魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀22


   闇の魔王とボビーの活躍   
ムーンライズ

 リーリア達がバーゼクス潜入に成功したその頃、一階のホールでは囚われのレシフェが
サイ魔人と電撃魔人兄弟の苛烈なる拷問に晒されていた。
 戦闘用ドレスをボロボロにされたレシフェは、両手首を鎖で縛られた状態で吊り下げら
れ、電撃魔人兄弟の電気ムチで容赦無く責め立てられている。
 「うあっ、はうっ・・・あうあっ!?」
 「ケ〜ッケケケッ!!さあ、そろそろギブアップするかぁ〜?」
 電撃魔人の弟がけたたましく笑いながら電気ムチを振るう。何度もムチが打ち込まれる
事により、ドレスが見るも無残に引き裂かれた。
 「誰が降参するものですか・・・ああうっ!!」
 耐え難い電気ムチの応酬に、さすがのレシフェも思わず悲鳴をあげる。だが、彼女に降
参の意思は全く無かった。
 「ふん、この程度ですの?た、大した事はありませんわね・・・」
 その反抗的な態度に、電撃魔人はブチ切れた。
 「ぬあにぃ〜?テメエまだそんな事ほざいてやがるかっ!!そのキレイな胸をメチャク
チャにしてやる〜っ!!」
 電気ムチがドレスの胸元を直撃し、露になった乳房が激しく揺れる。
 「くそっ、さっさと降参しやがれっ!!この、このっ!!」
 力任せにムチを叩きつけるが、レシフェは一向に根を上げない。いくら責めたてても、
強靭なレシフェの精神を屈する事は適わなかった。
 「参らないと言ったでしょう・・・お前の電気ムチなんか痛くも痒くもありませんわよ・
・・」
 余りの強情ぶりに、弟の方が根を上げてしまった。
 「ハアハア、ちっくしょう・・・なんて奴だ・・・兄貴、タッチだ。」
 弟は傍らの兄貴の手を叩き、責めの交代を頼んだ。
 「よし、俺に任せとけ。」
 片手に拘束用の鎖を持って、電撃魔人の兄がレシフェに詰め寄る。
 「よう女戦士、強がっていられるのも今のうちだぞ。」
 サディスティックに眼を光らせた兄は、レシフェの身体に鎖を複雑に縛り付ける。
 破れたドレスの上から巻きつく鎖が、レシフェの身体をギリギリと締め上げた。
 「くうう、あっ・・・何をするの・・・」
 「フッ、この縛り技は亀甲縛りって言ってな、苦痛と快楽を同時に味わえる最高の縛り
技さ。」
 不敵な電撃魔人の兄に、縛られたまま反抗の言葉を口にするレシフェ。
 「・・・何が亀甲縛りよ、これしきで私が参るとでも思って?」
 確かに縛られたぐらいでレシフェが堪える筈も無い。しかし、責苦には続きがあった。
 「フフフ、それぐらい強気の方が責め甲斐があるってもンだ。他の魔戦姫より楽しめそ
うだな。」
 そう言った兄は、床に転がっている鉄球を足で転がした。そしてレシフェの足元にぶら
下がる鎖の端を、鉄球の金具にくくり付ける。
 「これは、まさか・・・」
 電撃魔人が如何なる責苦を与えようとしているか察したレシフェの顔から血の気が引く。
 「そのまさかだよ。さあ思いっきり泣き叫んでもらおうか。」
 そう言うなり、レシフェを吊り下げている鎖を引っ張った。それによって鉄球が宙吊り
になる。
 「うあっ、あああーっ!!」
 鉄球の重みにより、巻きついた鎖が強引に引き締められた。艶やかな肌に細い鎖が食い
こんで行き、激痛がレシフェを苦しめる。
 「くうう・・・あっ・・・はあう・・・」
 苦しむレシフェを見ながら、鉄球を足で揺らす電撃魔人の兄。鉄球が揺れるたび、更に
鎖が肌に食い込む。
 「ほーれほれ、どんどん痛くなるぞ〜。」
 「ま、負けるものですかっ、クタバるがいいわっ、このサドトカゲめっ!!」
