魔戦姫伝説(スノウホワイト・白哀の魔戦姫)


  第3話 無慈悲なる襲撃者
ムーンライズ

 バーゼンブルグの街が眠りにつく頃、黒い森の中を、邪悪な一群が進んでいた。
 黒い森に潜む獣達は、突然の凶悪な気配に驚き、次々逃げ惑う。獰猛な狼や熊ですら、
余りの恐ろしさに尾を巻いて逃げ出すほどだ。
 その一群の正体は・・・国籍を持たないヤクザ者で構成された傭兵部隊であった。
 彼等は戦乱ある所なら何処へでも赴き、地獄の餓鬼さながらに、あらゆるものを貪り食
う凶悪な連中だ。
 彼等に秩序や礼節などない。ただ本能の赴くまま、ケダモノよりも獰猛に獲物を襲う。
 彼等の向う先は・・・平穏に眠るバーゼンブルグの街だった!!
 黒い鎧で身を固め、銃などで武装した一群の中に、1人だけ高級な衣装を着た貴族風の
男が混じっていた。
 細身で背の高いその男は、立派な口ひげを手で摩りながら、傭兵部隊のボスに声をかけ
た。
 「間もなくバーゼンブルグです。あの街は兵士などいませんから、今回の襲撃は楽です
ね。」
 それを聞いた傭兵のボスは、少し不満げな顔で返答した。
 「歯向かう奴がいねぇンですかい?そいつは面白くねえ。女子供を守る野郎を半殺しに
して、そいつの前で女どもを嬲る。これこそが最高に面白いんでさぁ。腰抜けの女房を犯
っても優越感が味わえねえッすよ。」
 まるで黒ブタがそのまま人間になったかのような、下劣で暴虐な面構えのボス。
 ツルツルのハゲ頭に無数の傷跡、それが凶悪さに泊をつけている。
 肥え太った黒い肉体に、おぞましいまでの欲望が漲っており、(黒いブタ男)のあだ名
が余りにも似合いそうな奴だ。
 そして応対している貴族風の男も、口調は丁寧だが、(人間の良心)という感情を一切
感じる事ができない。
 ストレートに言えば、(無情、邪悪、狡猾、残忍、冷酷)こう言う雰囲気しか醸し出し
ていない男だ。
 その男が、薄気味悪い口調で話し始める。
 「フフフ・・・そんなに腐る事はありませんよアブドラ君。バーゼンブルグには、君の
大好きな(美しい姫君)がいます。徹底的に嬲ってやるといいでしょう。」
 (美しい姫君)との言葉に、傭兵のボス・・・アブドラは歓喜の声を上げる。
 「おおっ、そいつは楽しみだ。で、どんな姫君なんスか?」
 「君も白雪姫の昔話を知っているだろう?目的地には、(バーゼンブルグの白雪姫)の
異名を持つ白く美しい姫君がいるそうだ。たしか、シャーロッテ姫とか・・・」
 言いかけた貴族の男に、アブドラが詰め寄った。
 「だ、だ、だ、男爵様っ!!そいつは本当ですかい!?白く美しいってのは・・・」
 「あ、ああ。待て待て、そう興奮するな。」
 「おおっと、すンませんね。つい萌えちまって・・・」
 どうやらこのアブドラと言う男、(美しい姫君)を嬲る事に燃え(萌え)ているらしく、
その興奮する様は尋常ではない。
 襟元を直した貴族の男は、目に冷酷な光を宿らせた。
 「では、手抜かりないようにしてくださいよ、アブドラ君。」
 「お任せ下せえ、青ひげ男爵様。」
 アブドラと、貴族の男が邪笑いを浮べる。
 この貴族の男は・・・青ひげ男爵の異名をとる、極めて凶悪な男だった。
 男色家であり、特に美少年を猟奇的な拷問にかけて嬲るのを趣味としている狂気の悪魔
なのだ。
 浪費の激しい青ひげ男爵は、遊興費を得るために、傭兵を雇って村や町を襲撃している
のである。
 その残虐な魔の手は・・・静かに眠るバーゼンブルグに迫っていた。
 
