魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀24


   猛反撃、そしてゲルグとの直接対決   
ムーンライズ

 破壊された部屋の中から現れた魔戦姫達。それを困惑の目で見ている3人の魔人達。
 「て、てめえら・・・どうして・・・どうやって助かったんだっ!?」
 震える声で怒鳴るヒトデ魔人の質問に答える様に、魔戦姫達はニッコリと微笑む。
 「教えてあげましょうか?私達は今、闇の魔王様から絶大な魔力を賜っているの。そし
て魔王様の魔力の込められたドレスは、如何なる状況においても私達を守ってくれるのよ。
」
 そう言っているミスティーアのドレスが、目に見えない力でフワリと動く。
 ドレスから不可視のバリアーが出ているのだ。それが強靭な鎧として彼女等を守ってい
るのだった。
 バリアーの鎧に守られた魔戦姫達の身体にもドレスにも、瓦礫の破片はおろか一粒の埃
すらついてはいない。
 ドレスで身を守り、エルとアルの怪力で吊り天井を持ち上げ、ミスティーアの炎の剣で、
吊り天井を部屋もろとも破壊した・・・
 それが全ての顛末であった。
 美しい姿を保持し、優雅に立ちはだかる魔戦姫達を前にして、3人の魔人は息を飲んだ。
 「はっ、そうかい・・・昨夜とは一味違うって事かい・・・」
 表情を強張らせ、ミスティーアを睨みすえるヒトデ魔人。
 そして、毒バチ女と天鳳姫の間で激しい視線の火花がスパークする。
 「昨夜はよくも痛めつけてクレマシタワネ・・・今度はお前が痛めつけられる番デスワ
ッ。」
 怒りモードになっている天鳳姫を、毒バチ女も負けじと睨み返す。
 「ブチ切れモードだわね。それでこそ戦い甲斐があるってもんね・・・」
 睨み合うヒトデ魔人達を押し退け、サイ魔人が前に出てくる。
 「味なマネをしてくれるじゃありませんか〜。やはり直接叩き潰すしかないようですね
〜?」
 その声にレシフェが反応する。
 「潰されるのはお前の方よ筋肉バカ。私のナイフを返してもらうわ。」
 レシフェの言葉に応答するかのように、サイ魔人は魔狼族のナイフを手にして身構える。
 「フフ〜ン、返してほしかったら腕ずくで奪ってみるのですねっ!?おっりゃ〜っ!!」
 掛け声一閃、ナイフを振り回して突進するサイ魔人。
 「みんな散ってっ。」
 レシフェの号令を受け、魔戦姫達が一斉に四方へ逃げる。
 「ぬおっ!?」
 攻撃を交わされたサイ魔人が、そのままの勢いで壁を突き破って隣の部屋へと飛びこん
で行く。
 「のぉ〜っ、だれか止めてくだサ〜イッ!!」
 勢い余ったサイ魔人が、次から次へと壁を突破して離れて行った。
 その様子が余りにも唐突だったので、思わず呆気に取られる魔戦姫達。
 「あいつ、バカですの?」
 ミスティーアの一言に、レシフェが呆れた声で答えた。
 「ノーミソまで筋肉の超バカよ。」
 そんな彼女達に、毒針の攻撃が飛んできた。振り向くと毒バチ女が腕をかざして立って
いる。
 「よそ見してる余裕はないわよっ、さっさとかかってきなっ!!」
 その隣では、ヒトデ魔人が腕をナイフに変えて睨んでいる。
 「クックックッ・・・もう一度テメエらに泣き入れさせてやるぜ・・・俺のナイフで、
テメエらのアソコをズタズタにしてやるっ!!」
 口汚く吠えるヒトデ魔人。
 それを見ながら、レシフェは仲間に指示を出す。
 「私はサイ魔人を追うわ、あなた達は残りの2人をお願いっ。」
 「わかりましたわっ。」
 サイ魔人を追うレシフェと、それに答えてヒトデ魔人達と対峙するミスティーア達。
 「さあ、いきますわよっ!!」