 なおも反抗するレシフェに、眼を吊り上げる電撃魔人の兄。彼のムチの腕がレシフェの
身体に巻きつく。
 「フフ、バカな奴だ。大人しく負けを認めればいいのによ・・・後悔すらできなくして
やるぜっ、食らえ10万ボルトーッ!!」
 凄まじい電撃がレシフェを襲う。
 「ひいいあーっ!!あああーうっ!!」
 全身を駆け巡る電流が強烈な苦痛を生み出す。悲痛な叫び声がホール全体を揺るがした。
 「うああっ、あうあああっ!!」
 苦しむレシフェを容赦無く電撃でいたぶる電撃魔人。
 「ワハハーッ!!泣けっ、苦しめーっ!!」
 「やめて・・・やめ、ああうっ!!」
 辛烈な悲鳴をあげて拷問されるレシフェを離れた位置で見ていたサイ魔人が、感涙に咽
びながら喜んでいる。
 「おおおっ、す、スバラシイッ・・・強く美しい女戦士の苦痛に満ちた顔ほどスバラシ
イものはないっ!!もっと責めなサイッ、もっと苦しめなサイッ!!ワタシは・・・ワタ
シは今っ、最高に感動している〜っ!!」
 両目から怒涛の涙を流して感動しているサイ魔人を見て、電撃魔人の弟がうっとうしそ
うにボヤいた。
 「頼むから静かにしてくれよ〜、気が散ってしょうがねえぜ。」
 呆れている弟だったが、すっかり(あっちの世界に)飛んでいるサイ魔人に電撃魔人の
ボヤく声は全く耳に入っていない。
 そしてレシフェの拷問に専念していた電撃魔人の兄が、サイ魔人に向き直った。
 「おいマッチョ、この女戦士気絶したぜ。」
 その声を聞き入れたサイ魔人が、鎖で縛られたままグッタリしているレシフェに歩み寄
った。
 「ムフフ、とうとう気絶しましたか。普通ならとっくの昔にあの世に行ってますがねぇ
〜。」
 ニヤニヤ笑いながらレシフェを見る。
 「眠る事は許しませんよ、さっさと起きなサイ。」
 サイ魔人の平手打ちで声を震わせて覚醒するレシフェ。その眼前に魔狼族のナイフが突
き付けられる。
 「う、うう・・・ナイフ、私の・・・かえし、て・・・」
 愛用のナイフを突きつけられ、レシフェは激しい苦痛に苛まれながらサイ魔人を睨んだ。
 「んん、ナイフを返してほしいのですか〜?いいでしょう、その戒めから逃れる事がで
きたら返してあげますよ〜。」
 「このっ、なめないで・・・」
 バカされて怒りを露にするが、魔力を奪われ、自由をも奪われている状況では術は無か
った。
 魔力さえ回復すればこんな奴等・・・だが、いくら足掻いても戒めからは逃れられない。
レシフェの肌に食い込む鎖が彼女を嘲笑う様に苦痛をもたらした。
 苦痛に堪えながらホールを見回すと、薄暗いホールの中央にある魔法陣の上にはミステ
ィーアと天鳳姫、そしてエルとアルが気を失って倒れている。しかもそんな彼女達を、魔
人達が執拗に強姦しているのだ。
 「うう・・・みんな・・・」
 仲間を助けられない歯痒さに苦しむレシフェを、サイ魔人が嘲笑う。
 「仲間の事が気になりますか。そんな状態でも仲間を気遣うとは、泣かせますね〜。」
 「フン・・・」
 万策尽きているレシフェだったが、たとえどんな状況に陥ろうとも、彼女に降参の2文
字はないのだった。
 「あの・・・て・・・るわ・・・」
 微かに漏れるレシフェの言葉に聞き耳をたてるサイ魔人。
 「ん〜?何か言いましたか?」
 「あの時と似ているわ・・・私の一族が全滅したあの時と・・・今のように悪党どもに
囚われて拷問された・・・」
 レシフェの脳裏に、過去の悪夢が蘇っているのだった。
 「フ〜ン、それがどうかしましたか?」
 「でも私は諦めなかった・・・そして魔戦姫として復活し、悪党どもを全員地獄に叩き
