魔戦姫伝説(スノウホワイト・白哀の魔戦姫)後編


  第17話  闇からの生還、そして復活の時
ムーンライズ

 闇に堕ちたシャーロッテ姫は、ハルメイルに抱き抱えられたまま、今だ目覚めずにいた。
 シャーロッテ姫の魂を追ってサイコ・ダイブを行ったハルメイルもまた、固まったかの
ように動かない。
 それを見ている侍女は、心配そうな顔をしている。
 「リーリア様・・・シャーロッテ姫とハルメイル様は大丈夫でしょうか?サイコ・ダイ
ブに失敗したら、ハルメイル様御自身も闇に堕ちてしまいますわ・・・」
 すると、無言で見守っていたリーリアは、心配要らないと笑顔を見せた。
 「間もなく目覚めますわよ。」
 その言葉通り、最初にハルメイルが目覚めた。
 「・・・ふう、やっと戻れたよ・・・」
 サイコ・ダイブが成功したハルメイルは、目を閉じているシャーロッテ姫に軽くキスを
する。
 「さあシャーロッテ、目を覚まして。」
 そして・・・固く閉ざされていた瞼が、徐々に開く。
 その瞳には、かつての優しい輝きが戻っていた。蒼い瞳に、笑顔のハルメイルが映る。
 「う・・・うん・・・ここは・・・?」
 「よかった・・・元に戻った・・・」
 シャーロッテ姫を再度抱きしめるハルメイル。その後ろには、安堵の溜息を漏らす侍女
と、微笑むリーリアの姿もあった。
 「わたし・・・私は・・・確か、魔王様から力を授けられて・・・そして・・・あの・・
・」
 記憶が混乱しているシャーロッテ姫。どうやら、極冷の魔術を使って青ひげ一味を殲滅
した時の記憶はないらしい。
 「思い出せませんわ・・・でも・・・はっ!?」
 振り返ったシャーロッテ姫は、氷で閉ざされた青ひげの屋敷を見て愕然とした。
 そう・・・自分は青ひげ一味を残らず処刑し、地獄に送ったのだ・・・
 ブルブルと身体を震わせ、絶対の事実に苦しめられる。
 「わたし・・・私は・・・この手で・・・青ひげ一味を・・・」
 再び悲しみがシャーロッテ姫を襲う。しかし、それをハルメイルが制した。
 「シャーロッテッ!!君がやったんじゃない・・・全部青ひげどもが悪いんだよ・・・
あいつ等、自分で地獄の扉を明けて、そこへ勝手に堕ちたんだ・・・自業自得さ。」
 その説得に、シャーロッテ姫が再び闇に堕ちるのは回避された。安堵が胸に満たされ、
シャーロッテ姫はやっと笑顔を見せた。
 ハルメイルの優しさが何よりも嬉しかった。心が癒されていく想いであった。
 そして、ハルメイル自身もシャーロッテ姫に安らぎを求めた。
 「シャーロッテ・・・君に戦う力は似合わないよ・・・ずっと優しいままのシャーロッ
テでいて欲しいんだ。いつまでも、オイラの優しい母様や姉様でいて欲しいんだ・・・」
 亡き母親と姉の面影をシャーロッテ姫に重ねているハルメイルは、泣きながらに訴える。
 ハルメイルは、幼少期に大好きだった母親と姉を事故で失っており、実際には20代前
半の年齢だが、母と姉を失った悲しみから肉体的成長を止め、童子の姿を留めている。
 故に、魔界童子の2つ名を有しているのである。
 ハルメイルの過去を知って、シャーロッテ姫はハルメイルの悲しき心を察した。同情な
どではない、心の底から、ハルメイルへ想いを向けているのだ。
 「ええ・・・こんな私で良ければ・・・あなたの母様にも姉様にもなりますわ・・・そ
して・・・あなたを私の大切な方にさせて下さい・・・」
 互いの心の隙間が埋められ、そして1つに結ばれた。愛と言う絆によって・・・
 ハルメイルは降り返り、フリーズしたままのドワーフ達も目覚めさせた。
 「さあみんな、姫様が元に戻ったよ。起きて起きて。」
 ドワーフのボディーに手を触れると、次々飛び起きる。
 「・・・ヒメサマ、モトニモドッタノッ!?ヨカった・・・あ、あれ?ボク達も戻って
るっ?」
 驚くドワーフ達・・・なんと、人形の姿から、元の人間の姿に戻っているのだ。
 一時的にだが、ドワーフ達は人間に戻れるのだった。
 「ひめさまーっ!!」
 「ヨハン、クラウス・・・みんな・・・」
 泣きながら抱き合うシャーロッテ姫とドワーフ達。
 それを見届けたリーリアは、半壊した青ひげの屋敷に眼を向ける。
 「これで1つの悪が滅びましたわ、そして無に帰ったのです。」
 リーリアが指をパチンと鳴らすと、屋敷の周囲に巨大な炎の壁が出現し、屋敷を焼き尽
くした。
 紅蓮の炎は、悪しき全てを飲み込み浄化する。
 全ては炎が焼き尽くした。青ひげの悪行も、ブラック・オークの欲望も・・・
 崩れ落ちる屋敷を無言で見ていたシャーロッテ姫に、リーリアは声をかける。
 「さあ、あなたにはもう1つ、やらねばならない事がありますわよ。バーゼンブルグの
民を復活させる事です。民の全ての怨念が晴れた今、魂を肉体に還す事ができます。」
 その言葉に、シャーロッテ姫は喜んで立ちあがった。
 「本当ですかっ!?ああ・・・これでみんなは・・・よかった・・・ありがとうござい
ます・・・」
 「全てあなたの成し得た事です。さあ、今すぐバーゼンブルグに向いましょう。すでに
エーデル姫が民の治療を施している最中ですわ。」
 「はいっ。」
 一同は、空間移動を可能とする魔界ゲートを使ってバーゼンブルグへと急いだ。
 
