魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第27話 
Simon

  ――まぁ恐い 恐ろしくって、手が滑りそう

       ――クスクスクス


――畜生! 俺は何やってんだ――こんなところ、一分一秒だって耐えられるも
んか!――それなのに――

恐怖に雁字搦めにされているというのに、その中で右手だけが、嬲るようにリン
スの首の上で踊る

――ミチミチ……ブシュッ!……ギ…シ……

鮮血を撒き散らしながら、「そいつ」の筋肉が膨れ上がる

――俺の手が、勝手に「そいつ」の逆鱗を掻き毟っている――次にあいつが動い
たとき――間違いなく、俺は死ぬ!

――やめてくれ これ以上挑発したら――コワイ コワイ ニゲラレナイ ママ
 キガクルウ


      ――大丈夫よ だってあのバケモノは、もうなにもできないもの


――……何?

動けないラムズ――動かないバケモノ――叩きつけられる鬼気に、気が遠くなる

「――それでも、俺には、手を出せない――ってか?」

――ピクッ

「おっと、待て!――喉笛かっ切るぞ!」

膝がガクガクと笑ってる――言葉尻だって震えて――歯、歯の根が合わない

――畜生! 今になって、手の感覚が戻ってきやがった

ナイフの刃が、少しでもリンスの首から離れれば――その瞬間に、このバケモノ
は俺を殺す

もし、毛一筋ほどでも傷をつければ――そのときも、やっぱり俺を殺す――コイ
ツの眼がそう言ってる

意識した途端に吹き出した汗で、ナイフの柄が滑る

――付き合ってられるかっ 馬鹿野郎!

「――何やってんだ、手前ら! 今ならそいつは木偶だっ!」

弾かれたように、残った男たちが獲物を構えなおした

「――う……おおおおっ!!!」

――――ズ……ヌプッ!

やけくそで突き出したナイフは、あっさりと根元までバケモノの腹に飲み込まれ
た

――ゴフッ

「――え? あ…あれ?」

「どっ!――どりゃあっ!」
「うああぁぁ!!」

――ズカッ!――ズシュッ!――――ズドッ!

――ゴボゴボッ――ゴ…ホッ



――リ……ン……ス……さ……ま……



脇腹と背中からナイフを生やしたまま――大量の血を吐きながら――ユウナはゆ
っくりと倒れていった


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