延びたミスティーア達も、レシフェの指示で2手に分かれた。
 「敵兵を分散させるのよ、全員1度に相手にしてはこっちが不利だわ。」
 「わかりました。エルをお願いしますわっ!!」
 「気をつけてっ!!」
 レシフェはエルを、ミスティーアはアルを抱えて上階を滑空する。
 魔人達はまだ上階に来ていないが、直に大挙して押しかけてくるだろう。レシフェもミ
スティーアもアルカやスノウホワイトから城の詳細を聞いてはいるが、どの辺に逃げれば
いいのか検討もつかないため、進むに任せての逃避行(飛行)となる。
 いつも2人一緒だったエルとアルは、一時的とはいえ離れ離れになった事により、極度
の不安から泣き出していた。
 「アル・・・あなたがいないと心細いですわ・・・」
 「エル・・・一緒にいてくれないとダメですの・・・」
 そんな2人を励ましながら進むレシフェとミスティーア。
 だが、ゲルグ率いる魔人兵士達の執拗なる追撃はすぐそこまで迫っていた・・・
 
 レシフェとエルがスノウホワイトの隠れている部屋に辿り着いたのは、上階をさらに上
がってからであった。
 高速で滑空するレシフェの眼前に、落ち着きない顔でウロウロしている獣人の姿が見え
た。
 「あれは・・・」
 「ジャガー君ですわっ。」
 彼女がサイ魔人に捕らわれる寸前に、アルカと一緒に魔界ゲートへ送った筈のジャガー
神がいるのだ。
 その前に速攻で飛来するレシフェとエル。
 「ジャガー神っ!!」
 「ンニャッ!?レシフェ様っ!!」
 突如現れた2人に驚くジャガー神が、慌てて2人を向かえた。
 「レシフェ様無事だったのニャッ。それにしても、なんでエルもいるのニャ?」
 「詳しい話は後ですわ。アルカはいるの?」
 レシフェの質問に、部屋のドアを開けるジャガー神。
 「アルカはこっちだニャ。リーリア様とハルメイル様もいるのニャ。」
 ジャガー神に促された2人は、リーリア達がいる部屋に飛び込んだ。
 そこには、スノウホワイトを看病するリーリアとアルカ、そして壊れているドワーフ達
を修理するハルメイルの姿があった。
 一同、現れたレシフェを驚きの目で見ている。
 入ってきたレシフェ達へ、最初に声をかけたのはハルメイルだった。
 「レイちゃんっ、それにエルも・・・ミーちゃんとアルは?どーしてエルだけなの?」
 いつも2人揃っている筈のエルとアルが、片割れしかいない事に気がついて驚くハルメ
イル。
 それを困惑した顔でレシフェが答えた。
 「実は・・・ゲルグとか言う男と手下に追い詰められて・・・」
 詳しい経緯を聞いているハルメイルの後ろで、スノウホワイトの治療に専念しているリ
ーリア達が声をかける。
 「では、ゲルグとか言う者と魔人達に追われてミスティーア達とはぐれてしまったので
すね。」
 「はい、ミスティーア達は無事だと思いますが・・・なにぶんにもゲルグとか言う奴が
手強くて・・・」
 ゲルグの名を聞いたスノウホワイトが、苦しそうに声をあげて起き上がった。
 「・・・ゲルグですって・・・では、さっきの狼の咆哮は・・・」
 デスガッドとゲルグに痛めつけられていた彼女の顔には、恐怖の色が浮かんでいる。
 起き上がったスノウホワイトを、アルカは落ちつかせようと肩を抱いた。
 「まだ起きてはいけませんわ、お身体にさわります。」
 「ええ・・・でも・・・すぐにミスティーア姫とアルちゃんを助けに行かないと・・・
ゲルグは恐ろしい男です。その凶悪さは他の魔人達とは比べ物になりませんわ・・・」
 その言葉に緊張を高める一同。そして、凶悪なゲルグの追っ手がすぐそこまで迫ってい
る事を知ったハルメイルは奮起した。
 「じゃあ、すぐに迎え討つ準備しなきゃっ!!ドワーフ達・・・スノウホワイトを守る
んだ。」
 修理をしてもらったドワーフ達が立ちあがり、スノウホワイトの周囲に陣取る。
 「ヒメサマヲマモルゾッ、ワルイヤツヤッツケルゾッ。」
 そしてレシフェとジャガー神がドアの前に立った。ジャガー神の耳が動き、魔人兵士の
足音を感知する。
 「・・・大勢で押しかけてくるニャ、2、30人はいるニャ。」
 そう言ってから間も無くドカドカと足音が鳴り響き、それが部屋の前で止まった。
 ナイフを片手に身構えるレシフェ。
 「来ますわよ・・・」
 ドカッ!!
 凄まじい勢いでドアが蹴破られ、魔人兵士達が怒涛の如き雪崩れとなって乗り込んで来
た。
 「ギエエエイッ、ギエッ!?」
 その眼前に、超巨大な鋼鉄の塊が出現する。エルの鉄球であった。そして自慢の強力で
鉄球を転がす。
 それを慌てて受け止める魔人兵士達。
 「ンギィ〜エエッ。」
 「この〜、全員出ていけですわっ!!」
 だが、いかな強力であろうとも、数人がかりで押し返してくる勢いには叶わなかった。
劣勢を挽回するべく、ジャガー神がサポートに加わる。
 「エルッ、ふんばるニャッ!!」
 「ありがとうですわ、ジャガー君っ。」
 ジャガー神の加勢もあって、逆転された魔人達が音を立てて床にめり込んだ。
 なんとか入り口は塞いだが、今度は部屋の窓から大勢の魔人達が乱入してきた。それを
レシフェとリーリアが迎え討つ。
 「てやあーっ!!」
 「来なさい魔人どもめっ、グラビトンッ!!」
 魔狼族のナイフが閃光を煌かせ、超重力の圧搾が魔人達を押し潰す。
 無敵のリーリアの魔力をもってすれば、こんな雑魚魔人を倒す事は造作もない。しかし、
負傷しているスノウホワイトやハルメイルを庇いながらの戦いは極めて不利であった。
 そしてリーリアは決断する。
 「キリがありませんわね・・・ここは一気にケリをつけますわっ。」
 そう言ったリーリアが片手をあげる。それは彼女が大技を繰り出す合図でもあった。全
員一斉にリーリアの元に集まる。
 「レシフェ、アルカ。周囲にバリアーをはりなさいっ。いきますわよ・・・カタストロ
フ・ストームッ!!」
 掛け声一閃、凄まじい爆風が炸裂する。
 バーゼクス城の一角が爆ぜ、その爆裂をモロに浴びた魔人兵士達が、欠片も残さず消し
飛んだ。
 衝撃は速やかに収まり、その後に動く物は一切無かった。大きく抉り取られた城には、
呆気ないほどの虚空が広がるのみであった。



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