魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀20


  レシフェ危機一髪!!   
ムーンライズ

 ハルメイルが出陣する少し前、レシフェ達はバーゼクス城の内部に潜入していた。
 城内は不気味なほど静まり返っており、魔界ゲートを出たレシフェ達は、どこか異様な
雰囲気を全身に感じていた。
 先頭を行くレシフェがアルカとジャガー神に振り返る。
 「なにか、嫌な感じがするわ。」
 「姫様も感じておられますか?恐ろしく邪悪な気配がしてきます。皆さんは何処にいる
のでしょうか・・・心配です。」
 「体中の毛がムズムズするニャー。」
 アルカの懸念はレシフェやジャガー神も同様だった。それにミスティーア達からの連絡
が途絶えている事も気掛かりだ。
 無敵の魔戦姫が敵に破れて囚われているのか?まさか・・・一同の不安は、城内の異様
な雰囲気によって増加していた。
 今レシフェ達がいる場所は城の倉庫である。
 倉庫に誰もいないのを確認し、出入り口に歩み寄って扉をそっと開ける。
 半分開かれた扉に、下からアルカ、レシフェ、ジャガー神の順で顔を出してキョロキョ
ロと辺りを伺う。
 「外には誰もいませんわ、出ましょう。」
 廊下に出た3人は、足早に先を進んだ。だが、どれだけ行けども人影は全く無かった。
 「・・・おかしいですわね?昼間なのに誰もいないなんて。それにバーゼクス城の詳細
がわからないと動きようが無いわ。」
 闇雲にミスティーア達を探してもらちはあかない。ジャガー神の肩に乗っているアルカ
が口を開いた。
 「姫様、私にお任せください。城がどうなっているか調べてみますわ。」
 アルカはそう言うと、静かに目を伏せて手を左胸に当てた。その胸から、トクン、トク
ン・・・と心音が響く。
 「・・・お父様の御力を私に貸してください・・・」
 小さな声で呟くアルカ。彼女の父親であるトルメク・アルタパックは強力な透視能力を
持っていた。今、アルカの人工心臓に魂魄として宿っている彼の能力は、愛娘アルカに受
け継がれているのだ。
 「城の全容が判りましたわ。」
 父の超能力で城を探ったアルカは、城の状況をレシフェに語った。巨大なバーゼクス城
の上層部には誰もいない事、そして一階のホールと地下室から異様な気配が発せられてい
る事を話した。
 「異様な気配ですって?それは一体・・・」
 「そこまでは判りません。でも、それはかなり邪悪な気配である事は間違いありません
わ、正直言いますと・・・行くのは、ためらわれます。」
 深刻なアルカの口調に、レシフェは黙り込んだ。只の誘拐犯でないとわかっても、その
正体が掴めねば術がない。
 2人が考え込んでいると、ジャガー神が口を挟んできた。
 「そんなの心配ないニャー。どんな奴でもブッ飛ばせばいいのニャ。」
 余りにも(単純)なジャガー神の言葉に、レシフェもアルカも呆気にとられる。そうだ、
考え込んでいても前には進まない。前進あるのみだ。
 「そうですわね・・・クヨクヨしてても始まらないわ、お前の言う通りねジャガー神。」
 レシフェの言葉に、ジャガー神も頷く。
 「そうと決ったら、早くミスティーア姫達を助けに行くのニャ。」
 単純明快なジャガー神に、思わず笑みを浮べるアルカ。
 「ウフッ、ジャガーちゃんったら単純でいいわね。」
 「それって誉めてるのニャ?けなしてるのニャ?」
 「両方よ、ウフフ。」
 ためらいを振り切った3人は、再び歩み始めた。目指すはミスティーア達の囚われてい
る場所だ。
 だが、3人の動きは、すでにデスガッドに知られていた。
 ミスティーア達を助けに魔戦姫や魔族達が来る事を予測していたデスガッドは、城内の
至る所に監視の目を光らせていたのだ。
 「フフン、やっと新手が来おったか。」
