ダーナ氷の女王 第二部 第6話 5

キラが村から去って幾日かが過ぎた。
村は一応平穏を取り戻したかに見える。
だが、村のあちこちに残る、破壊の跡は、村人達の心から
恐怖の念が去っていない証拠だ。

ガインはあいかわらずむっつりと口を閉ざし、なにも語ろうとはしない。
村人達もはれ物にでも触るように、そのことにふれようとはしない。

全ての村人が砂漠の魔女を恐れている。村人達は口々に言った。

今回の事件は砂漠の魔女の仕業に違いない。
下手に逆らえば、なにをされるかわからない。
あのキラとかいう奴は信用ができない。
出て行ってくれてせいせいした。

かっては緑の大地だったこの大陸が、そのほとんどが砂漠となって
多くの獣人達がこの地を離れた。わずかに今の村人達が海岸沿いのこの地で
細々と暮らしている。
この土地を失っては生きてはいけない人々ばかりだ。
彼らの考えを否定することはできない。

キラが去った後、マナはめっきりおとなしくなった。
毎日元気に飛び回っていたのがうそのように。家にいることが多くなった。

猫族じゃない・・・??
グリンウエルのお姫様・・・??

それってなに?どういうことなの?
マナの幼い頭をキラの言葉が渦巻いた。
そして、以前から感じていた、海の向こうへの郷愁・・・。
自分がなんなのか、どうしてこんなことが起きるのか。
マナには全く理解ができなかった。

ガインはなにも語ろうとはしない。
そして、普通ならいるはずの母親のこと。
今までは当たり前に思ってきた生活が、疑わしくも感じていた。

だが、そんな思いを話す相手もいない・・。

いつしか、マナはキラと最初に出逢ったあの高台へと向かっていた。

キラが帰ってくればいいのに・・・。

キラとはあうたび、喧嘩をしていた。
それはこんな感情を持つ以前のことだ。

村の危機の時、キラの活躍がなければ村は化け物達によって滅びていたに違いない。
なのに、村の人たちはキラを嫌い、追い出してしまった。
いや、マナにはそうとしか思えなかった。

高台から見える海に日が沈んでも。マナはそこを動こうとはしなかった。

キラが現れて、ガインと激しく争った。そして怪物達の襲撃。わずかな間に、マナの心は揺れ動き
そして、マナの感情全てを支配するようになってしまった。

キラが帰って来ればいいのに・・・。

マナは再びつぶやいた。当たりにはだれもいない。
誰も答えてくれるはずもないのに・・。

「キラにあいたいの?・・・」

「え・・・?」

マナの後から女性の声が聞こえた。
聞いたこともない美しい声。

そして、なぜか懐かしい声・・。マナは振り返った。

そこには、見たこともない衣装を着た、銀髪の女性が立っていた。

「キラにあいたいの・・・・・?」

それは、ダーナ姫。にこやかに微笑んだその瞳に、マナは懐かしささえ覚えた。

「う・・・・・ん」

マナはおもわずうなずいた。
マナにはわかろうはずもない、それが自分の母親であることなど・・。

「・・・じゃあキラのところに行きましょう?わたしと一緒に」

ダーナ姫が両手を大きく開いて、マナを迎える。
マナは誘われるように近づくと。ダーナの手の中に、そして、安らかに眠りに落ちていった。

だが、ここにダーナ姫がいようはずもない。
マナを手中に収めた途端。その口は裂け、銀色の髪は漆黒の色へと変わっていった。

それは、砂漠の魔女であった。
魔女はマナを抱えると、暗黒の闇へと消えていった。

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