魔戦姫伝説(スノウホワイト・白哀の魔戦姫)後編


  第13話  最狂の魔術・・・(極冷の魔術)
ムーンライズ

 ――ゴクッ・・・ゴクゴク・・・
 
 シャーロッテ姫の小さな口を、おぞましい毒酒が容赦無く刺激する。不味いなどという
程度のレベルではなかった。凶悪な味覚は脳髄を直撃し、喉を焼く。 
 大量の涙をボロボロ流しながら、シャーロッテ姫は懸命になって毒酒を飲み込んだ。
 
 ――ゴクゴク・・・ゴク・・・
 
 やがて、最後の一滴まで飲み干したシャーロッテ姫は、ヨロヨロとよろめき倒れた。
 
 ――カシャアアン・・・
 
 グラスの砕ける音と共に、シャーロッテ姫の精神は闇に堕ちる・・・
 急性アルコール中毒患者の様に虚ろな目は焦点が合わなくなり、ピンク色の唇から少し
だけ涎が流れ落ちる。
 ピクピクと痙攣しながら横たわっていたシャーロッテ姫の身体に、凄まじい衝撃が走っ
たのは直ぐあとだった!!
 
 ――ビクッ、ビクンッ!!
 
 「あがっ!?ああ、あぐあああーっ!!」
 絶叫を上げたシャーロッテ姫は、胸を掻き毟って転げまわった。
 毒酒の苦痛が身体の内側から彼女の神経をズタズタに引き裂いているのだ。その七転八
倒の苦しみ様は尋常でない。
 「ぎいいあああっ、ぐあええ・・・があっ、はあっ、はううっ!!」
 声にならない悲鳴をあげ、白い髪を振り乱して暴れ狂う。着ているガウンが、暴れるた
びに破れて白い肌が露になる。
 強烈に悶え苦しむその姿・・・禁断症状に苦しむ麻薬患者ですら、これほどのた打ち回
る事はないであろう。
 口から泡を吐き、白い肌を爪でメチャメチャに傷つけてもなお、彼女の苦しみは収まら
なかった。
 余りにも凄惨な有様に、ハルメイルは叫んだ。
 「魔王さまああーっ!!もうシャーロッテ姫を苦しめないでええーっ!!もうやめてえ
えっ!!」
 だが、冷徹な魔王は冷ややかにハルメイルの懇願を退ける。
 『たかが小娘1人に情けないやつめ・・・貴様も魔界八部衆の端くれなら、心して見届
けるのだ・・・シャーロッテ姫の運命をっ。』
 冷徹な言葉に、ハルメイルはただ泣くしかなかった・・・
 リーリアの膝に縋りつき、嗚咽を上げて泣きじゃくる。
 「・・・ひどいよ・・・シャーロッテ姫が何をしたっていうのさ・・・可哀想だよこん
なの・・・ひどすぎるよおお・・・わああーっ!!」
 リーリアもまた、悲しみを堪えてハルメイルの頭をそっと撫でた。
 「御辛抱ください、これが悲しみを背負いし者の定めなのです。それを課す魔王様の御
心もまた、切なる想いに満ちておられます。そして・・・これは魔王様がハルメイル様に
課した試練でもあるのですよ。」
 突然のリーリアの言葉に、ハルメイルはハッとする。
 「オイラへの試練?それって・・・」
 「いずれ判る事になりましょう。今はただ、魔王様の御言葉に従ってくださいませ。」
 そして、沈黙のままシャーロッテ姫に視線を移すリーリア。
 先ほどまで悶絶していたシャーロッテ姫は、白目を向いたまま動かなくなっていた・・・
 それを見た魔王は、手に魔力を宿してシャーロッテ姫に向けた。
 『・・・さあ、我が闇の魔力を受け取るのだ、シャーロッテ姫・・・そして目覚めよっ、
白き哀しみを背負いし白雪姫!!』
 魔力が黒い光となってシャーロッテ姫を覆う。
 その黒い光が身体に吸収され、最強の魔力をその身に宿したシャーロッテ姫は目覚めた。
 「う、うう・・・」
 ゆっくりと置き上がったシャーロッテ姫は、膝をついた姿勢でうつむき、そのまま動か
なくなる。
 シャーロッテ姫を隔てていた見えない壁が消え、ハルメイルは慌てて駆け寄ろうとした・
・・が。
 なにか、異常な気配を感じて立ち止まった。
 「・・・こ、これは・・・!?」
 近寄れない。全身を挿すような(冷たさ)がシャーロッテ姫を覆っているからだ。
 そして彼女のうずくまる場所の床が、音を立てて凍り始めたっ!!
 