 廊下を歩く3人の姿を自室のモニターで見ているデスガッドが陰湿に笑った。彼の頭に
レシフェをも罠に嵌める策略が巡っているのだ。
 振り返ったデスガッドは、後ろに控えていた弟子のマッチョマンに指示を下した。
 「魔人に改造した兵士を連れて奴等を出迎えろ。奴等の仲間同様、魔法陣に誘い込むの
だ、いいな。」
 「はぁ〜い、ワタクシめにお任せあれっ。フンフン〜ッ。」
 相変わらずダンベルを振りながら元気良く答えるマッチョマン。そしてデスガッドは、
別の弟子に地下室への指示も下した。
 「地下室の制御班に伝えよ。新たに来た魔戦姫を捕えた後、賢者の石を発動させる様に
とな。バーゼクス城全体に結界を張るのだ。直に魔族の軍隊が攻めて来るだろう、今魔族
どもに踏み込ませる訳にはいかん。」
 「ははっ、伝えてまいります。」
 恭しく頭を下げる弟子達が自室から出て行く。
 そして、自分達の事がバレているとは知らないレシフェ一行は、アルカの案内で城を探
索していた。
 「アルカ、ミスティ-ア達が囚われている場所はわからない?」
 「今探してます・・・ええっと・・・」
 父の透視能力を使って探索するアルカだったが、すぐには探し出せない。
 焦れたジャガー神がアルカを急かした。
 「早くするのニャ〜。デスガッドに見つかるのニャ〜。」
 「はいはい・・・すぐに探すから・・・」
 頭を掻きながら探索を続けるアルカが、不意に声を詰まらせた。ミスティーア達の気配
が最悪の場所にいる事が判ったのだ。
 「皆さんは・・・一階のホールにいますわっ。」
 「それがわかれば早い話だわっ、すぐに行きましょう。」
 逸るレシフェだったが、アルカは慎重なる行動を促した。
 「待ってください、そこは余りにも危険ですわ。そこには・・・恐ろしい罠が仕掛けら
れていると思われます。直接乗り込むのは無謀です。」
 その言葉にレシフェとジャガー神は声を詰まらせた。アルカの進言に間違った事は無い
のだ。
 父親譲りの超能力と、聡明なる彼女の頭脳は今までも魔戦姫の危機を救ってきた実績が
ある。それはリーリアも一目を置いている事だった。
 でも危険を返り見る暇は無い。一刻も早くミスティーア達の元に急がねば・・・
 「虎穴に入らずんば虎児を得ず・・・天鳳姫がいつも言っている中国の格言よ。罠が何?
私達が力を合わせれば何も怖くないわ、そうでしょう?」
 レシフェの言葉に頷くアルカとジャガー神。だが、彼女は知らない。罠の実態が魔族の
力を奪うものである事を・・・
 ホールに向かう一行は、廊下の向こうから只ならぬ気配を感じて立ち止まった。
 大勢の、それも凶悪な気配を漂わせる者達が迫っているのだ。それを素早く察したアル
カが忠言を発する。
 「・・・感じますわっ、デスガッドの仲間がこっちに向かっているのをっ。その数・・・
11人っ。」
 アルカの言葉にレシフェは臨戦態勢をとった。そして嫌な予感を感じていた。奴等がこ
ちらに向かってくると言う事は・・・
 「まさか・・・私達の事は全て知られているのかも・・・」
 悪夢の事実を実感しているレシフェだったが、今は迫ってくる敵を撃退する事が先決だ
った。
 「2人とも油断しないでっ、即時攻撃に移れるよう準備をっ。」
 「はいっ。」
 身構える3人・・・そして一行の前に、ファーストチームの兵士達を従えたマッチョマ
ンが姿を見せた。
 「フンフンフ〜ンッ。見つけましたよ〜、愚かな魔族達〜。」
 ダンベルを振りながら先頭を歩むマッチョマン。そして対峙するレシフェ。
 「やっと現れましたわねっ、デスガッドの手下どもっ!!」
 魔道兵器を構えるレシフェを見たマッチョマンが、歓喜の声を上げる。
 「おおっ、キミは・・・キミは〜っ!!」
 体を震わせるマッチョマンの熱い視線は、真っ直ぐレシフェに向けられていた。
 「す、スバラシイッ!!その美しい装い!!鍛え上げられた肉体っ!!絶世なる美貌っ!