落してやったわっ!!覚悟なさい・・・私を怒らせたらどうなるか、思い知らせてあげる
っ!!」
 強い口調で叫ぶレシフェ。だが、彼女の実力を知らないサイ魔人は、つまらない戯言と
一笑した。
 「ファハハッ!!これは面白い、できるものならやってみればいいでしょう。せいぜい
ムダな抵抗でもするのですね、ハッハッハッ。」
 高笑いしながら背を向けて去って行くサイ魔人。そして、再び電撃魔人兄弟がレシフェ
に詰め寄った。
 「ケケケ〜、拷問再開といこうか〜。」
 「クックック・・・時間はタップリあるんだ、楽しませてもらうぞ。」
 邪悪な電撃魔人の拷問が再開され、ホールに再び叫び声がこだました。
 そんな耐え難い苦しみの中、レシフェは決して諦めはしなかった。今以上の地獄を味わ
って来た彼女に、諦めるなどと言う言葉は無用だったからだ。 
 レシフェの悲鳴が響くホールの片隅では、ボビーを始めとするセカンドチームが床に転
がされていた。
 彼等は全員、魔人に改造する価値も無いと判断され見捨てられているのだった。
 その中でも、闇の波動を直に浴びて魂が闇に落ちてしまったボビーは、生きた屍の如き
様相となっている。
 
 彼の魂は・・・暗き闇の中をさまよっていた・・・
 無重力の暗闇の中、ボビーは誰かに自分の名を呼ばれた気がして辺りを伺った。
 (・・・ここは何処だ?誰か俺を呼んだか・・・?)
 宙に浮いた状態のボビーの魂は、深い暗闇に吸い込まれていく。
 (俺・・・死ンじまったのか?・・・ミィさんを助けられずに・・・俺は・・・)
 遺恨に苛まれるボビーを、再度何者かが呼びかける。
 『・・・ボビーとやら、お前は今だ死に至っておらぬ・・・気をしっかり持たぬか・・・
』
 (だっ、だれだっ!?)
 地獄の底から響くような声に振りかえると、闇をまとった巨大な人影が鋭い眼光でボビ
ーを見据えていた。
 その姿は・・・
 (あわわ・・・あ、悪魔っ!?)
 驚くボビーを見てニヤリと笑う巨大な闇の人物。
 『悪魔、か・・・如何にも、余は闇を統べる悪魔の王であるぞ・・・そしてここは地獄
の入り口・・・お前の魂は今、奈落の底へと堕ちておるのだ・・・』
 その言葉にギョッとするボビーは、目を見開いて悪魔の王を見た。
 (じ、地獄だって!?冗談じゃねーっ!!地獄になんか行きたくねーよっ!!)
 『フッ・・・惚れた女も救えん愚か者には地獄が相応しいわ・・・地獄に堕ちたら最後、
お前の魂は永遠に闇をさ迷う事になろうぞ・・・哀れな奴よ、生きながら地獄に堕ちると
はのう・・・』
 悪魔の王の言葉に、ボビーはハッとする。悪魔の王はさっきも言っていた、お前は今だ
死に至っていないと・・・
 (と、いう事は・・・俺は死んでいないのかっ?)
 『ああ、そうだ・・・あれを見よ・・・』
 ボビーの問いに答えるかのように、悪魔の王は右手をボビーの背後に向けた。その先に
は小さな光の点が見える。
 『・・・あの光は現世の光だ・・・あそこに辿り着く事ができれば、お前は助かる・・・
お前の惚れた女もな・・・』
 (ほ、本当かっ!?ミィさんも・・・助かるンだなっ!?ウソじゃねーだろうな。)
 疑り深く聞き返すボビーに、悪魔の王は平然とした顔で返答する。
 『余はウソが嫌いだ・・・それにミィさんとやらは今だデスガッドの弟子どもに囚われ
て辱められておる・・・お前だけがミィさんを助けられる・・・早く行け、光を目指すの
だっ・・・』
 悪魔の王は、力強い口調でボビーを励ました。その声に応え、ボビーは光に向き直った。
 しかし彼の目に映る光は弱々しく、その距離は永遠とも取れるほど遠く感じた。
 (なんか心配だなぁ・・・ほんとに大丈夫かな?)
