魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


第2話 琥珀の風 part5
Simon


――それにしても

「――うン、その帽子、よく似合ってるヨ」

とっても可愛い♪

「そ、そうかな?」

俯いたリンスちゃんの頬が、見事に赤くなっている
普通、サリーに帽子は合わないものなんだけど、なんでリンスちゃんにはこんな
に似合うんだろう?

白い肌のせいかな?――銀色の髪のせい?――それともこの、菫色の――

「う〜、 そんなにみないでっ」

後ろ向きで歩きながら、つい覗き込んでしまった――だって、こんなに奇麗な瞳
って、初めてだったから

パタパタと、ユウナさんの後ろに逃げ込んで――

リンスちゃんってアタシよりも少し年上だと思うんだけど――もしかしたら、違
うのかな?

ユウナさんもクスクス笑ってる

こっちは――すごく奇麗

外国の人なのに、サリーがすごくよく似合ってる

凛としてて――こんな人が傍にいるなんて、それだけでスゴイと思う
すれ違う人が皆振返って――それでいて、誰もコナを掛けて来ないんだから、半
端じゃないよね


――なんだか、神様みたい


「ねぇユーデリカ、薄荷水はいらない?」

干し無花果もあるのよ?

「アハッ、ありがと!」

薄荷水も無花果も美味しくって――



――やっぱり神様は、こんなに――優しくないよ……ね





「――遊林園?」

「そう――小さな池があって、その周りに木がいっぱい植えてあってネ――芝生
の上を裸足で歩くと、すっごく気持ちいいんだヨ」

それに東屋で食べると、ご飯がとっても美味しいの

リンスちゃんは、素直に感心してたけど、ユウナさんは――アタシが視線をバス
ケットに走らせたのに気がついたのかも……

わかってますよ――っていう笑顔を浮かべている

チラッと見ただけなのに――やっぱり、あのとき助けたのは、お節介だったんじ
ゃないかなぁ

心から感謝してくれてるのが伝わってくるから、逆に不思議になってしまう



「あっ みえた!――あそこがそう?」

「うン――よし、リンスちゃん、二人で競走しようカ!」

「いいよ!――じゃぁ、ユウナ、いってくるね!」

だってユウナさんが入ったら――勝負にならないもん

いってらっしゃい――ユウナさんが手を振ってくれるのを合図に、二人して走り
出す



やっぱり、リンスちゃんよりはアタシの方が速かったけど
そんなことに関係なく、一緒に走ることが楽しかった










館が近づくに連れて――


心が重くなるのに――足が速くなる
帰りたくないのか――帰りたいのか

アタシにも、もう分からなくなっちゃった


高い塀――大きな門扉

――誰も、ここからは逃げられないんだ

門の脇の小さな勝手口から、滑り込むようにして入り込む
誰にも会いたくないから――――会いたくなかったのに……

「――よう! 遅かったじゃないカ」

「――――ただいま……戻りましタ」

「いいのかイ? あっちをほっぽっといてサ」


唇を噛んでやり過ごす


ここからのアタシが――本当のユーデリカ

リンスちゃんには見せられない――醜くて、最低の――

だけど――逃げない……そう決めたから



「ただいま戻りました――旦那様」

「……ユーデリカ――今日はずいぶんゆっくりだったネ」

アタシは膝をつき――恭しく頭を垂れた



アタシの敵――ファズ=ラーナンダに向かって!



次のページへ BACK
前のページへ