!どれをとっても最高だっ。ワタシは・・・ワタシは今、モーレツに感動している〜っ!!
」
 煌びやかな草色のドレスを着飾っている美しき女戦士を前にして、滝の様に感涙を流し
てマッチョマンは叫んだ。
 異様に(爽やかな顔)で感動しているマッチョマンを見て、呆気に取られるレシフェ。
 「何ですのコイツは・・・」
 「相手にしないほうがいいですわよ姫様。」
 「そーそー、あいつは只のアホだニャ。」
 呆れているのはレシフェだけではなかった。特にジャガー神の(アホだニャ)との言葉
には説得力があった。
 鋭い視線でマッチョマンを睨むレシフェ。
 「お前に構っている暇はありませんわ筋肉男っ、命が惜しければそこを退きなさいっ!!
」
 誇り高きレシフェを前に、白い歯をキラリと輝かせて微笑むマッチョマン。
 「んん〜っ、ますます気に入りましたよ〜。今度は・・・ワタシ達の美しき姿をみせて
あげましょうっ!!」
 叫んだマッチョマンの肉体が躍動し、銀色の筋肉鎧をまとったサイ魔人に変身した。サ
イ魔人の後ろに控える兵士達も同様に変身を遂げている。
 「あ、あれはっ!!」
 敵の真なる姿を見て驚愕するレシフェ。
 だが、驚いている暇は無い。サイ魔人が変貌した兵士達に命令を下した。
 「さあさ、皆さん。あの者達を捕えるのですっ。特に女戦士は無傷で捕らえるのですよ
〜っ。」
 命令を受けた魔人兵士達が、奇声を上げて襲いかかってくる。
 「キィイイイーッ!!」
 向かってくる魔人達を前にして、レシフェは魔道兵器を構えた。
 「行きますわよアルカッ!!」
 「はい姫様っ!!」
 レシフェの声を受け、ジャガー神がアルカの体をレシフェに投げる。
 「はあーっ!!オーガメイド、超合体っ!!」
 空中で反転するアルカの全身が白銀の光と化し、魔道兵器に突入する。
 魔道兵器からカッと光が迸り、単なる銃であったそれが驚異の能力を持つ超兵器に変貌
を遂げた。
 唸りを上げて回転するジェネレーター。銃身に高電流が蓄電され、バチバチとスパーク
が走る。
 兵器に驚異的な魔力をもたらすオーガメイドの力・・・これぞ魔戦姫が誇るオーガメイ
ドの真骨頂であった。
 『姫様、鋼鉄のカードをっ、徹甲弾用意ですわっ!!』
 「承知っ。」
 鋼鉄のエレメントを有する魔力カードをスロットに挿し込んだレシフェが、ジャガー神
に指示する。
 「ジャガー神、サポートなさいっ!!」
 「了解ニャッ!!」
 即座にレシフェの背中を肩で支えるジャガー神。
 「徹甲弾フルオートッ、ファイヤーッ!!」
 岩をも貫く徹甲弾が魔道兵器から連続発射される。
 ダダダッと轟音を上げ、徹甲弾が迫ってくる魔人に炸裂した。
 「ギャアアアーッ!!」
 全身をブチ抜かれた2人の魔人が、血塗れになって吹っ飛ばされる。
 倒れた仲間を踏み越え、新たに魔人が突進してきた。その魔人の弱点を即座にアナライ
ズしたアルカが、魔道兵器の中から指示を出して来た。
 『あの魔人は火に弱いですわ、火炎放射で攻撃をっ。』
 「了解っ!!」
 今度は炎の魔力カードをスロットに挿入する。そして銃口から紅蓮の炎が発射された。
 「グアアーッ!!」
 ミスティーアの炎にも勝る火炎攻撃で、一瞬のうちに焼き尽くされる魔人。
 そして新たなカードを挿し込んだレシフェは、銃身の下部にある砲身のトリガーを引い
た。
 バシュウッ!!
