魔戦姫伝説(スノウホワイト・白哀の魔戦姫)


  第1話 黒き森の白き姫君
ムーンライズ

 白雪姫・・・それは誰もが知っている昔話・・・白い雪の降る日に産まれた1人の姫君
が、7人のドワーフ達に助けられ、幸せを手にする物語・・・
 そして、これから語られるのは、同じ(白雪姫)の名を持つ白く美しい姫君の物語・・・
 白き悲しみと闇の宿命を背負った姫君の名は・・・
 
 ――スノウホワイト――


            
 
 ヨーロッパの中央、ドイツの南側に広がる黒い森(シュヴァルツヴァルト)。
 そのシュヴァルツヴァルトの奥深く、森に守られた小さな国があった。
 国の名はバーデンブルグ。国と言っても、数千人の民が暮らすドイツの一領地に過ぎな
いが、小さいながらも平和と安らぎに満ちた国であった。
 バーデンブルグの主となる街には、シュレイダー領主の住まう城があった。ヨーロッパ
でよく見られる街を城壁で囲った城郭都市で、そこには多くの民が平穏に暮らしている。
 そして・・・その街に、民に愛される美しい姫君がいた。
 名前はシャーロッテ姫。
 その姿は、まさに純白の雪の妖精であった。
 産まれつき髪も肌も雪のように白く、瞳は限りなく透明に近いブルーで、祖父である領
主の深い愛情と、温厚な民に見守られて育ったシャーロッテ姫の心もまた、純白の雪原の
如く、汚れない優しさに満ちていた。
 国の民達は、白く美しいシャーロッテ姫を敬愛をもってこう呼んだ(バーデンブルグの
白雪姫)と・・・
 
 暦は12月上旬。冬が黒い森にも訪れ、初雪が森を白く染め始める季節になっていた。
 シャーロッテ姫は、民の暮らしを見て周るのを日課としており、その日も、お供を連れ
て人々の前に姿を見せていた。
 そのお供は、屈強な衛兵・・・などではなく、なんと7人の男の子達だ。
 「ハイホー、ハイホー。白雪姫さまの、お通りだ〜い。」
 元気良く歌声をあわせ、ダボダボの服に三角帽子を被った男の子達・・・その姿は、昔
話のドワーフそのものだった。
 そして愛称もそのまま、(白雪姫のドワーフ隊)と呼ばれている。
 
 クラウス 責任感の強いドワーフ隊のリーダー
 ヨハン 気は優しくて力持ちの食いしん坊
 ルドルフ イタズラ大好きなワンパク坊主
 ミハイル ちょっぴりヒネくれた天邪鬼。でも根はとっても純情
 フランツ ノンビリ屋のハナタレ小僧
 ジークフリート 勇者の名を持つ・・・とっても泣き虫、弱虫クン
 ロルフ 目立たないけど、ドワーフ隊で1番かしこい
 
 このドワーフ隊の子供達は、いずれも事故や病気などで親を失った孤児であった。そん
な孤児達を引き取り、シャーロッテ姫は親代わりとなって面倒を見ているのだ。
 そのドワーフ隊の後ろに・・・にこやかな微笑を浮べるシャーロッテ姫が歩いてくる。
 「おお、姫様が来られたぞ。」
 「おはようございます姫様。」
 シャーロッテ姫の姿を見た民達が、喜びの声で出迎える。そして、シャーロッテ姫も笑
顔で挨拶した。
 「おはようございますわ皆さん。今朝も変わりはありませんか?」
 「ええ、おかげさまで。みんな今日も元気ですよ。」
 八百屋の主人が威勢良く応え、活気ある街をさらに盛りたてる。出迎えた人々は、皆一
様に明るい表情で笑っている。
 シャーロッテ姫は、足に包帯を巻いた大工の親方を気遣って声をかけた。
 「・・・足の具合はどうですか?治りが遅いから心配してましたのよ。」
 年老いた親方は、照れた顔で応える。
 「へえ、面目ねえですじゃ。女房や倅に年寄りの冷や水は止めろと言われてるんですが、
仕事してねえと体が鈍ってしまうもんで。」
 「・・・もう若くはないんですから、無理をなさらないで・・・」
 優しく労いの言葉をかけるシャーロッテ姫・・・
 彼女は、街の事を詳しく知っていた。街の人が抱える悩みも、日々の喜びも・・・
 困った人がいれば相談にのり、誰かに祝い事があればそれを祝し、老若男女に関わらず
同様に接するシャーロッテ姫。
 だからこそ、人々は誰もがシャーロッテ姫を愛していた。
 そして今日は、民達がシャーロッテ姫を祝う大切なイベントの日でもあった・・・
 
 ふいに、ドワーフ隊のリーダーであるクラウスが、八百屋の主人に声をかける。
 「ねえおじさん、今日の事は姫さまに内緒にしてくれてる?」
 「ああ、もちろんさ。お前達に言われたとおり、街の連中も内緒にしてるよ。でも、な
んでわざわざ内緒にする必要があるんだ?姫様だって今日の事ぐらい知ってるだろうに。」
 不思議そうな顔をする八百屋の主人に、クラウスは指を横に振って応える。
 「ところがそーじゃないんだな〜♪試しに聞いてみるね。」
 そう言って、街の人と話をしているシャーロッテ姫に近寄る。
 「姫さま、今日が何の日か知ってる?」
 尋ねられたシャーロッテ姫、キョトンとした顔をする。
 「・・・今日ですか?クリスマスはまだ先ですし、えーっと・・・」
 (考える事30秒)
 「・・・何の日でしたっけ?」
 あまりにもオトボケの返答に、皆はコケた。
 「あ、あのお〜。本当に御存知ないのですかぁ?」
 「・・・ええ、鍛冶屋のオットーさんの結婚式は先月でしたし、材木の搬送の日は来週
ですし、ミュンヘンから市長が来られるのは17日ですし・・・ええっと・・・」
 「ああ〜っと、も、もういいです〜。」
 12月の予定を思い出しているシャーロッテ姫を見て、慌てて止める八百屋の主人。
 シャーロッテ姫は、街の人の世話や行事の詳細で忙しく、(一番肝心な事)を、すっか
り忘れているようだ。
 呆れた顔の八百屋の主人と、困った顔のドワーフ隊達。
 「う〜ん、最近お忙しい様子だったから無理もないが、それにしても、今日の事を忘れ
るかね。」
 「あはは・・・そこが姫さまらしいんだけどね〜。」
 等のシャーロッテ姫は、何事もなかったかのように振舞っている。同じ事は再々にある
らしく、ドワーフ隊達は慣れた様子でシャーロッテ姫に付き従う。
 
 シャーロッテ姫にとって、人々の笑顔と活気が何よりの喜びだった。そして、それを守
る事が姫君としての責務であると心得ていた。だからこそ、民もシャーロッテ姫に敬意を
示し、優しさを尊んでいた。
 民を想う姫君の優しさ。民を慈しむ姫君への敬意・・・
 今朝もまた、いつもと変わらぬ情景・・・今日も街は明るく平穏だった。
 そして、今日はバーデンブルグの人々にとって、特別の日だった・・・



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