魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第一話12


   魔界の派閥闘争
ムーンライズ

 暗闇に消えていく魔王を見ていたミスティーアは、声も出せずに呆然としている。
 魔王が最後に言い残した言葉(我が愛しき妻リーリア)。これが彼女の心に引っ掛かっ
ていたのだ。
 確か、リーリアが(私の愛する夫)と言っていた事を思い出した。それが魔王の事だと
すれば・・・魔王とリーリアの関係とは一体・・・
 ミスティーアは尋ねようとして止めた。リーリアは答えてくれないと思ったからだ。
 等のリーリアは、アドニスの体を念力で搬送しながら、早急に人間界に戻ろうと足を速
めている。急いでいる訳は、間も無く夜が明ける事と、そしてもう1つある。
 「急いで帰りますよ。」
 早口でそう言ったリーリアは、ミスティーアを促して(至高の間)を出ようとした。
 その彼女等の前に、リーリアが急いでいるもう1つの理由が行く手を遮った。
 「待ちなさいリーリア、話は終わっていないわ。」
 行く手を遮ったのは、リーリアに難癖をつけてきたヴァルゼアとガロンの2人だ。
 「貴様の行動には目に余るものがある。貴様の存在は魔界の秩序を乱す元凶だっ。魔王
様が許しても、魔界鬼王たるこの俺が許さんっ!!」
 凄い剣幕で喚くガロンは、背中に背負ったナギナタを取り出してリーリアとミスティー
アに赤く光る刃を付きつけた。
 驚くミスティーアを庇い、リーリアがガロンの前に立った。
 「急いでいますの、そこを退いていただけますか?」
 ナギナタを突き付けられても、リーリアは一向に怯む様子はない。むしろガロンに対し
て威嚇ともとれる目付きで睨み返している。
 リーリアの態度に、ガロンは怒りを露にする。
 「ここからは1歩も通さんっ、うしろの小娘ごと貴様を叩っ切ってやるっ!!」
 目を釣り上げて喚くガロン。
 リーリアの後ろでは、ミスティーアが不安げに声を震わせている。今は一刻も早くアド
ニスを人間界に戻したいのに・・・
 「ああ・・・急いでるのに・・・」
 「ここは私に任せて、貴方はアドニス殿下の傍にいてください。」
 「は、はい。」
 返答したミスティーアは、床に横たわるアドニスの傍らに後退した。そして、再びリー
リアとガロンは対峙する。
 「・・・仕方ありませんね、退かないと言われるのでしたら、力ずくで通してもらいま
すっ。」
 魔界鬼王を前に、リーリアは身構えた
 「おもしろいっ、やってみるがいいっ。」
 怒り頂点のガロンがナギナタを振り翳した、その時である。
 「止めるんだガロン、君は魔王様の逆鱗に触れたいのか?」
 ガロンとヴァルゼアの後から、何者かが声をかけてきたのだ。
 2人が振り向くと、そこには3人の人影が立っている、それは10代、40代、70代
といった歳の違う3人組である。
 3人とも魔界八部衆のメンバーだ。
 ガロンを制したのはその中の40代の男だった。中世貴族風の高貴な服装を着こなし、
垂らした金髪を耳元でカールさせたその姿は、まさに容姿端麗な英国紳士といった様相だ。
 貴族の男を見たガロンが、呻くように男の名前を口にした。
 「貴様、サン・ジェルマンッ。」
 その男、サン・ジェルマンはガロンと正面から対峙する形で向き合った。
 「君の負けだガロン、早々に武器を収めたまえ。つまらん諍いで無駄な血を流すことも
あるまい、魔界鬼王ともあろうものが大人げないぞ。」
 サン・ジェルマンにたしなめられ、ガロンは渋々ナギナタを背中に戻した。
 「チッ、命拾いしたなリーリア。この勝負、ひとまず預けておくぞっ。」
 悔しそうにそう言うガロンに、サン・ジェルマンの横にいる少年が嫌味な口調で文句を
言う。
 「命拾いはあんただろ、負け惜しみ言うなよな。」