 凄まじい強酸の嵐、ルスト・ハリケーンをモロに食らった魔人が跡形も無く解けてしま
った。
 「ヒ、ヒイイッ!?」
 強敵の出現に、魔人達は慄いて後退を始める。
 瞬く間に4人の魔人を倒したレシフェ達。もうもうと立ち込める煙に、美しきレシフェ
の姿が浮かび上がった。
 草色のドレスが爆風の余韻で揺らめく。その美しさに誰もが息を飲むであろう。
 魔道兵器を構えて歩み寄るレシフェを見て、大声で喚くサイ魔人。
 「飛び道具だなんてズルイでしょーがっ!!素手で戦いなサイ、素手でっ!!」
 だが、レシフェは喚くサイ魔人を無視して、再度徹甲弾を魔人達にお見舞いする。
 「ウギャアアア〜ッ!!」
 悲鳴を上げた魔人兵士達がバタバタと倒れていく。
 「むむっ、これはいけない・・・ひとまず退却ですよ〜っ。」
 最後に残ったサイ魔人は、レシフェに背を向けて逃げ始めた。
 「臆病者めっ、お待ちなさいっ!!」
 魔人達を追うレシフェとジャガー神。だが、サイ魔人の逃げる先を見たアルカが警告を
発した。
 『気をつけてください姫様っ、奴が向かっている先は・・・ミスティーア姫様達が囚わ
れているホールですよ。』
 アルカの言葉に思わず立ち止まるレシフェ。そしてジャガー神が心配そうに声をかけて
きた。
 「レシフェ様、どうするのニャ?」
 僅かに沈黙するレシフェ。だが、彼女には後退の意思は無かった。
 「決っているでしょう?奴を追いますわ・・・そしてみんなを助けるのよっ。」
 レシフェの決意に少しためらっていたジャガー神だったが、すぐに賛同を示した。
 「姫様が行くなら、オレも行きますニャ。」
 『私もですわよ、姫様の行く所なら地獄の果てでもお供しましょうっ。』
 アルカも賛同してくれた。2人の支援を受け、レシフェは再び走り出した。
 「ミスティーア姫、天鳳姫、スノウホワイト・・・それにエル、アル、リンリン、ラン
ラン・・・待ってて、今行きますわよっ!!」
 仲間の救出に奔走するレシフェ達。だが、その様子は全てデスガッドに知られている。
 自室のモニターに映るレシフェ達を、邪悪な笑いを浮べて見るデスガッド。
 「ククク・・・飛んで火に入る夏の虫とは貴様等の事だ・・・さあ来るが良い。仲間同
様、貴様等も魔法陣の餌食になるが良いっ。」
 デスガッドの邪悪な罠がレシフェ達を待ち構えている。だが、レシフェ達に後退は許さ
れなかった。
 そして、どのような罠も敵も、全て薙ぎ倒して前進する決意に燃えているレシフェ達で
あった。
 そして、遁走していたサイ魔人はホールの手前で立ち止まった。
 「ムフフ、そろそろ来る頃ですね〜。」
 ニヤリと笑ったサイ魔人が振り返る。その視線の先に、サイ魔人を追い駆けて来たレシ
フェが現れた。
 「さあ追い詰めましたわよバケモノめっ。覚悟なさいっ!!」
 魔道兵器の銃口が向けられる。だが、サイ魔人は両手を腰に当て、余裕の表情でふんぞ
り返っている。
 「フフ〜ン、覚悟するのはキミ達ですよ〜。ワタシはさっきの雑魚兵士とは違うのです、
そのオモチャで何処からでもかかってきなサイ!!」
 不敵な態度のサイ魔人に、レシフェは眼を吊り上げた。
 「随分と強気ね、手下を盾にして逃げ回っていた奴が偉そうな事をほざくんじゃありま
せんわっ!!」
 声を荒げるレシフェを見て、サイ魔人はフンと鼻先で笑った。
 「手下?あの兵士どもは、キミ達を罠に嵌めるための単なる囮にすぎませんよぉ〜。ど
ーせバーゼクス兵士など、使い捨ての道具ですからねぇ。」
 サイ魔人の言葉に驚愕するレシフェ。そして魔道兵器からアルカが更に驚くべき事をレ
シフェに告げた。
 『さっきの魔人兵士達は・・・元は人間だったのですよ。おそらく、デスガッドが何ら
かの力を使って普通の兵士を魔人に改造していたんですわっ。』
