荒ぶる欲望の果てに

第四話: 神光寺雅
「お恵みを・・・・お恵みを・・・」
館の中に入り、両開きの閉じられたドアは鍵がかかっている。
よほど重要な儀式が行われているに違いない。
俺は鼠にドアの前で物乞いをさせることにした。俺は木立の中に隠れてチャンスをうかがう。小汚い鼠だが、こういうときには役に立つ。
やがて、まだ年若い侍女がドアを開けた。
「ひもじいのですか?・・・すこしなら差し上げる物もございますからお待ちください」
まだ完全にはドアを開けない。当然用心をしているのだろう。
鼠は顔も上げず、ひたすら物乞いをしている。

しばらくして奥から数人の足音が聞こえてきた。
「・・どうしてここに門番はなにをしているのですか・・・・これをあげてさっさとおいはらなさい・・」
その声には聞き覚えがあった。
ミルといったか・・・俺に地獄を味あわせてくれた女・・・。
これは幸いだ。ということは中にいるのは・・・姫様ということか
俺は気づかれないようにドアへ近づいた。
やがてドアが開き二人の侍女が現れた。その中心には忘れるはずもないミルがいた。
「ここはお前のような物の来るところではありません、さっさとこれを持って立ち去りなさい」
「へへぇ」
いかにも恐れ入ったという顔で、鼠が立ち上がった。
そしていきなり。ぼろ布をまくり上げた。
「きゃああ!」
悲鳴が上がった。もちろんぼろ布の下にはなにもつけていない。
もうさっき出したばかりというのに方けたたましく勃起した物が侍女達の前で踊った。
「いまだ」
俺は木陰から飛び出すと、たじろぐ侍女達を鼠と一緒に屋敷の中に押し込んだ。
進入成功だ。
「いひひひひ・・かわいいなぁぽちゃぽちゃしてえ」
まだ年端のいかない侍女に鼠が襲いかかった。
「きゃあいやいやいやぁ・・・」
「やめなさい!まだ子供なのに!」
ミルが牽制する。だが鼠はお構いなく、そぐそばの小部屋に連れ込んでドアを閉めた。
「ひひひ・・いいねえ・・可愛いよ・・・おじちゃんがかわいがってやるから」
「いやいやいや・・こわいこわいこわい・・・」
「さて・・」
残った俺はミルの両手をそろえてつかんでひねりあげ壁に押しつけた。
そのまま身体を触っていく。
「なにをする・・・」
「勘違いするな、何か武器を持っていないかどうか探っているだけだ」
「武器など持っていない」
相変わらず小柄で華奢な身体は抗うこともできずに、なすがままだ。
「いや・・お前は危ない・・油断して、またぶっすりとやられたらたまらないからな」
俺のつぶやきにミルは表情を変えた。
「お前はあのときの・・・・生きていたのか・・」
「あいにくだな・・しょせんは女の力。とどめを刺すまでに至らなかったというわけだ」
「・・・」
ミルは表情がさらにこわばった。こともあろうに大事な儀式の場所にセレナ姫に乱暴をくわえた男が現れようとは。
「わたしを殺すのか?・・復讐だろう?・・・殺すなら・・・」
ミルの声が震えている。威勢のいい言葉も、震えていては脅しにはならない。
可愛そうなくらいに震え、おびえているのが分った。
俺はせせら笑うと。
「女を殺してなにが面白い?女は抱くのがおとこの役目だ・・だが」
「だが?・・なんだ・・・」
取り合えず命を奪われることはなさそうだ、ミルは一息ついた。
この男はなにを考えているというのだ・・まさか・・まさか・。
だが・・ミルのまさかは当っていた。
「俺はお前を抱くつもりはない」
そういって閉まった扉の方を向いた。
「あの汚らしい男にか・・・・」
ミルはぞっとした。来たばかりの見習い娘も気がかりだが、否応なく見せられたおぞましい身体がありありと浮かんだ。
ぶるぶる震えるミルの顎をつかんで俺はすごんで見せた
「ここにいるのはお前達だけではあるまい・・・・どうだ?いるんだろ?姫様が・・」
「・・・・・いません・・ここには誰も」
ミルは言葉を詰まらせ。次に首をぶんぶん振ると消え入りそうな小声で言った。
ミルが一番恐れていたこと。
あの山小屋では命からがら姫をお救いできた。
だが、いまここで姫が見つかったら、もうとどめることはできない。
「いうんだ!・・・お前達だけでここにいるのはおかしい・・あの姫様がいるはずだ!どこにいる!」
俺は小柄なミルの身体をがくがくと揺らした。

「・・・・・」
「・・・・・ミル?」
「・・ミル?どなたかお客様なの?」

奥の部屋から声がする。
透き通るような美しい声。その声には聞き覚えがあった。
姿は見えないが、奥の部屋から聞こえてくるようだ。
「姫!いけません!でてはいけません!」
ミルは渾身の力を込めて俺を振り払おうとする。
そして、ひるんだ俺の手をすり抜けて、廊下の奥へと走っていった。


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