 その少年は魔界八部衆の1人で、名前は魔界童子ハルメイルと言う。
 見た目は悪戯好きの腕白坊主といった感じで、坊ちゃん刈の髪型をした、まん丸の顔に
はクリクリした目があり、無邪気な目でミスティーア達を見ている。
 そんな少年の姿を持つハルメイルだが、その実体は魔王直属の幹部の1人なのだ。
 その彼は、容姿に似合わず強力な念力の使い手で、あぐらをかいた姿勢で空中にフワフ
ワ浮いている。
 ハルメイルに嫌味を言われたガロンが、眉間にシワを寄せて言い返した。
 「負け惜しみだと?相変わらず口の減らんクソガキだ。」
 「ああっ?オイラのことクソガキって言ったな、このクソハゲッ!!」
 「誰がクソハゲだっ!!」
 「お前の事だよ、ばかハゲッ!!」
 罵声の応酬をしている2人の間に、1人の老人が割って入る。
 「あーコレコレ、2人とも仲良くせんか。八部衆が仲間割れしてどーする?」
 好々爺といった感じのこの老人も八部衆の1人で、魔界仙人黒竜翁と呼ばれる。
 黒の長い服を着ているその姿は、東洋の仙人の風貌をしており、いかにも人の良い好々
爺といった感じの黒竜翁は、白く長いアゴ髭を撫でながらホッホッホッと軽い笑い声を上
げている。
 そんな好々爺を、ガロンは口汚く罵った。
 「仲良くだと?世迷言をほざくのもいい加減にしろオイボレじじいっ。」
 そのガロンの言葉に、好々爺の顔が一変する。今までの温厚な顔が険しさを伴った鋭い
表情になったのだ。 
 「お主こそいい加減にしたらどうじゃ、文句があるならワシが相手になるぞ。」
 好々爺の仮面を外してガロンを見据える黒竜翁。
 「フン、オイボレとガキの相手なぞできるかっ。」
 忌々しそうに言い捨てると、ガロンは逃げる様にその場から去っていった。
 「ヘンッ、お前こそ一昨日来いってんだ、あほハゲッ。」
 アカンベーをして悪態をつくハルメイル。
 去っていくガロンを見ながら、黒竜翁は呆れた顔で溜息を付いた。
 「頭の固い奴じゃのお、ガロンは・・・それにハル坊こそ火に油を注いでどーするんじ
ゃい。」
 黒竜翁の顔は元の好々爺に戻っている。黒竜翁にたしなめられたハルメイルが、ペロッ
と舌を出して無邪気に笑う。
 「エヘへ、ゴメンねジッちゃん。」
 黒竜翁とハルメイルは祖父と孫の関係ではないが、互いに(ハル坊)(ジッちゃん)と
呼び合う間柄だった。
 また、サン・ジェルマンも彼等同様、親しい間柄であった。2人に同調するような事を
言う
 「ガロンの強情な性格こそ魔界の秩序を乱す元凶じゃないかね、まったく・・・で、君
はどうするんだいヴァルゼア。これでもまだリーリアに文句を言うつもりかい?」
 振り返るサン・ジェルマンの視線の先に、憮然とした顔のヴァルゼアが立っている。
 「文句があるのはリーリアだけじゃないわよサン・ジェルマン。あんたも黒竜翁やハル
メイルみたいにリーリアの味方になる気?私達と対立するなら受けて立つわよ。」
 ヴァルゼアに言われたサン・ジェルマンは、笑いながら両手を軽く上げた。
 「勘違いしないでほしいね、私はあくまで中立の立場さ。君達みたいに派閥を作って対
立なんて面倒な事はしたくないのさ。」
 「口では何とでも言えるわね、やさ男が。」
 不信感のこもった目でサン・ジェルマンを見ているヴァルゼア。
 そのヴァルゼアの背後から、リーリアが姿を見せた。
 「御三方が私達に味方される事がそんなに気に入らないのですか?御三方に文句を言わ
れる前に、人の揚げ足をとるような卑屈なご性格を改められたらどうなのですか?」
 リーリアの痛烈な批判がヴァルゼアに浴びせられた。その言葉に、魔界貴婦人は烈火の
如く怒る。
 「な、なんですってっ!?もう1度言ってみなさ・・・うっ!?」
 ヒステリックな声を上げようとしたヴァルゼアが、リーリアに睨まれて声を失う。