 「なんですって!?奴等は一体・・・」
 驚くべきデスガッド一味の実態を知り、レシフェは声を失った。人間を魔人に改造する
技術など魔界にはない。
 「と言う事は・・・」
 呟くレシフェの脳裏に悪夢の事実が過る。それはアルカの言葉で明確になった。
 『デスガッドの・・・奴等の正体は神族ですわっ。』
 「神族・・・」
 魔族であるレシフェ達は、最悪の相手を敵にしている事を知った。
 唖然とするレシフェ達を前に、サイ魔人が高笑う。
 「ぬはは〜っ、そのとーりですっ!!ワタシ達は神・・・映えある神族なのですよ〜っ!
!」
 サイ魔人の姿は余りにも凶悪・・・神を名乗るには程遠い。
 レシフェは声を上げて反論した。
 「神ですって?笑わせないで。どうせ神王の怒りに触れて人間界に追い出されたクズの
くせにっ。」
 図星の言葉に、サイ魔人の眉間がピクリと歪む。
 「クズですとお〜、言ってくれましたねぇ。ワタシがクズかどーか、自分の体で思い知
りなサーイッ!!」
 鼻面の巨大な角をかざし、サイ魔人が猛烈な勢いで突進する。
 「ぬお〜っ、串刺しにしてくれますよ〜っ!!」
 一直線に突っ込んで来る巨体に徹甲弾を御見舞いするレシフェ。だが、強靭な装甲が徹
甲弾を跳ね返した。
 「の、ノーダメージッ!?」
 「レシフェ様、危ないニャッ!!」
 間一髪、ジャガー神がレシフェを抱えて飛び退く。そのすぐ横を旋風と共に爆走してい
くサイ魔人。
 「ふんが〜っ!!」
 ドガアッ!!
 その勢いのまま、サイ魔人の巨体が壁に激突した。地響きが床を揺らし、天井からパラ
パラと埃が舞い落ちる。
 崩れ落ちた壁の中から、サイ魔人がユラリと立ち上がった。
 「ンフフ・・・ワタシの突進を交わすとは、さすがですね〜。でも逃げてばかりではワ
タシを倒せませんよ〜?」
 瓦礫を掻き分けて現れたサイ魔人が、身体の埃を払い落としてニヤリと笑った。
 徹甲弾の直撃した胸板にはキズ1つ付いていない。先程の魔人兵士達とは段違いに強い
のだ。
 「少しはやるようですわね・・・」
 再度銃口を構えるレシフェが、アルカに指示を仰ぐ。
 「アルカ、奴の弱点は!?」
 だが、アルカの声は弱々しい。
 『姫様・・・奴の装甲は余りにも強固です・・・外部からの攻撃は一切通用しないです
わ・・・』
 「そんな弱気な事をっ、どこかに装甲の弱い所が在る筈でしょうっ!?」
 『外部に装甲の弱い所は在りませんが、内部からなら破壊は可能です。それには体内に
通じる場所に攻撃しなければいけません。口や鼻・・・それか・・・お、お尻の穴に・・・
』
 「お、おしり・・・」
 アルカの返答にゲッソリするレシフェ。まさか肛門に炸裂弾を捻じ込む訳にもいくまい。
 「じゃあ攻撃は口に決定ね。ジャガー神、サポートをっ!!」
 「はいニャッ。」
 再度レシフェの背中を支えるジャガー神。
 レシフェは多重攻撃のため、数枚の魔力カードをスロットに挿し込んだ。
 「これでも食らいなさいっ!!」
 トリガーを引くと、魔道兵器から徹甲弾、溶解液、火炎放射が連続して繰り出され、全
てがサイ魔人に直撃した。
 「むお〜っ、なんのこれしきっ!!」
 凄まじい攻撃の全てを屈強な装甲で耐え凌ぐサイ魔人。
 筋肉の鎧に徹甲弾が弾かれ、溶解液の嵐は薙ぎ払われた。外部からの攻撃は、全て跳ね
返されているのだ。
 だがレシフェは攻撃の手を緩めなかった。全ての攻撃はサイ魔人の急所攻撃への布石に
過ぎない。
 そして、僅かに腕のガードを下げたサイ魔人を、レシフェは見逃さなかった。腕の隙間
から口が見えたのだ。
 「いまだわっ!!」
 満を持して、炸裂弾を発射した。
 「むおっ!?」
 驚くサイ魔人の眼前に、超高速で炸裂弾が迫るっ!!
