魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第28話 
Simon


あの後――

バケモノと死体の始末は宿の者に任せて、俺たちは小娘を連れてレナンドを離れ
た

あんなのが護衛に付くようなお姫様だ――ぐずぐずしてると本気で近衛騎士団を
相手にしなくちゃならなくなる

ここだったら、騎士団の一支隊ぐらいなら、十分に渡り合えるし、なによりロー
デシアの国境の外――ヴィーバー王国の眼と鼻の先だ
どこの国であれ、下手に騎士団を動かせば、侵攻と見なされて国際問題だ

だが、今はそんなことより――



「――やだ……ユウナ……こわい…よ…」

薬物のせいで不安定になっているところに、相当なショックを受けたためだろう
かなり退行してしまっている

元々は精神を壊すことなく性技を仕込んで、愛玩奴隷に仕上げるつもりだった
貴族のお嬢様なら――加えてこの容姿だ、ルートを選べばどれほどの値が付くか
想像も付かない
その目算があったからこそ、頭だって、ここを使うことを許したはずだ

――それを!

「とち狂いやがって、この馬鹿が!」

ラムズは苛立たしげにヴィンを蹴り飛ばした
とっさに受身をとったせいで、かえって肩を抉ったのだろう
声もなく悶絶している

「薬を抜いてぇ、宥めすかして――なんて悠長な真似、やってられると思ってん
のか!」

先に侍女を堕としてしまえば、こんなガキ、どうにでも丸め込めると踏んでいた
それが、レナンドではあの有様だ
外には漏れなかったはずだが、顔役たちには遅かれ早かれ報告が行く
組織の息が掛かっているとは言え、あの宿は同時に華街の傘下でもあるのだ
当分、あそこを仕事に使うことはできないだろう

なぜあそこまでやってしまったのか――自分でも理解できない衝動に突き動かさ
れて
やり場のない苛立ちがつのる
積んできた実績があるし、玉も片方は押さえていたから、一方的に吊し上げられ
ることはなかったが、ガッシュの自分を見る目はかなりの冷気を含んでいた

「このヤマじゃ、7人が死んでるんだよ! 手前が8人目になるかぁ!」

八つ当たりだと分かっているが、それでも当たらずにはいられなかった

――こいつの! こいつのせいで!

涙と涎と鼻水で顔をグシャグシャにしているヴィンを、寄って集って蹴りまくる

「ずびまぜん……も…お…許ひて……」
「オラオラァ――」
「小娘泣かして、なに粋がってんだよぉ!」

――チッ こんなヤツ相手にしてたら、こっちまで腐っちまうぜ


               ――なら、さっさと絞めちゃいなさいな


「もういい――ヴィン、落とし前はつけてもらうぜ」

ガタガタと震えながら逃げ道を探すが、そんなものがあるわけがない


       ――ただ殺すんじゃなくて……ね?


「ふん、そうだな――元々手前が蒔いた種だ 最後に役に立ってもらおうか――
おい、お姫様をこっち連れてきな」

突然目の前で繰り広げられた暴行に、目を見開いていたリンス
顔中痣だらけで泣き叫ぶヴィンの姿は相当強烈だったのか、すっかり血の気が引
いている

「リンスちゃん、キミに悪いことしたお兄さんは、今すぐナイナイしちゃうから
ね〜♪」

――ゲラゲラ
――うひゃひゃ
――ラムズさん、アブナすぎ〜

「や――許してくれ!――あ……ギャァァァ!!」

――ドシュッ!――ブシュゥゥゥゥゥ!!

「ヒッ――イヤァァァァ――ユウナっ ユウナ――たすけてぇ!」

――はは、はっはっは!!
――ぎゃはははは!
――ゲラゲラゲラ


      ――キャハハハハハハハハ あんたも堕ちちゃえばいいのよ!


「さぁリンスちゃん――これから特別メニューで、たっぷりと可愛がってやるぜ」


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