 情けない顔でオロオロしているボビーに、悪魔の王の叱咤が飛ぶ。
 『馬鹿者っ!!迷っている暇など無いぞっ。ミィさんを助けたくはないのかっ!?モタ
モタしていると地獄の魔物がお前を地獄へ引き摺りこみに来るぞっ。』
 その言葉に後ろを振り返ると・・・暗闇の中から恐ろしいバケモノの大群が迫って来る
のが見えた。
 (うわわっ!?大変だっ。)
 『ホレ、急げ急げ。さっさと行かんとバケモノどもに尻をかじられるぞ。』
 悪魔の王に急かされたボビーは、平泳ぎの格好で手足をバタバタさせ、無重力の世界を
泳い(?)だ。
 (このっ・・・負けてたまるか〜っ!!待っててくれミィさんっ、今助けに行くぞーっ!
!)
 懸命になって光を目指すボビーの心に、強い意思が溢れていた。
 ・・・今度こそミィさんを助ける・・・助けて見せるっ!!
 彼の努力が報われるかのように、光は徐々に・・・そして確実に近付いてくる。
 悪魔の王から離れて行くボビーは、振り向きながら感謝を告げた。
 (ありがとうよ悪魔さんっ、あんたに助けてもらった事は一生忘れねーぜっ!!)
 そしてボビーの魂は、急速に光の中へと吸いこまれて行った。彼の魂は悪魔の王こと、
闇の魔王によって救われたのであった。
 ボビーの魂が現世に戻った事を確認した闇の魔王は、軽く溜息をついた。
 『フン・・・余の事を覚えてもらっては困るのだがな・・・まあ良い・・・あ奴がミス
ティーアを助ければ他の魔戦姫達も助かるだろう・・・後はリーリア達が賢者の石を破壊
してくれれば・・・頼むぞリーリア・・・我が愛する妻よ・・・』
 静かに現世の光を見つめる闇の魔王。彼の目にはリーリアを想う気持が溢れていた・・・
 
 そして舞台は、再びバーゼクスのホールに戻る。
 レシフェを責めている電撃魔人兄弟に、ミスティーア達を強姦している他の魔人達。
 執拗な責めに専念している魔人達は、ホールの片隅にいる者達の事など全く気に止めて
いない。
 魔人達に殴る蹴るの暴行を受け、陸に上げられたマグロの様に床に転がされているセカ
ンドチームのメンバー。その中にはバーゼクスの国王であるモルレムと牢獄の看守も含ま
れている。
 「ひ〜ん、ひ〜ん。僕は国王様だぞ無礼者め〜、びえ〜ん。」
 デスガッド一味に見捨てられたモルレムは、今だ国王の権威に縋りついて泣き喚いてお
り、その横ではエリーゼ姫救出に手を貸した事を悔やんでいる看守が、自身の悲劇をボビ
ーに押しつけて文句を言っていた。
 「俺は悪くねーンだ〜。全部ボビーが悪いんだ、わぁ〜ん。」
 そんな彼等の文句を聞き入れる者はいない。起き上がる気力すら無くして転がっている
セカンドチーム達は、アホ国王の情けない姿を無気力な表情で見ていた。
 「バーゼクスはお終いだ・・・俺達も、もう・・・」
 彼等が力なく呟いた、その時である。
 「う、うう・・・ミィさん・・・」
 呻き声と共に、一番端で転がっていたボビーがゆっくりと起き上がった。
 「ボビー・・・お前、まだミィさんの事を・・・」
 魂の抜け殻と化した同僚を、悲痛な面持ちで見ていたセカンドチーム達だったが、ボビ
ーがおぼつかない足取りで魔法陣に向かっている事に気がつき、うろたえた。
 「おい待てっ。何をする気だボビーッ。」
 だがボビーはその声を無視して魔法陣に歩いて行く。
 その先には・・・魔人達に強姦されているミィさんこと、ミスティーアがいる。ミィさ
んを助けんとする彼の目に、強い活力が漲り始めていた。
 下品な声を上げて腰を振る魔人に責められているミスティーアは、白目を向いたまま完