 どうっ。
 直撃を受けたサイ魔人が真後ろに転倒した。だが、炸裂弾は爆発しない・・・
 「不発っ!?」
 驚愕するレシフェ。そして倒れていたサイ魔人が口に炸裂弾を咥えて起き上がった。
 「む〜、考えまひたね。ワタひの口に攻撃をするとふぁ・・・フンッ!!」
 強靭な歯で不発の炸裂弾を噛み砕き、バラバラになった破片をペッと吐いた。
 「なんて奴なの・・・」
 驚愕の声を上げるレシフェ。それはアルカとジャガー神も同様だ。
 『あれだけの攻撃を跳ね返すなんて・・・』
 「あいつ、不死身だニャッ。」
 だが、驚いている暇は無い。
 再度魔道兵器を向ける。だが、その時である。
 魔道兵器と一体化しているアルカの様子が急変した。
 『う、うう・・・姫様・・・ひめさ・・・』
 アルカの苦悶の声と共に、魔道兵器のジェネレーターが回転を止めた。様子がおかしい
のはジャガー神もだった。
 「ウニャアアア・・・力が抜けるニャア・・・」
 目を回したジャガー神が床に倒れた。そして・・・異変はレシフェにも及び始める。
 「こ、これは一体・・・ま、魔力が消えていくわ・・・」
 そう、レシフェやアルカ達の魔力が急速に奪われていったのだ。
 膝をつくレシフェの眼が、閉ざされたホールの扉に向けられる。ホールから、何か異様
な力が発せられているのだ。
 戦う力を失ったレシフェ達を見て、サイ魔人がニヤリと笑う。
 「むっふ〜。どうしたのですか〜、オモチャが使えなくなったみたいですね〜?」
 不敵なサイ魔人を見たレシフェは、恐るべき事実を実感していた。
 罠に嵌った・・・そう思ったが、すでに遅かった・・・
 「さあみなさんっ、出番ですよ〜。」
 サイ魔人の声と共に、周囲から大多数の魔人兵士達がワラワラと飛び出してくる。
 「ギヒヒ・・・」
 「ケケケ・・・」
 陰湿な声を上げながら魔人兵士達が包囲網を狭めてくる。もはや絶体絶命だ。
 完全に魔力が消えうせる前に、この場を脱出するしか手立ては無い。
 手をかざしたレシフェが、残った魔力を振り絞って魔界ゲートを出現させた。
 「ま、魔界ゲートオープンッ!!」
 空間に出現する魔界ゲート。だが、少ない魔力のため3人1度の脱出は無理だった。
 「くっ・・・こうなったら、アルカとジャガー神だけでも・・・」
 そう呟いたレシフェは、床に倒れているジャガー神と、魔道兵器に一体化しているアル
カを魔界ゲートへ無理やり押し込んだ。
 『姫様何をっ!?』
 「レシフェ様も早く逃げるニャッ!!」
 ゲートに引き込まれる2人が叫ぶ。だがレシフェは逃げなかった。
 「私に構わず早くリーリア様の元へ急ぎなさいっ!!この事を知らせるのよっ!!」
 『そんなっ!?いけません姫様ーっ!!』
 「ニャ〜ッ、レシフェさまーっ!!」
 空間が歪み、アルカ達の声を飲み込んで魔界ゲートは消滅した。そして後にはレシフェ
只1人残される。
 その様子を見たサイ魔人が、呆れた顔でゲラゲラ笑う。
 「はっは〜、とんだオバカさんですね〜?手下なんかほっとけばいいのに〜。」
 侮蔑の言葉に、レシフェは怒りを爆発させた。
 「兵士を道具にしか思っていないお前に言われる筋合いはありませんわっ!!その汚い
口を閉じてなさい筋肉バカッ!!」
 「ンフフ〜、生意気な口をきけるのも今のうちですよぉ。キミは袋のネズミ、どこにも
逃げられませ〜ん、ムハハッ!!」
 完全に取り囲まれたレシフェ・・・さすがにアマゾネス・プリンセスも、この状況には
顔色を失っている。
 狂気の魔人兵士相手にどう戦うか・・・?