 「来やがれっ、腐れマ○コがっ!!」
 腕のナイフをかざし、突進するヒトデ魔人。それを炎の剣で応戦するミスティーア。
 「うりゃあーっ!!」
 「はあっ!!」
 剣戟が交差し、激しい火花が散った。そして音を立ててナイフの切っ先が床に落ちる。
 ヒトデ魔人のナイフが切り落とされたのだ。
 「あなたのナイフでは私の炎の剣に叶わないわよ。降参するなら今のうちですわ。」
 余裕でそう言うミスティーアだったが、そんな彼女を嘲笑うヒトデ魔人。
 「フッ、てめえもう忘れたのか?この俺が再生能力を持ってるって事をよ。」
 そう言うと、折れたナイフを即座に再生する。
 だがミスティーアも負けてはいない。
 「だったら、再生が出来なくなるまで叩き折って上げますっ!!」
 今度はミスティーアが突進していった。
 「何度でも来やがれっ!!」
 激しい剣戟の応酬が繰り広げられるその近くでは、天鳳姫と毒バチ女の戦いが行なわれ
ていた。
 互いに腕を突き出し、毒針爆射と毒針マシンガンで攻撃しあう。
 「クタバルね、ドブスハチ女っ!!」
 「やってもらおーじゃないの、中華娘っ!!」
 互いに毒針を交し合うが、毒バチ女には猛毒を中和させる能力がある。毒針爆射を浴び
てもダメージは少ないのだ。
 しかも毒針マシンガンは数に限りがないため、毒バチ女は数に任せて乱撃を繰り出して
くる。
 このままでは天鳳姫が不利である上、毒針の乱撃はヒトデ魔人と戦っているミスティー
アとエル、アルにも及びかねない。
 「ひとまず逃げるのコトね・・・」
 小声で呟いた天鳳姫は、踵を返してミスティーア達がいる場所とは反対方向へ走り出す。
 「ドブスの年増ハチ女っ、悔しかったらここまでおいで〜アルよっ。」
 お尻ペンペンしながら逃げて行く天鳳姫を、怒り心頭の毒バチ女が追う。
 「舐めンじゃないよ小娘がっ、お待ちっ!!」
 そして2人が去って行った後も、ミスティーアとヒトデ魔人の応酬は続いている。
 剣でいくらナイフを攻撃してもムダなので、直接火炎攻撃をしかけた。
 「燃えなさいっ!!」
 ヒトデ魔人の顔面に炎が走る。だが、間一髪でそれを交わした。
 そして火炎攻撃を避けるべく、後ろに飛び退くヒトデ魔人。
 「フ〜、危ねぇ危ねぇ。また顔を焼かれる所だったぜ・・・」
 そして更にミスティーアは詰め寄った。
 「逃げてもムダですわよ、かけらも残さずに焼いてあげるわっ!!」
 そんなミスティーアを見たヒトデ魔人の眼が、残忍に光った。
 「フン、調子こいてられるのも今のうちだ。これからが俺様の真骨頂だぜっ!!」
 そう叫ぶなり、ナイフの生えていない腕を切り落とした。その腕からもう一本のナイフ
が出現し、更に全身から無数のナイフが飛び出して来た。
 肩、ひじ、ひざ。そして胸や背中にも何10本ものナイフが突き出しているその姿は、
余りも残忍、そして残虐であった。
 その姿に恐れをなしているエルとアル。
 「ヒトデ男、キョーアク過ぎますわ・・・」
 「沢山のナイフで刺されたら痛いですの・・・」
 「大丈夫、あんなヒトデオバケなんか怖くありませんわ。」
 そんな2人を力強く励ますミスティーア。
 そして、3人を残虐な視線が貫いた。
 「クックックッ・・・てめえら3人とも、バラバラにしてやるぜ〜っ!!」
 そう言うや否や、竜巻のように身体を大回転させて襲いかかるヒトデ魔人。
 「あぶないっ!!」
 とっさに身を交わす3人のすぐ横を、ナイフの疾風をともなった竜巻が通り過ぎる。
 その竜巻に巻き込まれたら最後、見るも無残に細切れにされてしまうだろう。
 「はっは〜っ!!よく交わしたな?そら、もう一丁っ!!」
