みだら人形(第4話)


翌日早朝レッスンを終えると英里子はいそいそと着替えはじめる。
といっても、いつものように、軽くシャワーを浴びて、新しいタイツレオタード着ると
その上に制服を着出す。
「またあ!」
かおりが呼び止める。
だが、英里子はあかんべをすると、出かけようとする。
今度はゆかりが通せんぼをする。
「止めても無駄なのは判りますが。せめて、ちゃんとした格好をしてください」
「へ?」
英里子はゆかりの反応に驚いた。
「そうそう、制服の下はレオタードとタイツなんて小学生のバレエ少女じゃないんだから。
ちゃんと下着を着て!」
かおりも追従。英里子は面食らってしまった。
「だってえ!ブラとショーツだけじゃまだ寒いよ・・・・」
ゆかりのかおりは顔をあわせた。
かおりが
「キャミソールとか、ミニ用のぺチコートとか持ってないの?」
「え?あ、そおういうの苦手で・・・」
「中○生かよ・・・・」
かおりは呆れた。確かにバレエ莫迦は認める。でも、年齢なりのおしゃれは必要だとも思
う。それは美を追究するバレエという芸術を高めるためにも必要だと。
「バレエってアクロバット体操じゃないんだからね!」
「へ〜い」
英里子はまた、ぺろりと舌をだした。
「それじゃあお客様に会いに行くのに失礼でしょ。いいわ、あたしたちが行って、選んで
あげる・・・・」
ゆかりはそう言うと、かおりと一緒にショッピングに連れ出した。
「やくそくがあ・・・・」
「だあめ!そんなんじゃ美星女子学園の学生として私たちが恥ずかしいです。きちんとし
てからね」
「そんなあ・・・」

ゆかりとかおりの作戦だった。英里子を引きずり回して、あのいかがわしい人形師の元に
行くのをやめさせようと。
何しろ寮の帰宅時間は厳しい。ぐずぐずしていればあっという間に時間になる。
そう企んで、英里子を引き回した。

だが、その計画も。
「ええ〜サイズがない?・・・・ってスワニルダちいさい・・・・」
「下手をすれば小学生サイズ・・・・」
「ほんとにあんた18歳〜」
小柄な英里子にあうすてきなランジェリーなど有りはしなかったのだ。
「結局グンゼかよ・・・・」
かおりがつぶやいた。
ゆかりも頭を抱えた。
結局買ったばかりのグンゼのキャミソールとパンツに着替えて店を出た。
ものの15分もかからなかったのだ。
店を出るやいなや、目の前に車が止まる。車の中からはあの人形師が現れた。
「おやおやここに?おそいのでお迎えに来ましたよ・・ささ・・・」
なんという手際の良さ、結局3人とも人形師の元に行かざるを得なくなった。



「ささ、むさ苦しいところだが。入って入って・・・」 「おお、折角お嬢さん達が見えたんだ、今紅茶を・・・」 3人は工房へと招かれた。 あちこちに作りかけの人形がおいてあって、部屋の中心には、工作台のようなモノも見え る。 「あの、すぐ失礼しますからけっこうです」 かおりが言うが、人形師はさっそと奥の部屋に入っていってしまった。 「こまったわね・・・」 ゆかりが心配そうに言う。 だが、当の本人英里子は、珍しいものを見付けた子供のように周りを見つめている。 ・・・・・ ・・・・・ 奧へ行ったきりの人形師がさっぱり帰ってこない。 ゆかりとかおりの不安は益々高まる。 「ねえスワニルダ・・・失礼しようよ」 英里子はその言葉には耳を貸さない 「ねえねえ・・・かおり。見てまるでコッペリウスの工作部屋みたい・・・」 「え?・・・・」 「ほ、ほんとに・・・・」 さっきからろくに部屋の中を見なかったゆかりとかおりは、英里子の言葉に改めて 部屋を見回す。 確かに、部屋の中にあるピエロの人形とか、舞台そのまま。 「・・・ということは。あの奧にあるカーテンの中にコッペリアが・・・」 英里子はそう言うと部屋の奥に歩いていく。 「ちょ、ちょっとスワニルダ!」 部屋の奥のカーテンを見付けると、本番のスワニルダよろしくカーテンを開ける。 その中には。 「・・・・・いた、あたしそっくりのコッペリア・・・」 「うそ・・・」 ゆかりもかおりも英里子に続いた。確かに英里子そっくりのコッペリアが。 だが、3人がコッペリア人形に気を取られているとピエロの人形達がのっそりと 立ち上がった。

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