魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


第2話 琥珀の風 part11
Simon


―― 一月ほど前 ミスランの王――ドラクシャ陛下が亡くなられました
まだ50歳の壮年であり、健康状態にも特に問題はなかったといいますが、突然
倒れた後、意識を取り戻すことのないまま、2日後に亡くなられたそうです
――国王は王制復古を叫んだために、謀殺されたのという噂もありましたが……


「――それって、やっぱり…」
「今となっては、真相を明かしても意味のないことでしょう」


幸い……と言うべきなのか――ミスランの場合、国政の中枢を担うのは貴族議会
で、ドラクシャ王は――悪く言えば飾りだったようですから
近隣諸国への通達、国民への告示、国葬に至るまで、つつがなく行われたそうで
す
また2年前、第一王女であるアリーシャ姫が太子として推挙されていましたから、
喪が明け次第、女王として即位することになるそうです


ユウナが入れてくれたミスランのお茶に息を吹きかけながら――話に夢中になっ
ていて、気がついたらすっかり冷めていたのだけれど


それから――心労から、アリーシャ王女が体調を崩され、療養のため亡き父王の
俤の色濃く残る王宮を離れ、貴族議員のファズ=ラーナンダ卿の屋敷に移られた
そうです――半月前のことです
喪が明ければ、ラーナンダ卿は内大臣として姫の後見に就くのだそうです
そして時節を選んで、婚姻の儀を行うのでしょうね――





長いお話が終わって
ユウナがお茶のお替りを入れてくれる

「じゃあ――アリーシャひめが、ユーディのごしゅじんさまなの?」

「おそらく、間違いないと思われます――ですが…」

ユウナが珍しく、少し困ったような顔をしている

「貴族議員であるファズ=ラーナンダ――彼にはほとんど悪い噂を聞かないんで
す」

「? でもユーディは――」

「商人であり貴族でもある――その面で彼を中傷する声も、ないではないんです
が――概ね、好意的な評が多かったです」

だからこそ、アリーシャ姫のお相手にも選ばれたんでしょうし

「きのせい……だったのかなぁ」

あたしも自信がなくなってくる
お屋敷を移って、大変だというのもあるだろうし―― 一昨日、昨日と来てくれ
なかったのも、本当に仕事が忙しかったのかもしれない

「この街で、何かが起こっているのは確かだと思います――現に私たちがここに
いるのですから」

「やっぱりまだ、はなれるきには、ならない?」

「はい――リンス様も……ですね」

二人して、溜息をつく

「まだ夜明けまで、間があります――少しお休みになられてはいかがですか?」

――ずっと起きてらっしゃったのでしょう?

「え! しってた…の?」

どうして? 完璧な寝たふりだったと思ったのに

「いいえ、分かりませんでしたよ」

クスクス笑いながら――あたしを優しくベッドに

「――でも私のリンス様は、そういう時、絶対に私を待っていてくださるんです」

――バフッ

あたしは、頭からシーツを被って――真っ赤になった顔を隠した

「今夜は、もう出かけません――ずっと、ここに居ますよ」

――ですから、おやすみなさい

あたしは、そっとベッドの中から、右手を伸ばした――

――――きゅ…

優しい手――暖かい―― 一番大好きな手

「…………いい?」

「もちろんです――子守唄も、お付けしましょうか?」

いじわる――だけど、顔が見えない今なら――

「……おねがい」

「それでは――」



――ユーディ――また…遊びに来てくれるよね……





泣いているユーディが、そこにいたような……気がし…た…


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