ダーナ氷の女王 第二部 第7話 10最終話

「・・・・おとう・・・・」

マナは泣きじゃくった・・・。ダーナがマナをしっかりと抱きしめる。

「マナ・・わたしのマナ・・・・・わたしの・・・赤ちゃん!・・・・」

マナを・・マナを助けなければ・・マナを助けられるのはわたししかいない・・わたししか・・・・

ダーナはマナの身体をしっかりと抱きしめる。

マナを・・マナを助けて・・・・わたしの身はどうなっても・・・。マナを・・。

ダーナの脳裏に・・ふるさとの島が浮かぶ。そして・・・あの・・気高い聖龍の姿が・・・!

子をなした自分には既に巫女の力はない。
子を思う母親の心が・・聖龍に・・祈りを捧げる・・。

「・・・大地と・・・現象と・・・智恵と・・そして愚かなる我らを・・見守る・・神よ・・・・・」

「・・・我が子を・・我が子を・・・あなたのお力で・・・お救い下さい・・・・・神よ・・・」

・・・なにもわからないとうのに、マナも・・・ダーナと声を合わせる。

「・・・大地と・・・現象と・・・智恵と・・そして愚かなる我らを・・見守る・・神よ・・・・・」

「・・・我が子を・・我が子を・・・あなたのお力で・・・お救い下さい・・・・・神よ・・・」

「・・聖なる・・・龍(かみよ)・・・・・・・・」

ダーナとマナの心が・・・巫女の血が共鳴した・・シンクロした・・。


・・・・・ずず・・・・ずずん・・・・・・・・・・・・・・・ごごごご・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