 その頃バーゼンブルグでは、虐殺された民達の遺体が街の広場に集められ、エーデル姫
によって肉体の再生を施されていた。
 優れた医療技術を誇るエーデル姫は、すでに死したる者の肉体をも治し、再び心臓に鼓
動を与える事が可能だ。
 次々運ばれてくる傷だらけの遺体を、目にも止まらぬ手際で治療を施し、魔道再生術に
よって復活させていく。
 傷口を塞ぎ、手の平から魔力を送って再生に専念するエーデル姫。
 「はい、これで終わりましたわ・・・次の方を・・・」
 休む事無く治療を進めるエーデル姫に、1人の侍女が歩み寄り、エーデル姫の額の汗を
拭った。
 その侍女は他の侍女とは違った、看護婦の制服を着ている侍女であった。
 その侍女の素顔は美しく、まさに絶世の美女と呼ぶに相応しかったが、無表情な顔には
一見、鉄の冷たさを漂わせる雰囲気があった。
 その侍女が、エーデル姫を気遣って声をかける。
 「ハイペースでは疲れますでしょう。まだ民の数は多いのです、少し休まれた方がよろ
しいかと。」
 しかし、エーデル姫は手を休めなかった。
 「ありがとうマリア・・・でも再生に時間をかけてはなりませんわ、肉体が死滅しない
うちに、速やかに行わないと・・・」
 マリアと呼ばれた侍女は、そんなエーデル姫を見て少しだけ辛そうな顔をした。
 「姫様・・・」
 できれば替わってさしあげたい・・・無表情だった鉄の美貌に、エーデル姫への優しさ
を覗かせるマリアだった。
 その時、不意にマリアが視線を建物の影に向けた。何者かの気配を感じたのだ。
 「・・・姫様、私は少しこの場を離れますが御安心を・・・すぐに戻ります。」
 そう言うと、速やかに建物の方に向った。
 
 建物の影に潜む人影・・・それは青ひげ一味の残党だった。
 魔戦姫の殲滅を逃れていた数人の残党が、忌々しそうにエーデル姫達を見ている。
 「・・・くそっ、なんなんだよあいつ等は・・・仲間があっという間にやられちまった・
・・」
 「あ、あの連中、人間じゃねーですぜ兄貴。さっさと逃げた方が・・・」
 弱気な手下の言葉に、兄貴分は怒りを露にして吠えた。
 「ばっかやろうっ、女なんぞにコケにされて引き下がれるかってんだっ!!あいつ等の
ケツに鉛弾ブチ込んでやるっ。」
 銃を取り出し、赤い髪のエーデル姫に狙いを定めた。
 「へへ・・・まずはあの赤毛ちゃんからだ・・・」
 治療に専念しているエーデル姫は、敵の狙撃に気がついていない。このままでは・・・
 と、その時である。
 
 ――ターンッ!!
 
 銃声が響き、エーデル姫を狙っていた兄貴分の頭が弾丸で吹っ飛ばされた。
 「げえっ、あ、あにきーっ!!」
 驚愕した手下達が、オロオロと辺りを見回した。
 だが、狙撃者の姿は見えない。銃声が再度響き、手下達は次々倒された。
 「うわわっ、ひいいっ。」
 最後の1人が、あたふたと逃げ出す。
 細い路地に逃げ込んだ手下は、前から何者かが歩み寄ってくるのを見た。
 「へ?か、看護婦?」
 現れたのは、ライフルを手にした(看護婦)だった。先程の狙撃者の正体も彼女だ。
 (看護婦)の無表情な美貌に、怒りの色が浮かぶ。
 「姫様の御命を狙う者は、この私が許さない・・・」
 ジリジリと歩み寄る(看護婦)。手下は情けない顔で懇願する。
 「ま、ま、待てよ。降参するからさ、み、見逃してくれよ、な?」
 そう言いながら、こっそりと手を後ろに回し、手投げ弾を掴む。
 「へ、へへ・・・これでも食らえ〜っ!!」
 半狂乱で手投げ弾を投げようとした、その時。(看護婦)のライフルが火を吹き、手下
の手首が吹っ飛んだ。
 千切れた手が、手投げ弾を掴んだまま手下の足元に転がる・・・
 「あ・・・」
 手下の顔が恐怖の絶頂で凍りつく!!
 そして、大音響と共に手下は木っ端微塵になった。
 無惨な最後を遂げた手下を、無表情で見据える(看護婦)ことマリア。
 「地獄へお行き、悪党め。」
 冷徹な瞳で手下に一瞥をくれると、マリアはエーデル姫の元へと戻って行った。
 街の民達は、エーデル姫の治療によって次々肉体が再生されている。
 後は魂を肉体に戻せば、完全なる蘇生の完了だ。
 バーゼンブルグが元に戻るのは間もなくとなった・・・


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