魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第49話 最終回
Simon


小さな手のひらに、包み込めるほどの小さな――

全ての怨念を吐き出したとき――残ったのは、ほんの小さな欠片だった

――見えないけれど、確かにここにいる

ふるえるような――泣きそうな――でも、どこか眠たそうな気配


「リンス様――この者に祝福を」

「うん」


それが、月兎たるリンスの――聖地に否定された、彼女だけの――顕力


「――だいじょうぶだよ――みんな、まってるから――」

――ユルシテクレルノ?――オコッテナイノ?

「――おこってないよー」

――アンナニコロシタノニ?――イタカッタデショ?

「いたかったけど――」

う〜ん、と、可愛らしく小首を傾げる

「でも、もうへいきだから――ユウナがいれば、いたいのもみんな、すぐなおっ
ちゃうの」

――ふしぎだよねー

そう微笑んでくれる少女――暖かかった――泣きたくなるほどに


――イッショニイタイ


「うん、いいよ――――さ、おいで」

欠片を、そっと抱きしめる――瞳を閉じて――聖女の微笑



『――アニ・ウルム・モクタビ・マニ――』
――溶けていく――優しさに――


『――アト・タウル・センテ・アイシャビ――』
――わすれてもいいよ――わすれないでね――


『――マネ・クビハイ・サラメ・ビガギ・ラバテラ――』
――閉ざされた輪に――らせんの祈り――


『――モクテ・アシラ・ダンテラ・シレイ――』
――失われた光の道――今――


『――サンラ・チト・インラ・ドラネ・ラマラ――』
――アリガトウ――歓喜の唄――



――神代の国の――子守唄――



――フワアァァァァァァァァ…………………………――


――リンスから放たれる白い光――眩しいのに、やさしい――

――全てを包み込んで――広がる――消えていく――なにもかも――

――涙――アリガトウ――溶けて――今だけは一つ――

――だから分かる――イタイ――クルシイ――オナジ――

――なのに――なんでこんなに――ヤサシイノ?――

――ああ――もう消えていく――

――愛してくれてありがとう――愛しています――あなたを――


――あなたに――幸を――――――










――サワサワサワ――

「――――いっちゃった――」

ぽつんと、そうつぶやいて――

さっきまでと同じ場所――でも、さっきまでとは違う場所
血が流れたことも――何もかもが、忘れ去られ

ただ木々が、風にそよぐだけ――

「あのね――さいごに、あたしのこと、すきだって」

――えへ…

そう微笑んで――零れる涙――

「――あんなに…いたくて、くるしかったのに――」

そっと、胸に抱きしめて――

「――やさしいひとだったよ――きれいで――だから――」

えぐえぐと、しゃくりあげる

「――大丈夫です――私たちは忘れませんから」

伝わってくる暖かさ――心音――リンス様――私のも伝わりますか?

「――うん」

頬を胸にすり寄せて――

「うん――もうだいじょうぶ、だから――」

「ええ――参りましょう」


――極微と劫の交わる――無限の果へ


――私たちの旅は、続いていく



            fin


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