地響きが起った。・・・そして辺り一面が白く輝いた。まるで・・太陽のように

「ぎゅあ!?・・きゅあ・・・・・・・・ぎゃううううう・・・・・・・・・・・・・・・・」

ダーナを取り囲んだ触手達が光りの中で溶けて行く。

「なんだ?なんだというのだ?なにがあったというのだ・・・・・・・」

魔女がみせたことのな狼狽ぶりだ。

キラは・・・触手が消え。その場に倒れた・・・その目に映った物は。

「海が・・・海が光っている・・・・・」


「海が光っている!・・・海が!・・」

魔女達の襲撃に、海岸に集まった村人達がキラと同じ言葉を口々に叫ぶ。

まだ夜が明けぬと言うのに、海は日が昇ったかのように輝きまばゆい光を放っていた。

「ばかな!・・・・ばかな!・・・・・・・・そんなことが・・・・・・・・・」

魔女は素早く城へと飛び帰ってゆく。

やがて、海の彼方から・・金色に輝く巨大な物がこちらに向かってくる・・・。

「聖龍!・・・・・・・・・・・・聖なる神が!?・・・・・」

ダーナはマナをしっかりと抱きしめて立ち上がった。
金色の光りが、辺り一面を照らし・・真昼のようだ。

『・・・・我が僕・・・なんじの願いを聞こう・・・・・・・』

「聖龍!・・・・・・聖龍なの・・・・・・」

「マナにも・・聞こえたよ・・・いまの声・・聖龍って?・・・・」

マナが不思議そうな顔をする。

「マナ!・・ああ・・マナ・・・マナ!」

力を失ったはずのダーナ。だが、マナの中に流れる巫女の血が聖龍を呼んだのだ。

ダーナはさっきよりもっとしっかりとマナを抱きしめた。

『いこう・・・・人々を苦しめた・・・・悪に・・・罰を与えねばならぬ・・・・』

いつの間にか聖龍が村の上に来ている。

巨大な銀色に輝く龍。光りが当たりを照らし。空を覆った黒雲が消え去っている。

「いきましょうマナ・・・・」

ダーナの声にマナがうなずいた。

二人は光に包まれ、聖龍に吸い込まれていく・・。

向かうは砂漠の魔女の城。


「どうなっているんだ?・・・」

キラがあっけにとられたように立ちつくす。

「あれが・・聖龍!・・・魔女が怖がる訳だ・・・・」

「なにっ!?」

キラが振り返った・・。そこには・・・ガインが立っていた。

「お前!・・・触手に・・・・・」

「ああ・・・・・奇跡というのは・・あるんだな・・・・」

ふたりともボロボロだ・・だが・・・二人とも生きているのは間違いない。

「・・・姫とマナが助かればいいのさ・・・おれなんぞ・・・」

ガインが生きていたのは・・聖龍の力に相違なかった。だが・・・その顔は浮かない。

ガインにはわかっていた。

聖龍が現われれば、姫もマナもグリンウエルに帰って行く。
砂漠の島が、緑の島になったところで・・。ガインにはもう家族はいない。

命がけで守った娘も・・。


22
ダーナの目に砂漠の城が迫っていた。次々と触手の群れが襲いかかってくる。

だが、聖龍に到達する前に全て消滅してしまう。

あの城を、悪魔の城を滅ぼさなければ。

アンデッド達も報われない・・・。

『争いは好まぬが・・・・致し方あるまい・・・』

聖龍は大きく口を開けると叫んだ。その口から閃光が走った。

「きゃう・・・ぎゅあ!・・・・・・・」

城全体がうめき声を上げる。そして、聖龍の口から吐き出された光りが城を焼き尽くして行く。

「やっとしねる・・・・・やっと・・・・・・・・・・」
「・・しねる・・・・しねる・・・・」

城がうめき声を上げる・・・・幾千、幾万もの魂が、うめき、叫び・・崩れ去り・・浄化されていく。
魔女によってアンデッドとして生かされていた、救われぬ魂が浄化されていく。

「城までもが・・・アンデッドで作られていたのね・・・・」

ダーナの唯一の安らぎであった、侍女達の姿が脳裏に浮かんだ。

「彼女たちも・・やっと・・・アンデッドから解放される・・・」

城が滅び去る。あの・・忌まわしき地下牢も。すべて・・浄化されて行く。

全てが無に帰した、だが・・・

『油断するな・・・魔女が現われた!』

地下深くから、巨大なイモリのような化け物が現われた。全身を触手に覆われ。
聖龍に襲いかかってくる。

「ぎゃああっ!・・・きゅあああっ!」

「死ね・・・死んでしまえ!しねええ・・・・・・・・・!」

おぞましい怨念が、化け物から発せられ、聖龍さえも、押し返される。

『力を貸してくれ!心を合わせて!・・・あの邪悪な化け物を』

「はい!」
「うん!」

聖龍のからだがより輝きを増した。
その輝きが、襲いかかる化け物の姿を溶かしていった・・。


キラとガインは聖龍の飛び去った方向を見つめて立ちつくしていた。

二人の目に激しい閃光がうつった。


やがて・・空はいつもの色に戻って行く。いつのまにか、
空は白んできた。夜が明けたようだ。

朝日が当たりを照らしている、心なしか回りの木々が輝いているようにも見える。
魔女の呪縛から解き放たれたのだ。

「終わったのか・・?」

辺りを見回しながら、ガインがつぶやいた。

「ああ・・・」

キラは目的を果たし、ガインは娘を失った。だがそれも、当然の事なのだ。
全てが元通りに戻って行くに違いない。

キラはくるっと後ろを向いて、村の外へと向かう。

「じゃあ・・な」

「あ・・・おい」

キラはいつものように片手をポケットにしまい込み、軽く手を挙げた。
あいかわらずぶっきらぼう男だ。
ガインは声をかけることも出来なかった。

「また・・・ひとりか・・・それも・・しょうがないさ・・・しょうがない・・・これでいいんだ」

自分に言い聞かせ、思い脚を引きずって、家に入ろうとする。

「え・・・え?」

家の入り口に誰か立っている。

懐かしい微笑みを持った姫と、やんちゃな娘。

「マナ・・・・姫様・・・・」

ガインはそれだけ言うと、言葉を失った。

「おとう!」

マナが元気よく駆け寄って、ガインに飛びついてきた。

(終わり)

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