『魔戦姫伝説』


 魔戦姫伝説〜鬘物「ふぶき」より〜第1幕.15
恋思川 幹

 了慶は土地の人間ならば、あの荒れ寺についてなにがしかのことを知っているのではな
いかと考えた。
 了慶が山道を麓へ向かって歩いていくと、野良仕事へ行くのであろう老人が通りかかっ
た。
「おや、このようなところに人がおるとは珍しきこと。旅のお坊様でございましょうか?」
 了慶に気付いた老人が声をかけてくる。
「はい、私は諸国一見の僧にて名を了慶と申します。昨夜はこれより程近き荒れ寺にて夜
を明かしました」
「なんと、あの荒れ寺で一夜を過ごされたのでございますか? さては名高きお坊様でご
ざいましょうか」
 老人は驚き、了慶に崇敬の眼差しをむける。
「さほどに崇められる程の者ではございませぬ。されど、そのように言われるは、やはり
何やら謂れのある寺のようなれば、お話をお聞かせ願いたく存じまする」
「あの荒れ寺の由緒、縁起は詳らかではありませぬが、荒れ寺と化したのはわしがまだ、
子どもであった時分でありますから、覚えていることもございます。それでよろしければ、
お話いたしましょう」
 そう言うと老人は近くにあった岩に腰掛けた。
「あれはわしがまだ子どもであった時分のことでございます。
 あの寺が何者かに襲撃され、わずかな生き残りをのぞいて、皆殺しにされたのでござい
ます。
生き残ったのはまだ幼い稚児が数人ばかりでございました。その稚児たちは申しました。
姫武将ふぶきさまの怨霊があらわれて、寺の者たちを殺しつくしたのだと。
 わしらはいぶかしみました。あの寺は北大路さまと平居さまの戦で討ち死になされた姫
武将ふぶきさまの首を平居さまから取り戻した手柄により、寺領を安堵されて北大路様に
従属したと聞かされていたからにございます。
 されど、北大路のご当主であられた頼基さまとふぶきさまの不仲はひろく知られており
ましたので、おそらくは寺と頼基さまが共に謀り、ふぶきさまを謀殺したのだろうと、こ
の土地のものは考えました。それゆえにふぶきさまは怨霊となってあらわれたのだと人々
は噂しました。
 そうこうするうちに、今度は頼基さまがお亡くなりなられ、いよいよ噂は信憑性を増し
ましたが、今となっては真偽の程はわかりませぬ。
 ただ、あの寺は再興する者もなく、土地の者も姫武将さまの怨霊を恐れて近寄りません
でしたので、荒れるに任され、今の有様なのでございます」
 老人は語り終えると、このようなお話でよろしかったでしょうかと訊ねた。
「お話いただき、まことにありがたきこと。どうやら私が昨夜出会ったのは、その姫武将
の怨霊であったのでありましょう」
「なんと! 姫武将さまの怨霊に逢われたと?」
 驚愕する老人に対して、了慶は昨夜の女性の話をしてみせた。
「やはりそうでございましたか。それはまごうことなき、姫武将さまの怨霊に違いありま
ぬ。私からもお願いいたします。どうか、姫武将さまの御魂を弔ってやってくださいませ」




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