全に気を失っていた。
 「うりゃうりゃ〜、もっとイジメてやるぜ〜。」
 強姦に専念している魔人達は、ボビーが近寄ってくる事に気がついていない。
 その背後に立ったボビーが、組んだ両手を高く上げ魔人の頭に叩きつけた。
 「どわっ!?」
 殴られた魔人が頭を抱えて転がった。
 「て、てめーっ、なにしやが・・・のおっ?」
 「ミィさんを・・・ミィさんをイジメるなーっ!!」
 驚いている魔人に、怒りの鉄拳を浴びせるボビー。その騒ぎを聞いた他の魔人達がボビ
ーに向き直る。
 「ウホッ?何のさわぎだぁ?」
 エルとアルをイジメていた雪男が、鉄拳を振るって魔人に逆襲するボビーを見て驚く。
 「ウホホ〜、よくもお楽しみをじゃましてくれたな〜?ブチのめしてやるどーっ。」
 毛むくじゃらの腕を振り回してボビーに突進する雪男。
 そしてミィさんを守るべく、両手を広げて立つボビー。
 「ミィさんに指一本触れさせないぞっ!!」
 「ウッホ〜、クタバレ〜ッ!!」
 雪男の豪腕がボビーに炸裂するかに見えたその瞬間、
 バシィッ!!
 ボビーの前に、目に見えないバリアーが出現して雪男の攻撃を跳ね返したのだ。
 「ノホ〜ッ!?」
 弾かれた雪男は、他の魔人達も巻きこんで床をゴロゴロ転がって行った。
 「う・・・俺は一体・・・今のは・・・?」
 不意に我に帰ったボビーは、自分を守ったバリアーの存在に戸惑った。そして魂の戻っ
た自分の肉体に、強い活力が漲っている事にも気がつく。
 「すげえ・・・今ならミィさんを助けることができるぜっ。」
 魔人達を撃退したボビーは、すぐさまミスティーアに向き直って彼女を抱き起こした。
 「ミィさん、しっかりしてっ。」
 だが、呼びかけてもミィさんは目覚めない。ボビーはミィさんを強く抱きしめ、更に呼
びかける。
 「ミィさーんっ!!目を覚ましてーっ!!」
 その声がホール全体に響き渡り、そして・・・ボビーの叫びに応えるかの様に、ミステ
ィーアの指にある魔王の指輪から黒い光が発せられた。
 「うっ、これは・・・」
 驚くボビーと気を失っているミスティーアを、黒い光が穏やかに包んでいく。やがてそ
れは傍らに横たわるエル、アル。そして天鳳姫をも飲み込んだ。
 その様子を見た電撃魔人兄弟が、驚嘆の声を上げる。
 「な、なんだ、あの黒い光はっ!?」
 レシフェを拷問する手を止め、黒い光に釘付けになる電撃魔人達。それは拷問でボロボ
ロになっているレシフェにも目撃された。
 「あ、あれは・・・魔王様の御光・・・闇の魔光っ。」
 呟いたレシフェは、手首を拘束している鎖が僅かに緩んでいる事に気がついた。
 「い、今ですわ・・・」
 すぐさま手首を捻って関節を外すレシフェ。それによって彼女は床に転げ落ちた。
 「はうっ、うううっ。」
 激痛を堪えて立ちあがったレシフェは、身体に巻きついた鎖を振り払う。そしてわき目
も振らずに黒い光の元へと駆け出した。
 出現した黒い光に目を奪われていた電撃魔人兄弟が、レシフェの脱走に気がついて我に
返る。
 「ゲゲッ、こいつっ。」
 「待ちやがれっ。」
 慌ててレシフェを取り押さえようとするが間に合わず、彼女の逃走を許してしまった。
 懸命に走るレシフェは、仲間の名を呼びながら黒い光の中へと飛び込んで行く。
 「ミスティーアッ、天鳳姫ーっ!!」
 黒い光がレシフェをも包み込み、強いバリアーとなって魔人達の侵入を拒んだ。
 「うおおっ?近寄れねえ・・・」
