魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


第2話 琥珀の風 part7
Simon



豪奢な寝台――華美に走らず、あくまでも上品に

投げ出された肢体――造形の神に愛された――
それを、誇らしく思っていたのだ――――なんて愚かなアタシ

虚ろな瞳――かつては、夜の海の輝きを秘めて

微かに開いた唇――今は、生気を感じさせない

羽のように広がった長い黒髪――美しい人形の様に


恐る恐る――二の腕に触れてみる

鼓動――暖かい――命

そうだ――あの男が、そんな不手際をするはずがないのだ
愉しむと決めた物が、勝手に死に逃げるなど――許すはずがなかった

でも――――それでも嬉しい

「――アリーシャ様」

耳元で、囁くように
驚かせてはいけない――ゆっくりと手繰り寄せて――

「アリーシャ様――ユーデリカです」

――悪夢は終わったんです――戻ってきても大丈夫です

主を置いて、逃げ出して――安全になってから、のこのこと帰ってくる…卑怯者
――
それがアタシ――

「……リ…カ…?」

「はい、アリーシャ様――もう起きても大丈夫です」

あのときに――こうするって決めたのだ……二人で

「――あぁ……ユーデリカ――ユーディ」

優しい微笑み――アリーシャ様…!
高ぶる気持ちを抑えて、起き上がろうとする主の背中を支える

立ちこめる甘い匂い――かつての、花のような香りではなく――内側から滲み出
すような、誇惑的な……

自分の手の届かないところで、この人が――変えられていく――

「――おはよう、ユーディ」

「おはようございます、アリーシャ様」

そう――アレは全て夢の中のこと

「今日は友達と遊林園に行って来たんですよ」

「遊林園? いいわね――わたくしも行ければよかったのに」

ほんの少し拗ねたように――こんなときは、アリーシャ様がとても可愛らしく見
える

「――ユーディのお友達って、どんな人なのかしら?」

――ズキッ

「――先日……波止場で会った、外国の女の方たちなんです」

「ひどいわユーディ、もっと早く教えてくれればいいのに」

――お伝えしました――昨日も――その前も!

「申し訳ありません――アリーシャ様が、お疲れのご様子だったので――」

「いいのよ――それで、どんな方なの?」

「お一人は、ユウナさんと仰って、金の髪をされたとても奇麗な方で――もう一
人は――」

――ズキ…ン

ココロが軋む

茶番――全てはファズの掌の上
それでもアタシは、アリーシャ様のままでいて欲しいから――

ココロが痛い――

最後に、お腹の底から笑ったのは、いつのことだろう

――リンスちゃん

巻き込んではいけないのに、縋り付いてしまう――浅ましい自分に反吐が出る

アリーシャ様の前でワラう――アタシは……本当に笑えているの?

「――それで3人で屋台の巻肉を? いいわね――私たちも、昔…一緒に食べた
わね」

「春花祭の時でした――お忍びで」

「お父様には叱られたけど、お祭りの前の日の夜から、絶対に行くって決めてた
のよ」

狂った親鳥のように――ただひたすらに、外の風を運んでくる

ゆっくりと壊れていくアリーシャ様の苦しみを――長引かせるために

一番、狂っているのはアタシだ――だからファズはアタシを止めない

――哂いながら、ただ見ているんだ――










「おはよう、ユーディ――? なんか、ねむそうね」

「う〜ン、ばれた? 実は夕べ、ちょっと―……夜更かししちゃったノ」

「いいなぁ あたしが、よふかししようとすると、ユウナってこわいめをするの
よ」

「リンス様?――何か仰いましたか?」

「お、おはようございますユウナさん!」

ぷるぷると頭を振るリンスちゃんと、気をつけの姿勢をとるアタシ

今日も二人に合わせてワラう――






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