 魔界貴婦人を睨むリーリアの目は、眼前の敵を八裂きにする破壊獣の目であった。
 魔界貴婦人を見据えるリーリアの威圧感は、魔王のそれに勝るとも劣らない。ヴァルゼ
アが少しでも油断しようものなら、リーリアの眼光の凶牙が喉笛をかっさばくであろう。
 魔界八部衆の一員であるヴァルゼアをたじろがせる程の威圧感からして、リーリアが八
部衆に匹敵する、いや、それ以上の実力を持っていることが伺える。
 リーリアはヴァルゼアを睨みながら更に詰め寄った。
 「さあ、御返答をお聞かせ願えませんか。」
 「くっ・・・」
 リーリアに睨まれて思わずたじろいだヴァルゼアだったが、負けじと睨み返す。
 2人の間に、稲妻の如き凄まじい火花が散る。
 その有様を見ていたハルメイルと黒竜翁の2人が顔を見合わせて呟いた。
 「うわー、壮絶だね。」
 「まったくじゃ、げに恐ろしきは女の戦いぞ。」
 そして、激しい女の戦いを繰り広げるリーリアとヴァルゼアを傍観していたサン・ジェ
ルマンが仲裁に入る。
 「そこまでだ2人とも。魔王様は君達が戦う事を望んではいない。」
 サン・ジェルマンの(魔王様)の一言で、2人は速やかに身を引いた。魔王の怒りに対
する恐怖心は、激しい女の戦いを瞬時にして冷却させるほどの威力がある。
 水を挿されたヴァルゼアは、悔しそうに唇を噛んだ。
 「魔王様の御威光を盾にするなんて・・・相変わらず姑息だわねサン・ジェルマン・・・
あんたらしいわ。」
 「姑息で結構、私は魔王様の威を借るキツネさ。魔王様の御威光を盾にしなければ、君
達は本当に一戦交えかねなかったからね。それにリーリア、君はヴァルゼアとケンカして
いる場合ではないだろう。」
 その言葉を、リーリアは大人しく聞き入れた。
 「そうでしたわね、不毛な争いのためにここへ来たのではありませんでしたわ。」
 そう言いながらアドニスの傍らにいるミスティーアの元へと戻った。 
 「お、終わったんですか?」
 「ええ、用事は終わりましたわ。」
 温厚な表情に戻ったリーリアは、ミスティーアにニッコリと微笑んだ。
 立ち上がるミスティーアに手を貸すリーリア。
 その2人に、遺恨尽きぬヴァルゼアが憎々しい声を投げかける。
 「リーリア・・・このままで済むと思ったら大間違いよっ!!この借りは必ず返すわ・・
・人間のお前に魔王様を独占されてたまるものですかっ。魔王様の妃は私1人なのよ、覚
えておくがいいわっ!!」
 強い口調でそう言い放ったヴァルゼアは、リーリア達に背を向けて何処かへと去ってい
った。
 その姿を、リーリアは複雑な顔で見ている。
 「ええ、済まないでしょうね・・・私とヴァルゼアのどちらかが倒れるまで・・・この
戦いは終わりませんわ・・・・」
 不毛な戦いは今に始まった事ではないが、今日の事が、今後の展開に大きな影響を及ぼ
す事は必至であった。
 ヴァルゼアが去った後、魔界八部衆の3人は、ヤレヤレと言った顔で口を開いた。
 「ガロンも厄介じゃが、ヴァルゼアの性格はその上を行くわい。」
 「まったくだね、あのヒス女は歩く爆弾だよ。」
 「何にせよ、今後あの2人がリーリアや魔戦姫達に余計なちょっかいを出してこない事
を祈るしかないね。」
 口々にヴァルゼアやガロンの文句を言う3人に、リーリアが歩み寄って頭を下げた。
 「ありがとうございます御三方様。おかげで助かりましたわ。」
 リーリアの言葉に、3人は笑顔を見せた。
 「あ〜いやいや、礼には及ばんよ。」
 「君と魔戦姫は魔界にとって無くてはならない存在だからね、助けるのは当然さ。」
 「リリちゃんに何かあったらオイラ達困るもんねー。」
 「え、ええ。」
 リーリアの事を(リリちゃん)と呼んでいるハルメイル。彼は親しい者を愛称で呼ぶ癖