 黒い光を取り巻く魔人達は、光の中で何が起きているのか全くわからない状態であった。
 その中では・・・黒い光の力によってミスティーアと天鳳姫が覚醒の時を向かえていた。
 「う、ううん・・・ここは?」
 静かに目を開けるミスティーアに、歓喜の声を上げるボビー。
 「ミィさんっ、よかった・・・目を開けてくれたっ。」
 「ボビーさん?あなたなのね、私達を助けてくれたの・・・?」
 ミスティーアに尋ねられ、彼女を抱き下ろしながら顔を赤くして答えるボビー。
 「い、いや、その・・・俺じゃないんだ、悪魔の王とか言う人が俺の事を助けてくれて
さ・・・それにミィさんの指輪から黒い光が出てきて、それで・・・」
 「悪魔の王ですって!?それはもしかして・・・」
 驚くミスティーアに、エルとアルに支えられた天鳳姫と、拷問から逃げ出してきたレシ
フェが歩み寄って来た。
 「魔王様が私達を助けてくださったのね。」
 よろけながら歩くレシフェを、エルとアルが心配そうな目で見つめた。
 「レシフェ姫様ボロボロですわ・・・」
 「レシフェ姫様もイジメられたですの、ね?」
 「ええ、あなた達を助けようとバーゼクスに乗り込んできたけど、ドジを踏んでしまい
ましたわ。」
 少し笑ったレシフェは、今までの経過を克明に話した。ミスティーア達は、魔界に向か
った(はず)のアルカとジャガー神の身も案じた。
 「では、アルカさんやジャガー神がリーリア様にこの事を告げてくれたはずですわね。」
 「でも・・・賢者の石の力で覆われているバーゼクスから逃げ延びたかどうか・・・も
しかしたらバーゼクスに戻っているかも。」
 レシフェの不安は的中していたが、それを確かめる術は無い。
 思案に暮れている魔戦姫達を、ボビーが戸惑った顔で見つめている。
 「君達は一体・・・」
 ボビーは、ゲルグがミィさん達の正体が悪魔だと言っていた事を思い出した。もしそれ
が本当だとすれば・・・
 その疑問は、突如響いてきた声によって解明される。
 『・・・ボビーとやら、よくぞ魔戦姫達を救ってくれた・・・礼を言うぞ・・・』
 その声に驚く一同。
 「そ、その声は悪魔の王っ!?」
 「魔王様っ!!」
 ミスティーア達の喜ぶ声に、闇の魔王は厳かな声で応対する。
 『・・・皆、無事であるか?魔力を殆ど奪われておるな・・・デスガッドめに随分とや
られてしまったか・・・』
 「私達を案じて頂き、恐悦至極ですわ魔王様。」
 そう言いながら、恭しく膝をつく魔戦姫達。
 そして呆然としていたボビーが、声のする方に向かって尋ねた。
 「あんたはさっきの悪魔さんだろう?教えてくれ、彼女等の正体は悪魔なのか?」
 闇の魔王にタメ口をきくボビーに、天鳳姫が驚いた。
 「ち、ちょっと!!魔王様に向かって無礼な事を言ったらダメのコトねっ!!」
 そんな天鳳姫の肩を掴み、無言で首を振るミスティーア。
 「・・・わかったアルよ。」
 ミスティーアの気持ちを暗黙の内に了承した天鳳姫は、魔王とボビーの対応を黙って見
た。
 ボビーの問いに、穏やかな声で答える闇の魔王。
 『・・・その問いは、お前自身の心で判断せよ・・・この者達が悪しき悪魔であると思
えばそれもよし。だが、そう思わぬのなら・・・彼女等を慈しみの心で見るが良い・・・』
 その返答を黙って聞き入れるボビー。やがて、彼は力を込めて魔王に告げた。
 「ミィさんは・・・悪い奴じゃない。そうだよ、優しいミィさんが悪魔なもんかっ。た
とえ悪魔だったとしても、俺はミィさんを信じるさっ。」
 ボビーの返答に、満足そうな声を返す魔王。
