ダーナ氷の女王 第二部 第7話 9

「きゃあっ!」

ダーナはしゃがみ込んでマナを抱きしめた。
牙をむいて襲いかかろうとしたマナは、ダーナの胸に抱き留められてしまった。

「・・・・・暖かい・・・・・」

マナの狂気が一瞬治まった。

「ぐああ・・・・・・・・」

ガインの身体を触手の棘が突き刺している。
しかも、じわじわとくい込み、身体を突き抜けようとさえする勢いだ。

じゅぶじゅぶ・・・・

身体を鋭い痛みが貫く。ガインの巨体には十本近くの触手が突き刺さっていた。

「マナ!・・姫!・・・マナぁ〜っ!!」

じりじり・・と、 ガインはダーナとマナに近づき、二人を触手から守ろうと
覆い被さった。

ガインの身体が楯となって、触手はダーナに近づけない。

じゅぶじゅぶじゅぶ!

「ぐあっ!・・あっ!・・・ぐあああっ!」

痛みを叫びで紛らわすかのように、大きな叫び声を上げるガイン。

身体から血が流れだし、ダーナやマナにも降りかかる。

「ガインさん・・・」

ダーナはガインを見上げる。ガインは身体中串刺しにされながら、痛みにもがきながら
それでも、ダーナ達を守ろうと必死に闘っていた。


キラもまた三人を取り囲んだ触手の群れを崩そうと、傷だらけの身体を押して立ち上がる。
家の中の暖炉から燃えさかる薪を持ち出し、触手の群れに切り込んでいく。
手のやけどなどかまってはいられない。

「ぎゃうう・・・しゅううう・・・・ぎゅうう・・・・・・」

「化け物が!化け物が!・・くそっ!」

焼き払おうと薪を振り下ろす。切り裂く。

だが、次々と沸いてくる触手の群れに囚われてしまう。

「くそお!はなせ!はなせえ〜!」

「・・・犬っころが!わたしのやる事にたてつこうとしたからこういう目にあうのさ・・・」

再び闇の中から魔女の声が響いた。

「安心をし・・簡単には殺さないからねえ・・・・・あははは・・・・・」

「魔女が!・・・殺すなら俺だけを殺せばいいだろう!・・姫やマナには関係ないはずだ!」

キラの全身を触手が締め上げる。キラの身体が軋み、骨の砕ける音がする。

「くあっ!・・・姫とマナを放せ!放すんだ!ぐああぁ・・・・・・!」

「・・面白い、面白いねえ!・・何処までたてつこうというのだい?・・・」

「・・わたしのおもちゃを奪った償いは存分にさせてやるからねえ・・あははは・・・・」

「ぐあっ!・・・・・うおおおおおっ!」

ばき・・・ぴし・・・・・・

キラの身体の骨という骨を・・触手が締め付けて・・へし折ろうというのか。
キラの身体が悲鳴を上げていた。

ダーナとマナを守るガインの身体も、限界が来ようとしていた。
すでに、叫び声は聞こえない。全身を赤く染め、したたる血はダーナやマナに降り注ぐ。

「ガインさん!・・ガインさん!・・もう・・これ以上・・わたしのために!
だめです!死んでしまいます!・・ガインさん!」

ダーナは自分たちを守るガインに叫ぶ。その目からは大粒の涙が溢れ、幾筋もの流となって
ガインの血を洗い流す。

そして決意したように、大きな声で叫んだ。

「魔女!砂漠の魔女!・・もう充分でしょう!あなたが欲しいのはわたしでしょう!
また連れて帰って!・・・みんなを傷つけるのはやめて!」

「聞いているのでしょう!・・・わたしを・・わたしを・・・・」

だが、ガインがダーナの声を遮った。

「ならねえ!姫様を犠牲にする事はならねえ!」

「でも・・でも・・ガインさんが!・・ガインさんが・・」

「・・・・こんな・・・姫様をこんな地獄に突き落としたのは・・俺たちだというのに・・・・そんな俺をかばう事なんて・・・・・姫様・・姫様!」

ガインが泣いていた。目からは血の涙が溢れている。



「・・・・おとう・・・ないている・・のか?・・・・おとう・・・・」

マナがガインを見上げ、不思議そうに見つめている。
その顔には、さっきまでの狂気が消えていた。

「おとう・・・・なんで泣いてるんだ?・・おとう」

正気に戻ったのだ。

「マナ・・マナ・・・・・よかった・・・よかった・・・・姫様だ・・・お前の・・・お前の母親だ・・・・・・・・・・」

そこまで言うとにっこりと笑い・・事切れた。

「おとう・・・?おとう?・・・・・おとう?」

マナが何度よんでも返事をしない。

「おとう・・?・・おとう?・・・・・おとう?・・・おとお〜っ!」

「ガインさん!い、いやあ〜っ!」

じゅぶ・・じゅぶじゅぶ・・・・・・

ガインの身体を突き抜けて。触手がダーナとマナに迫っていた。


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