 再びナイフの竜巻が襲いかかって来た。それを、恐怖を振り絞って応戦するアル。
 「ピコハン・クラッシュですのっ!!」
 巨大ピコピコハンマーを竜巻に叩きつける。だが、それはあえなく跳ね返され、ハンマ
ーが弾かれる。
 「鉄球大暴走ですわっ!!」
 今度はエルの鉄球が迫る。しかし、ジャンプしたヒトデ魔人が鉄球へ飛び乗って攻撃を
交わした。
 「どーした小娘どもっ、それで終わりか?」
 軽業師のように足で鉄球を転がすヒトデ魔人が、鉄球を2人目掛けてはね返す。
 「元に戻れですわっ。」
 間一髪、鉄球をドレスに戻すエル。
 完全な戦闘モードに入ったヒトデ魔人は、かなりの強敵であった。
 「回転しながら攻撃してくるのを止めないと・・・そうだわっ。」
 何か思い立ったミスティーアは、素早くエルとアルに耳打ちする。
 「いいですか・・・ヒトデ男を、こうやって・・・」
 「「わかりましたわ、の。」」
 ミスティーアの指示を受け、素早く走り出す2人。そしてミスティーアとヒトデ魔人が、
一対一で向き合う 
 「ふん、仲間を逃がしてどーするつもりだ?」
 「あなたが知る必要はありませんわよ、ファイヤーウォールッ!!」
 その声と共に、ヒトデ魔人の周囲に炎の壁が出現する。
 「焼ヒトデになりなさいっ。」
 炎の壁に包まれるが、ヒトデ魔人はものともしなかった。
 「なめンじゃねえっ!!でゃああ〜っ!!」
 凄まじい竜巻を発生させ、ファイヤーウォールを弾き飛ばしたのだ。
 「やっぱりダメでしたかっ、仕方がない。」
 そう呟くと、踵を返し背を向けて逃げるミスティーア。それを追うヒトデ魔人。
 「てめえ逃げる気かっ。」
 その追ってくるヒトデ魔人を見て、ミスティーアは何故か笑みを浮べている。
 そして彼女は廊下を一目散に走って行った。
 途中まで走ったミスティーアが、急に立ち止まって振り返る。その向こうから、ヒトデ
魔人が怒涛の勢いで迫って来る。
 「ひき肉にしてやるぜーっ!!」
 ナイフの竜巻が突進するその時。
 「エル、アル。今よっ!!」
 ミスティーアが叫んだ。そして物陰から飛び出して来た2人が、ハンマーと鉄球で横の
壁を破壊した。
 「「さっきのお返しですわ、のっ!!」」
 それと同時に、ヒトデ魔人の横から壁の雪崩が崩れ落ちて来る。
 「うおおおーっ!?」
 大量の瓦礫が、あっという間にヒトデ魔人を埋め尽した。
 「のおお・・・こんな・・・くそ・・・」
 瓦礫の中から呻き声を上げて出てくるヒトデ魔人に、ミスティーアは炎の剣を向ける。
 「トドメですわっ!!」
 炎の剣から火炎弾が発射され、ヒトデ魔人の頭部に直撃した。
 「ぐわああっ!!」
 火炎弾によって頭部を粉砕され、そのままどっと倒れこむ。
 それを見ながら、ミスティーアは炎の剣を胸の宝石に収めて呟いた。
 「頭を吹き飛ばされても再生できますか?」
 そして、再生能力を失ったヒトデ魔人の身体がシューシューと音を立てて溶け始め、や
がて跡形もなく消滅した。
 「姫様、やりましたですわっ。」
 「ヒトデ男をやっつけましたの。」
 駆け寄るエルとアルを抱き寄せるミスティーア。
 「ありがとう、エル、アル。でも戦いはまだこれからですわ。」
 「「はいっ。」」
 更なる魔人達との戦いに、気を引き締める3人であった。
 
 そしてサイ魔人を追ったレシフェは、逆切れしたサイ魔人の猛攻に晒されていた。
 「ふんが〜っ!!よくもワタシに恥をかかせましたね〜っ!?絶対に許しませンよ〜っ!
!」
 「お前が勝手に暴走したんでしょうっ!?自分のドジを人のせいにしないでくださるっ!