があるようだ。無論、嫌いな奴にはそれなりの愛称(悪称)で呼んでいるわけだが。
 リーリアと語り合う3人を、困惑した顔で見ているミスティーアに、3人組が歩み寄っ
て自己紹介を始める。
 「お主が今度新しい魔戦姫に選ばれたミスティーア姫じゃな?ワシは魔界仙人の黒竜翁
と言う者じゃ。見ての通り、頼りにならん年寄りじゃが、今後ともヨロシクの。」
 「オイラは魔界童子のハルメイルって言うんだ。ミスティーア姫の事、ミーちゃんって
呼んでいいかな?オイラの事はハル坊って呼んでいいよ。」
 最後に自己紹介するサン・ジェルマンが、恭しく淑女への一礼をすると、ミスティーア
の手を取り、手の甲にキスをした。
 「初めましてミスティーア姫、私の名はサン・ジェルマン。この世界では魔界伯爵など
と呼ばれているけどね。」
 温厚な笑顔を見せる魔界伯爵サン・ジェルマン。
 「は、はい。こ、こちらこそよろしくお願いします・・・」
 曖昧な口調で返答するミスティーア。
 その優しく気高い表情には、魔界の幹部としての印象は全く無い。魔界八部衆の肩書き
が無ければ、人間界の誰もが・・・たとえ神都の法王であっても、彼を高貴な貴族として
見とめるであろう。
 いや、サン・ジェルマンだけではない。好々爺として振舞う黒竜翁や、無邪気な笑顔で
ミスティーアを(ミーちゃん)と呼ぶハルメイルも、魔族としての印象は全く無い。
 先程のガロンやヴァルゼアはいざ知らず、ここまで好印象の3人を見ていると、(闇の
者)である事すら忘れてしまいそうだった。
 魔戦姫達の涙を見た時同様、自身の固定観念を覆す事実に翻弄され、ミスティーアは、
ただ呆然と自己紹介する3人を見ていた。
 「あ、あのー・・・私何を言っていいのか・・・その・・・助けていただいてありがと
うございます・・・」
 ミスティーアには、ガロンとヴァルゼアから守ってくれた事を彼等に感謝する事しか出
来なかった。
 頭を下げるミスティーアの手を3人組は優しく握り、今後の協力を惜しまない事を告げ
た。
 「ガロンとヴァルゼアの事なら気にするでないぞ。あの2人が文句を言うならワシが懲
らしめてやるわい。」
 「あいつ等がミーちゃんの事イジメに来たら、オイラがミーちゃんを守ってあげるよ。」
 「何か困った事があれば遠慮無く私に相談したまえ、いつでも力になるからね。」
 3人の声は、ミスティーアに希望と安らぎをもたらす。
 顔に喜びを浮べ、ミスティーアは快く返答した。
 「はいっ、嬉しいです。皆さんに励まして頂けて・・・」
 「そう、それはよかった。」
 ニコニコ愛想良く笑うサン・ジェルマンを見ながら、ハルメイルはイジワルな目で口を
挟んだ。
 「ミーちゃん、伯爵の口説き文句には気を付けなよ。この人は魔界一のスケコマシなん
だぜ。」
 「おいおい、人聞きの悪い事言わないでくれハル坊。ミスティーア姫が本気にしたらど
ーするんだ。」
 「なーにを言っとるか伯爵殿、この前も若い侍女がお主に泣かされておったではないか。
あれで確か・・・何人目だったかのぉ?」
 黒竜翁にまで(女たらし)の事実を暴露されてうろたえるサン・ジェルマン。
 「もう、黒竜翁殿まで・・・せっかくミスティーア姫に好印象を持ってもらおうと思っ
てたのに、全部台無しだよ。」
 一同から笑い声が上がる。
 困った顔で頭を掻いている魔界伯爵を見て、ミスティーアは思わず笑ってしまった。
 「ウフッ・・・面白い方なんですね、伯爵様って。」
 「う〜ん、私はすっかりお笑いキャラになってしまったなあ・・・でもスケコマシって
言うのはウソだよ、い、いや本当に。」
 「ウフフ・・・」
 ミスティーアには疑いや嫌悪などの感情は一切なく、彼等の優しさを柔軟に受け入れる
事が出来た。
 全てを奪われた彼女だからこそ、闇にある本来の(優しさ)を理解できたのだ。