 バーゼンブルグは、黒い森に守られているため、戦争などに巻きこまれた事がなかった。
 それゆえ、城を守る兵力などは一切持ち合わせていない。城門には、見回り当番の者が
立っているだけである。
 オマケに城門にはカンヌキすらされていない状態であった。
 平和過ぎた故に、油断し過ぎていた。
 当番の者が襲撃に気がついた時は・・・すでに遅かった。
 アブドラ率いる傭兵の一団が城門を蹴破り、津波の如く攻入ってきたのだ!!
 静寂が破られ、眠っていた人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
 情けも容赦も、そして・・・命乞いすら受けつけぬケダモノどもの餌食となり、次々と
犠牲者が増える。
 その騒乱の響きは、静かに語り合っていたシュレイダー領主とシャーロッテ姫の耳にも
入った。
 「何があったのだ一体っ!?」
 驚いたシュレイダー領主が城の使用人に尋ねる。使用人は、血相を変えて返答した。
 「り、領主様っ。賊の襲撃でありますっ!!姫様と共に早くお逃げくださいっ。」
 賊の襲撃・・・まさに晴天の霹靂であった。
 騒ぎに目を覚ましたドワーフ隊の男の子達が、恐怖に怯えた顔でシャーロッテ姫に縋り
付く。
 「姫さま、怖いよ・・・」
 「大丈夫ですわよ、あなた達は私が守ってあげますから・・・」
 ドワーフ達を抱きしめ、使用人に指示を出す祖父を見つめているシャーロッテ姫。
 しかし、この只ならぬ雰囲気から、自分達は極めて危機的な状況に置かれている事を察
した。
 
 ――逃げられない――
 
 凄まじい恐怖がシャーロッテ姫を襲う。
 やがて、騒乱の音が近付くにつれ、事態が絶望へと向っている事を実感するのであった。
 そして、ついに襲撃者達は城にまで乗り込んで来た。
 城に乱入する傭兵達。武器すら持たない無抵抗の使用人達を血祭りに上げ、狂暴な黒い
野獣アブドラが姿を見せた。
 「大人しくしやがれクソどもが〜っ!!死にたくなかったら有り金全部出しやがれっ!!
」
 怒声を上げて吠えるアブドラに、残った者達は恐れ怯えている。反撃など全くできない。
ただ一方的に責められるだけだ。
 アブドラと相対したシュレイダー領主が、怒りをもって襲撃者を睨む。
 「貴様達・・・何処の何者かは知らぬが、このような暴虐三昧、許されると思っておる
のかっ!!」
 しかし、そんなシュレイダー領主を、狂暴な野獣は一笑した。
 「ブハハ〜ッ!!ほざくなジジィッ。てめえがいくら喚いてもムダだぜ、大人しく白雪
姫をこっちによこせ〜っ。」
 白雪姫との言葉に、シュレイダー領主は顔色を変える。
 「ぬうっ、シャーロッテを奪おうと言うのか・・・貴様のような奴にシャーロッテは渡
さぬっ!!早々に立ち去れいっ!!」
 後ろでドワーフ達と共に隠れているシャーロッテ姫を庇うシュレイダー領主。使用人達
も、盾となって姫君を守っている。
 だが・・・そんな事で野獣の攻撃を避ける事はできなかった・・・
 「ケッ、だったら力ずくで奪うまでよ〜。やれっ!!」
 アブドラの手下が、クロスボウの矢を浴びせた。
 「うわっ!?」
 「ひ、ひめさまーっ!!」
 シャーロッテ姫を庇っていた使用人達が次々倒れる。そしてシャーロッテ姫とドワーフ
達は悲鳴を上げた。
 「ああっ、み、みんな!?」
 「うわーんっ、姫さまーっ。」
 恐怖に怯えるドワーフ達がしがみ付いてくる。そして、シャーロッテ姫は、大好きな祖
父が矢を胸に受けて倒れているのを目撃してしまった。



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