?」
 興奮して暴れまくっているサイ魔人と、それを交わしているレシフェ。周囲の部屋や壁
が、荒れるサイ魔人の攻撃で殆ど全壊状態になっている。
 だが、いつまでもこんな不毛な鬼ごっこなどしてもいられないのだ。
 「まったく、しつこい奴ですわっ。魔道兵器で始末しとけばよかった。」
 だが、アルカの合体している魔道兵器ですら通用しなかった筋肉の怪物を相手に、素手
での戦いは極めて苦しいものであった。
 肩のリボンカッターも、強固な筋肉の鎧を傷つけることすら出来ない。
 「何か良い方法は・・・」
 そう呟いたレシフェは不意に、ドレスの内ポケットに魔道兵器の爆裂系の魔力カードが
入っている事に気がついた。
 電撃魔人の拷問で多少ボロボロになっているが、使用には問題ない。
 「よかったっ、これをうまく使えばっ。」
 素早く有効な戦法を考えるレシフェ。だが、サイ魔人の猛攻を交わすのが精一杯で、と
ても戦法を考える暇などない。
 そして、しつこく攻撃していたサイ魔人が、戦闘に終止符をうつべく魔狼族のナイフを
手にした。
 「ムッフフ〜、これで最後にしてあげますよ〜。これでキミの手足の筋を切り落とし、
2度と逆らえないようにしてからタップリイジメてあげますからね〜。覚悟しなサ〜イ。」
 恐ろしく陰湿な笑いを浮べ、ジリジリと歩み寄るサイ魔人。
 それを見ながら、サイ魔人の弱点を探るレシフェ。そしてアルカが、サイ魔人の弱点は
口であると言っていた事を思い出した。
 「口を攻めるには・・・これしかありませんわねっ。」
 意を決したレシフェが、草色の可憐なドレスを翻して突進する。
 真正面から来る美しいレシフェを、両腕を広げて待ち構えるサイ魔人。
 「ハッハ〜ッ、真正面とは潔いっ。さあ来なサイッ、抱きしめてキスしてあげますよ〜。
」
 そしてレシフェは強烈なタックルを御見舞いした。それを豪腕で捕まえるサイ魔人。
 「そーれ捕まえたっ、もう逃げられませんよ〜。」
 万力のような豪腕の締め付けがレシフェを襲い、彼女の顔が苦痛に歪んだ。
 「あうう・・・くく・・・」
 「ンフフ〜。その苦痛に歪んだ美しい顔っ、最高ですね〜。んん〜、もっと苦しみなサ
〜イ。」
 その時、苦しみながらもレシフェが、爆裂系魔力カードを口にくわえてサイ魔人を睨ん
だ。
 「引っ掛かひまひたね、筋肉バカ・・・」
 「あン?なんですと?」
 「キスひてやるとか言ってまひたわね?いひでしょう。キスしてさしあげますわっ!!」
 そう言うや否や、口にくわえた魔力カードをサイ魔人の口の中に捻じ込むレシフェ。
 「んんっ!?んむむ・・・ぷはっ!?おおおっ、な、なんと大胆な・・・ん?」
 突然キスされて驚くサイ魔人は、口の中に入れられた物を思わず飲み込んでしまった。
 「ゴクッ?き、キミは何をしたの・・・あらっ。」
 一瞬腕の力が抜けたのを見逃さず、素早く豪腕から脱出するレシフェ。
 そしてクスッと笑った。
 「それは自分で知るといいわ・・・爆裂っ!!」
 叫んだ瞬間・・・
 ドボォッ!!
 凄まじい爆音と共に、サイ魔人の腹の中で魔力カードが炸裂したっ。
 「ゲボオオオーッ!?」
 サイ魔人の口から大量の鮮血が噴出し、不沈を誇った彼の巨体が倒れ始める。
 その手から、魔狼族のナイフが滑り落ちた。
 「今ですわっ。」
 素早く動いたレシフェが空中を舞うナイフをキャッチし、倒れかけているサイ魔人の肩
にナイフを突きたてた。
 「てええーいっ!!」
 関節の装甲の薄い場所が切れ味鋭いナイフによって切り裂かれ、豪腕が宙に舞った。
 「ンぎゃああっ!!腕が〜っ!?」
 腕を切り落とされたサイ魔人が激痛で転げまわった。
 「フッ、勝ちましたわ。」
 ナイフを振って血糊を飛ばし、トドメをさすべく歩み寄るレシフェ。
 床をのた打ち回るサイ魔人が、泣きじゃくりながら許しを請う。