 「キエエエーイッ!!」
 ジャンプした魔人兵士がレシフェに踊りかかるっ。
 「はあっ!!」
 バコオオンッ!!
 凄まじい轟音が響き、魔人兵士が天井に叩きつけられた。レシフェの強烈なアッパーカ
ットを食らったのだ。
 素手での戦いでは魔戦姫最強であるレシフェ。魔力を失っても戦闘に揺るぎは無い。
 天井に頭をめり込ませてブラブラ揺れている仲間を見て、魔人兵士達は思わずたじろい
だ。
 「ギイッ!?」
 後退しそうになる魔人兵士達に、サイ魔人の激が飛ぶ。
 「逃げたら許しませんよ〜。相手は1人、全員で押さえつけるのですっ!!」
 その声を受け、魔人兵士達は一斉にレシフェに襲いかかった。
 数人の魔人兵士がレシフェの前後左右から一斉に飛びつこうとした、その時。僅かに身
を屈めたレシフェの腕が、凄まじい超高速で薙いだ。
 「やあーっ!!」
 「ギエエッ!?」
 レシフェの掛け声一閃、魔人の身体が血飛沫をあげて吹っ飛ぶ。身構えるレシフェの手
には、魔狼族のナイフが握られていた。
 仲間を切れ味鋭いナイフに切り裂かれ、魔人達は後退するかに見えた。だが、仲間の生
死など気にも止めない魔人達が更なる攻撃を仕掛けて来た。
 そして迎え討つレシフェ。
 「やあっ、はあっ、たああーっ!!」
 迫る魔人達を次々血祭りに上げる。しかし魔人兵士は後から後から沸いて出るが如くレ
シフェに群がってくる。
 「き、きりがありませんわ・・・。」
 如何に戦闘に長けたレシフェでも、魔力無しで連続しての戦いには限界がある。
 その様子を傍観しているサイ魔人は、生死を無視した人海戦術によってレシフェが疲れ
るのを待っているのだった。
 「ムフフ・・・そろそろ体力が無くなってきた頃ですねぇ〜。」
 サイ魔人の言葉通り、レシフェの息は荒くなっている。
 「ハアハア・・・ま、負けませんわよ・・・」
 睨むレシフェだったが、手の動きは鈍り、膝がガタガタ震えている。
 そしてサイ魔人の目がキラリと光った。
 「では、フィニッシュと行きますか、どりゃ〜っ!!」
 身を屈めたサイ魔人が、凄まじい勢いで突進する。
 「う!?、ああっ!!」
 攻撃を避けようとしたが、遅かった。
 ドオウッ!!