 ――パキ・・・パキパキ・・・
 
 強烈な冷気によって、シャーロッテ姫の吐く息が真っ白になり、着ていたボロボロのガ
ウンがガラスの様に砕けて落ちる。
 はああ・・・と乾いた吐息が空気すらも凍てつかせ、細かい雪の結晶が辺りに漂った。
 漂う雪の結晶を見たリーリアの表情が険しくなる。
 「これはダイヤモンド・ダスト現象・・・魔王様が彼女に授けた魔力は・・・極冷の魔
術っ!!」
 白い吐息に包まれたシャーロッテ姫が、ユラリ・・・と顔をあげる。
 その顔・・・あの優しかったシャーロッテ姫の面影は全て消え失せ、暗く陰鬱な表情に
変貌している。
 蒼い瞳には生気が一切無く、氷海の如き深き悲しみが満たされていた・・・
 その氷の瞳は、生きる者全ての生命すらも凍りつかせるほどの(魔力)が込められてい
るのだ。
 冷気の魔力は瞳のみならず、白い裸体からも霧となって放出されている。
 その恐るべき魔力の実態を、ハルメイルも察した。
 「・・・こ、これって・・・最狂最悪の魔術、極冷の魔術じゃないかっ!?そんな・・・
」
 「ええ、己の魂と引き換えに得る究極の魔術ですわ。使い手の精神や魂までもズタズタ
にしてしまう、恐ろしい魔術・・・高位魔道師ですら得るのは困難とされていますが・・・
まさか、生身のシャーロッテ姫に授けるとは・・・」
 数々の修羅場を潜り抜けて来たリーリアですら驚愕する魔術・・・
 しかし倒すべき相手は、たかが人間の小悪党どもだ。(最狂)の魔術は不釣合い過ぎる。
 ハルメイルは魔王に問うた。
 「あ、あの・・・どうして極冷の魔術なんか授けたんですか・・・?簡単な魔術で良か
ったのに、あれじゃゴキブリを潰すのに大型大砲を使うようなものだと思うけど・・・」
 しかし、闇の魔王は平然と答える。
 『フン・・・貴様はまだ余の真意がわかっておらんようだな・・・真の目的は悪党ども
を潰す事ではない、民を救いたいとするシャーロッテ姫の願いを叶える事ぞ・・・そのた
めに最狂の魔術をくれてやったのだぞ。』
 「で、でも・・・あれではシャーロッテ姫が・・・」
 『たわけっ!!お前が口出しする事でわないわっ。貴様にはドワーフ達に機械の身体を
与えるという仕事があろうがっ、四の五の言う暇があったら、さっさと取りかかれっ!!』
 鋭い叱責に、ハルメイルは唇を噛んで頭を下げる。
 「し、招致しました・・・今すぐに・・・」
 憤慨を堪え、ハルメイルは携帯端末を取り出して部下に連絡をとる。
 「・・・もしもし、オイラだ・・・今すぐ魔戦姫の城に、武器内蔵ギミックと戦闘用自
動人形の装備を持って来るんだ。大至急だぞ、とびっきり凶悪な奴を持って来い・・・わ
かったかっ!!」
 怒声を上げたハルメイルは、携帯端末を床に叩きつけて部屋を出ていった。
 それを見届け、魔王は口を開く。
 『・・・世話の焼ける奴だ・・・死んだ先代の父親とは正反対だな・・・ところでリー
リア、シャーロッテ姫のドレスと王冠は準備できておるか?』
 「はい、やはり民や祖父の思い出があるドレスと王冠でなければ、彼女の心を満たす事
はできませんゆえ、早急に修復しておきました。」
 『上出来だ・・・すぐにシャーロッテ姫に与え、悪党どもの殲滅に向わせろ。後で結果
を聞かせてもらうぞ・・・』
 そう言い残し、闇の魔王は消え去った。
 そして部屋に黒衣の侍女が入ってくる。その手には、ドレスと王冠、それに下着があっ
た。
 リーリアと侍女は、うずくまったまま動かないシャーロッテ姫に歩み寄る。
 「シャーロッテ姫、こちらを向きなさい。」
 その声に、無言で向き直るシャーロッテ姫。極冷の魔術は最高のテンションにまで高ま
っていた。
 うっかり近寄ろうがものなら、一瞬の内に凍結されてしまうだろうが・・・リーリアは
魔力でバリアーをはり、ドレスを手にしてシャーロッテ姫の前に立った。
 そして侍女が手にしていた下着が宙を浮遊し、シャーロッテ姫の裸体に身につけられる。
 沈黙して立つシャーロッテ姫に、リーリアはドレスと王冠を手渡した。
 「あなたのドレスと王冠を治しておきました。このドレスと王冠には、戦うに必要な魔
力を込めています。民とお爺様の形見であるこれを身につけ、見事青ひげ一味を殲滅なさ
い。」
 固く閉じられた白雪姫の小さな口がゆっくりと開き・・・乾いた声が漏れる。
 「・・・はイ・・・必ずヤ・・・青ひゲ一味を倒シ・・・怨みヲ晴らしテ見せましょウ・
・・」
 今のシャーロッテ姫は・・・まさに極寒の魔人であった・・・
 全ての怨念を身に宿し、最狂の魔人は宿敵青ひげ一味の元へと向った・・・




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