 「げほっ・・・あわわ・・・や、やめて・・・許してくだサ〜イッ。」
 土下座するサイ魔人だったが、レシフェには彼を許す気など
全くない。
 「今まで散々弱い者イジメしてきた報いですわ。許して欲しいなら、地獄の閻魔にでも
土下座なさい・・・」
 キラリとナイフを煌かせ、1歩1歩近寄る美貌の処刑人・・・
 その美しい氷の微笑みに恐れをなしたサイ魔人は、絶叫を上げて逃げ出した。
 「ひえ〜っ、お助け〜っ!!」
 「しぶとい奴ですわね・・・お待ちなさいっ。」
 脱兎の如く逃げて行くサイ魔人をレシフェは追った。
 
 ミスティーア達が遁走するサイ魔人と遭遇したのは、それから程無くしてである。
 レシフェの応援に向かっていたミスティーアの前に、どどどっ、と足音を響かせてサイ
魔人が逃げて来た。
 「ひ〜っ、助けて助けて・・・あのお姫様は死神ですっ、バケモノですぅ〜っ!!」
 レシフェに怯えて泣き叫ぶサイ魔人に、一瞬呆気に取られてしまうミスティーアとエル、
アル。
 「な、なんですか・・・?」
 「レシフェ様が追った筋肉バカですわ。」
 「レシフェ様にやっつけられたみたいですの。」
 サイ魔人はミスティーア達の存在など目に入らない様子で、そのまま横を通り過ぎて行
った。
 そのすぐ後を、レシフェが駆けて来る。
 「ミスティーアッ。」
 「あ、レシフェさん。」
 その声にミスティーア達は振り返った。そして立ち止まったレシフェが呆れた顔でミス
ティーアを見る。
 「もうっ、どうして逃がしたのっ!!やっと筋肉バカを倒したのに・・・」
 「あ、ご、ゴメンなさいっ。突然だったから・・・」
 「はあ、もういいですわ。早くあいつを追いましょう。」
 「はぁい。」
 レシフェに文句を言われたミスティーアは、恐縮した顔で後に続いた。
 そして、遁走しているサイ魔人の前から大勢の足音が響いてきた。
 それを聞いて喜びの声を上げるサイ魔人。
 「おお〜っ、あれは・・・ゲルグ司令と魔人兵士達っ。助かりました〜っ。」
 それはまさしく、ゲルグと彼の手下である魔人兵士達だったのだ。
 軍靴を鳴らしながら歩いていたゲルグは、サイ魔人の姿を見て立ち止まった。
 「総員止まれっ!!」
 片手を上げて兵士達の行進を止めると、片腕を切り落とされ、血反吐を吐いているサイ
魔人に歩み寄った。
 「むうっ、貴様そのザマはどうしたのだっ?」
 「げ、ゲルグ司令・・・ゲホゲホ・・・良い所に来てくれました〜。ま、魔戦姫にやら
れたンです〜。」
 魔戦姫との言葉に、ゲルグの片目がピクリと反応する。
 「何ぃ〜、魔戦姫がいるのかっ。で、奴等は?」
 その問いに、後ろを振り返りながら答えるサイ魔人。
 「ワタシを追ってきます・・・もうすぐここにくるでしょう、ゲホゲホッ。」
 血反吐が床を真っ赤に染める。その様子からかなりの戦闘が行われた事を察するゲルグ。
 「フフン・・・そうか。奴等をついに見つけたぞっ。総員戦闘準備だっ!!敵は強いっ、
心してかかれっ!!」
 「イエッサーッ!!」
 気を付けをした魔人兵士達が、一糸乱れぬ声で返答した。そして手に手に武器を取って
身構える。
 ついに魔戦姫への総攻撃が始まったのだ。
 「おお〜、これは心強いっ。ゲルグ司令、どーかあんたの力で魔戦姫どもを倒してくだ
サイッ。それと・・・ついでにワタシを助けてくれるとありがたいンですけど〜。」
 ヘコヘコと懇願するサイ魔人を、ゲルグは冷酷な眼で見据えた。
 「フン・・・敵前逃亡した上に命乞いだと?この無様な負け犬めが・・・」
 その言葉に目を点にするサイ魔人。
 「へっ?な、なんですと?」
 そして、更なる冷徹な言葉が下された。
 「敗者には死を、それが戦場での掟だ。貴様も武人の端くれなら潔く死を選べ。生き恥
を晒す事は許さん。」
 「のおおっ!?そ、そんな・・・イヤですよ〜っ!!ワタシは死にたくありませ〜んっ!