 強烈なショルダー・タックルで、レシフェの身体が吹っ飛ばされる。
 「あうっ!?」
 床に倒れたレシフェに、凶悪な魔人兵士が群がってきた。
 「ギヒヒ〜、ツカマエタゼ〜。」
 「は、離しなさいっ!!この・・・」
 足掻くレシフェだったが、もはや逃れる術は皆無だった。
 あお向け状態で手足を押さえられたレシフェに、余裕で笑うサイ魔人が歩み寄る。
 「もう逃げられませんよ。さあ、観念しなサ〜イ。」
 「くっ・・・この筋肉バカめ・・・あうっ!?」
 不意にレシフェが苦悶の声を上げる。サイ魔人に腕を踏み付けられたのだ。
 「まだ抵抗するとは往生際の悪い。動けない様に手足の骨をヘシ折ってあげましょうか?
」
 「うああっ!!やめて・・・ああっ!!」
 動けない様に手足を折られる・・・レシフェにとって悪夢の責苦がもたらされようとし
た。が、レシフェの手から落ちたナイフを見て、サイ魔人は腕を折るのを止めた。
 「ほう〜、これはスバラシイ・・・魔族が造ったにしては良い出来ではありませんか。
ナイフはワタシが頂戴しましょう。」
 ナイフを拾い上げるサイ魔人に、レシフェは激しく声を上げて抵抗した。
 「それに触らないで筋肉バカッ!!お前みたいな奴が使える代物ではないのよっ!!」
 「フ〜ン?ワタシに使いこなせないとでも言いたいのですか。バカにしてもらっちゃ困
りますね〜。」
 サイ魔人はそう言うなり、レシフェの胸倉を掴んでドレスをナイフで引き裂き始める。
 強靭なる特別製の戦闘用ドレスも、切れ味鋭い魔狼族の業物には適わなかった。
 「ああっ、やめて・・・いやあーっ!!」
 悲鳴を上げるレシフェの胸元が露になり、手足を押さえている魔人達が歓喜の声をあげ
る。
 「キヒヒ〜ッ、キレイナオッパイダゼ〜。」
 「イ〜ヒッヒ、モミモミシテヤロウカ〜?」
 レシフェの乳房に手を伸ばそうとした魔人兵士の手首が、ナイフの一閃で切り落とされ
た。
 「アギャアアッ!?」
 「誰が勝手な事をしていいと言いましたか?この美しい女戦士はワタシが嬲るのです。
お前達下っ端には勿体無いでしょーが。」
 腕を押さえて泣き喚く魔人兵士に一瞥をくれたサイ魔人は、レシフェを捕まえている兵
士に命令を下した。
 「さあ、女戦士を魔法陣へ連行しなサイ。まもなく、ドクターが賢者の石を発動させま
す。」
 その声に、魔人達がレシフェを抱えてホールへと入って行く。
 「け、賢者の石ですって!?お前達は何をしようと・・・うあっ。」
 必死で抵抗するレシフェだったが、多数の兵士に手足を捕まれたままホールへと拉致さ
れていった。
 「離せっ、離しなさあいっ!!覚えてなさい筋肉バカッ!!必ず・・・お前達を地獄に
送ってあげますわっ!!」
 声を張り上げるレシフェだったが、叫び声が空しくその場に響くのみであった。
 レシフェが連行されるのを見届けたサイ魔人の後ろから、いつのまに現れたのか、デス
ガッドが声をかけてきた。
 「ようやく新手の奴も捕えたのだな。」
 「おおっ、これはドクター。敵の身柄確保に際しては少しばかり手間取りましたが、何
とか捕らえる事ができました〜。」
 「うむ、では賢者の石の発動を開始するとしよう。制御班に伝令だ、今より発動開始で
あるとな。」
 「了解であります〜。」
 敬礼したサイ魔人が、賢者の石の制御班の元へと走って行った。
 それを見届けたデスガッドの顔に、邪悪な笑いが浮かぶ。
 「フフフ・・・いよいよだ、我が造りし賢者の石が発動すれば・・・もう誰にも止めら
れなくなる。闇の魔王も、そして・・・光の神王も・・・全ての力を吸収する我が賢者の
石の前に適う者はおらぬわっ。」
 デスガッドの計画は遂に最終段階へ達しようとしていた。
 そうなれば・・・もう誰にも止める事は出来ない。危機は、すぐそこまで迫っているの
であった。






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