 『うむ・・・それで良い。お前は真に光と闇の理を悟っておる・・・その気持ち、終生
大事にせよ・・・』
 「ああ、そうするよ。」
 そんなボビーが、ミスティーアの事をミィさんと呼んでいる事に疑問を持ったレシフェ
が、天鳳姫に尋ねた。
 「ねえ、あの男はどーしてミスティーアの事をミィさんって呼んでる訳?」
 「あ〜、それはその〜。後で話してあげるのコトよ。」
 少し苦笑いしながら答える天鳳姫。
 やがて、闇の魔王の声が魔戦姫達に向けられる。
 『魔戦姫達よ・・・お前達にはもう一働きしてもらわねばならん・・・リーリアや八部
衆の者もバーゼクスに潜入したが、あの者達だけではデスガッド一味の野望を打ち砕くこ
とは難しい・・・お前達に余の魔力を授けようぞ・・・』
 魔王がそう言うと同時に、魔戦姫達の身体に闇の波動が送り込まれる。
 「うあっ?ああ・・・これはっ。」
 傷ついた彼女等の身体に応急処置が施され、一時的ではあるが魔力も体力も回復してい
る。
 そして魔人達にボロボロにされていたドレスが、修復されて魔戦姫達の手元に戻った。
無論、ドレスにも魔王の力が宿っているのだ。
 「よかった、ドレスがないと戦えませんもの。」
 喜ぶ魔戦姫達に、魔王は励ましの言葉を述べる。
 『さあ、魔戦姫達よ・・・リーリア達を助け、デスガッドを・・・堕ちた神族どもを一
掃するのだっ。』
 「はいっ、承知致しましたわ。」
 『頼もしい限りだ・・・では任せたぞ・・・』
 闇に消える魔王の声。それと同時に魔戦姫達を包んでいた黒い光も徐々に弱まっていっ
た。
 デスガッドとの最終決戦に向けて決意を固める魔戦姫達。
 「さあ、気を引き締めて行きましょうっ。今度こそデスガッド達を倒さねばっ。」
 「ええっ。」
 そんな彼女達に、ボビーも戦う決意を述べる。
 「俺も戦うよっ。デスガッドやゲルグのアホを一発ブン殴ってやらねえと気がすまねえ
ぜっ!!それにミィさんやあんた達ばかり戦わせる訳にはいかない。」
 血気に逸るボビーだったが、そんな姿を悲しそうに見つめるミスティーア。
 「・・・ごめんなさい。もうあなたを戦いに巻き込みたくはありません・・・」
 ミスティーアはそう言ったが、ボビーは納得しなかった。
 「何を言うんだミィさん、君の事が好きなんだ。俺が守ってやるよ、だから・・・」
 そんなボビーの頬に手を当て、そっとキスをするミスティーア。
 「ありがとうボビーさん・・・あなたは優しい人・・・」
 「ミィさん・・・」
 呆然とするボビーの視界が急に暗くなる。ミスティーアが魔力でボビーの意識を閉じた
のだ。
 「うう・・・ミィさん・・・」
 薄れ行く意識の中、ボビーは優しく微笑むミィさんの笑顔を見ていた。
 ボビーを眠らせたミスティーアは、表情を引き締め、エルとアルに向き直った。
 「エル、アル。魔界ゲートを開いて頂戴。」
 「「・・・はいですわ、の。魔界ゲート・・・オープンッ。」」
 ミスティーア同様、悲しい想いを振り切って魔界ゲートを開くエルとアル。
 その中に、眠っているボビーを送り込んだ。
 「これでいいですわ・・・まもなく魔王様の魔光が消滅します。」
 ミスティーアの持っている魔王の指輪から放たれていた黒い光が消えて行く。そして、
薄れ行く黒い光の向こうに凶悪な魔人達の姿が浮かび始めた。
 「行きますわよっ!!」
 身構える一同、そして戦いは再開される。






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