 笑顔を見せるミスティーアを無言で見ながら、リーリアは安心した様に微笑んでいる。
 ミスティーアには強い味方が出来た。彼女は自分や他の魔戦姫達同様、優しく見守って
くれる味方を得たのだ。もう安心だ・・・
 そんな安堵の笑顔であった。
 1人たたずむリーリアに、黒竜翁が声をかけてきた。
 「ところで、リーリアや。天鳳姫は元気でやっとるかの?」
 「はい、彼女はとっても元気ですわ、彼女の働きで、いつも私達は助けられております
のよ。」
 リーリアの返答に、黒竜翁は満足そうに頷いた。
 「ホッホッホッ、それは良かった。あやつは我が不肖の弟子ゆえ、お主に迷惑をかけて
いないか心配しておったのじゃ。元気でなにより、良きかな、良きかな・・・」
 黒竜翁は猛毒の天女、天鳳姫の師匠である。
 彼女が妙におどけた口調で喋るのも、師である黒竜翁の影響があっての事だった。
 天鳳姫だけではなく、魔戦姫のメンバー全員が何らかの形で、彼女等に力添えする魔界
の者の良心的な面でのサポートを受けている。
 そして・・・魔戦姫の長であるリーリアを最も助けているのは・・・誰あろう、魔界の
支配者である闇の魔王であった。
 「では黒竜翁様、夜明けが迫っておりますので、失礼させて頂きますわ。今回は真にあ
りがとうございます。」
 頭を下げるリーリアの前に、サン・ジェルマンとハルメイルも姿を見せた。
 「オイラの事、みんなにヨロシク言っといてよ。あ、スノウホワイトにもね。」
 「ええ、判りましたわ。」
 ハルメイルから、魔戦姫達と、彼が懇意にしているスノウホワイト充ての伝言を受け取
ったリーリアは、ミスティーアの手を取り、アドニスを念力で浮かばせて人間界への帰途
に向かう。
 (至高の間)を出るミスティーアに、サン・ジェルマンは手を振った。
 「ミスティーア姫、また会えるのを楽しみにしているよ。」
 「はい、私もですわ伯爵様。またお会いしましょう。」
 手を振り返すミスティーア。
 3人組に別れを告げ、リーリア達は魔城の外へと出ていった。
 警備兵やケルベルロスに見送られた彼女等は、魔界のゲートへと歩んで行く。そのリー
リア達を、魔城の上部に登った先程の3人が見つめている。
 ボンヤリとミスティーアを見ていたハルメイルが、黒竜翁に声をかけた。
 「ねえ、ジッちゃん。なんで魔王様はミスティーアとアドニス兄さんを助けたのかな?」
 ハルメイルの質問に、黒竜翁は難しい顔をしながら答えた。
 「うむ・・・魔王様はミスティーア姫の優しい面影に、かつてのリーリアの面影を見ら
れたのじゃろう。あの子の目は・・・昔のリーリアの目に似ておった。魔王様が・・・ミ
スティーア姫と同じ境遇を抱えておったリーリアを愛され、御直々に闇の者へと生まれ変
わらせたのは、もうずっと前の事じゃがのう。。」
 過去の事を思い出しながら、黒竜翁はそう呟いた。
 「ミーちゃんはリーリアに似てたのか・・・優しくて、悲しい目だったね、ミーちゃん
の目・・・」
 「悲しい目じゃ・・・魔戦姫、なんと悲しき宿命を背負った者達よのう・・・」
 黒竜翁とハルメイルの脳裏には、ミスティーアの優しき笑顔が浮かんでいた。
 そして、2人の横にいるサン・ジェルマンは、去っていくリーリアとミスティーアを見
ながら呟いた。
 「君達の活躍には期待しているよ・・・魔界と人間界の未来のためにね。」
 魔界伯爵の目は、ずっと遠く・・・魔界と人間界の未来を見ていた。
 悠久の時間を生き、時の流れを見通す能力を持つ彼が、未来に何を見たのかは定かでは
ない。
 魔王ですら知りえぬ未来の事実は、彼の心の中に封印されたのであった。




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