!」
 泣き喚くサイ魔人の角を掴んで睨むゲルグ。
 「そうか。では俺が引導を渡してやろう、ムンッ!!」
 そう言うなりサイ魔人の巨体を持ち上げ、仰向け状態で肩に担いだ。
 「や、やめなサイッ、んぎゃああ〜っ!!」
 背骨折りの態勢にされたサイ魔人が絶叫を上げる。そして、背骨が凄まじい勢いでボキ
ボキと折れた。
 「貴様のような負け犬に生きる資格は無い、死ねぇーっ!!」
 「あぎゃあああ〜っ!!」
 血飛沫と共にサイ魔人の胴体が真っ二つに圧し折れ、引き裂かれた巨体が床に落ちる。
 そしてゲルグは残虐な笑いを浮べて呟いた。
 「フッフッフッ。魔戦姫ども、貴様等もこうなるのだ・・・」
 負け犬を処刑したゲルグの片目に、阿修羅の如き狂気の光が宿っていた。
 
 サイ魔人を追いながら、ミスティーアに状況を聞いているレシフェ。
 「・・・そう。ではヒトデ魔人は、あなた達が・・・」
 「ええ、苦戦しましたけど、エルとアルの協力でなんとか。それと天鳳姫さんがハチ女
と交戦中です。早く行かないと・・・」
 「わかりましたわ・・・えっ?」
 廊下の向こうから響いてくる絶叫を耳にして、立ち止まるレシフェとミスティーア達。
 「あれは・・・サイ魔人の声だわっ!?」
 「何かあったのですわ、行きましょう。」
 声のした方向に走って行く魔戦姫達。そして・・・走る先に、驚愕の光景が広がった。
 「こ、これは・・・」
 床に真っ二つにされたサイ魔人が倒れている。その後ろには、魔人兵士達と片目の軍服
男の姿があった。
 その男に面識の無いレシフェが尋ねる。
 「ミスティーア、あの男は何者っ?」
 「あの男はゲルグ・・・バーゼクス軍総司令官ゲルグ・・・」
 ミスティーアの震える声には、明らかなる恐怖が込められている。彼女だけではない、
エルとアルも互いの手を握り合ってゲルグを凝視している。
 やがてレシフェも、この男が只者でない事を直感した。
 サイ魔人の無残な姿も、彼の手によるものとわかる。強固な筋肉鎧を安々と引き裂いた
その怪力は、想像を遥かに絶する。
 そしてゲルグは美しき2人の姫君を目にして、不敵な笑いを浮かべた。
 「カールヘアーの貴様は今朝、俺に眼を飛ばしていた奴だな。それと・・・隣の奴は新
顔か。中々良い眼をしている。戦うの者の眼だ・・・」
 戦いに生きるゲルグの眼が、レシフェは最強の女戦士である事を見抜いていた。
 そのレシフェが1歩前に歩み寄る。
 「お前が魔人兵士の総大将なのね?お前こそ、中々凶悪な面構えをしているわ。悪党の
中の悪党って顔ね。」
 ゲルグと魔戦姫の間に、激しい睨み合いの火花が散る。
 「それにしても・・・まさか(お姫様)と戦う事になろうとはな。だが俺にはわかるぜ・
・・姿はお姫様でも、その実態は無敵の強者である事をなっ。」
 その精神は、最強者と戦える悦びに燃えていた。
 「フハハハッ、俺の武人としての血が騒ぐぜっ、さあ来るがいいっ!!この俺と戦えー
っ!!」
 ゲルグの眼が血に飢えた獣の眼になった。そして彼の身体が隆起し、凶悪なる獣人への
変貌を始める。
 「うおおっ・・・ウオオオーンッ!!」
 雄叫びと共にゲルグは最強魔人、狼男に変身した。
 「ウオ〜ンッ!!ウオッ、ウオオオーンッ!!」
 耳をつんざく凄まじい咆哮が辺りに響く。床が、壁がビリビリと振動している。その声
の衝撃に思わず耳を塞ぐ魔戦姫達。
 「すごい声・・・耳が割れそうですわ・・・」
 たじろぐ彼女等に、更なる衝撃が襲う。
 「食らえっ、クラウドヴォイスッ!!ヴオオオーンッ!!」
 ゲルグの咆哮が巨大な砲撃となって直撃した。
 「きゃあああっ!?」
 ドレスのバリアーで衝撃から身を守る。その魔戦姫達の周囲の床がバリバリと弾け飛ん
だ。
 「こ、これは・・・超音波の爆音ですわよっ」
 衝撃を堪える魔戦姫達は、反撃の余裕が無い状態だ。魔術を使う事も、直接攻撃する事
すらできない。このままでは力尽きて爆音の餌食にされてしまう。
 「仕方ありませんわ・・・ひとまず引きますわよっ。」
 レシフェの判断によって彼女等が後退しようとした。だが、その彼女等の周囲に魔人兵
士達が群がる。
 「ギィッ、ニゲルナッ、タタカエーッ!!」
 取り囲まれた彼女等に逃げ場が無くなった。そしてゲルグの命令が兵士達に下る。
 「さあやれっ、奴等を血祭りにあげろっ!!」
 「イエッサーッ!!ギィエエーイッ!!」
 襲いかかる魔人兵士達。凄まじい戦闘が展開した・・・
 
 


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